番外編ショートストーリー:心温まる鍋は『結束』という名のスパイスで
前回の覇王アンドレアに続き、今回はロイたちの素顔が垣間見えるショートストーリーです。
ネクロゴンドの森深く。
死霊術師アルフィリオンを討ち、アンデッド軍団を沈黙させたロイたち一行は、ダークエルフの残党を魔族たちが捜索している間に、野営の準備を進めていた。
日が暮れると気温は瞬く間に氷点下まで下がった。吐く息も凍る極寒の世界になったが、岩陰のテント周辺だけは、不思議な熱気に包まれていた。
「おらぁッ! 焼けたぞ! 食え食え!」
ドワーフの戦士ガガンが、焚き火の上に吊るした雪猪の巨大な肉塊をナイフで削ぎ落とし、皿に放り投げる。
「ちょっとガガン! もっと上品に取り分けられないの? 脂が飛んでるじゃない!」
エルフの弓使いシルフが、眉間に青筋を立てて抗議する。彼女の自慢の金色の髪には、確かに肉汁が少し跳ねていた。
「ガハハ! 細かいことは気にするな! 戦の後のメシは、野蛮なぐらいが一番うめぇんだよ!」
「もう……これだからドワーフは」
シルフは溜息をつきつつも、渡された肉を一口食べ、「……悔しいけど、焼き加減だけは完璧ね」と小声で呟いた。
そんな二人の喧嘩を、ロイは苦笑しながら眺めていた。
「まあまあ二人とも。……でも、本当に助かったよ。ここ、寒すぎて眠れそうになかったから」
ロイが背中を預けているのは、岩壁ではなく、白竜シャヴォンヌの温かい腹部だった。
シャヴォンヌは丸くなり、まるで巨大な猫のように喉を鳴らしながら、自らの体温で一行を温めていたのだ。
『……礼には及ばないわ、我が主よ。それにしても』
シャヴォンヌがテレパシーで語りかけながら、呆れたようにガガンを見る。
『その猪、さっきまで私のブレスで凍っていたものよね? よく食べるわね』
「へっ、竜のブレスで瞬間冷凍された肉は、鮮度が落ちねえから極上なんだよ!」
ガガンは懐から金属製の携帯ボトルを取り出した。
「ほら、ロイ。お前も飲むか? ドワーフ特製の『着火剤』だ。一口飲めば、へその下から火が点くぜ」
「えっ、あ、じゃあ少しだけ……」
ロイが恐る恐る口をつけると――。
「ぶほッ!? げほっ、ごほっ!」
強烈なアルコールとスパイスの刺激に、ロイはむせ返り、涙目になった。
「あはは! ロイ、顔が真っ赤よ!」
シルフが腹を抱えて笑う。
「ガハハ! まだまだお子様だな王子!」
『……やれやれ。私の主を壊さないで頂戴』
焚き火を囲む、種族の違う四人(と一頭)。
エルフは野菜を出し、ドワーフは肉と酒を出し、人間がスープを作り、ドラゴンが熱源となる。
そこに捜索を終えた魔族らが合流し、言葉も文化も違う十三人(と一頭)が、一つの鍋をつつき合う。
「……ねえ」
落ち着いた頃、シルフがホットワインを片手に呟いた。
「私、最初は不安だったの。ドワーフなんて野蛮だし、人間は頼りないし。……でも、悪くないわね、こういうのも」
「へっ、素直じゃねえな耳長。俺様の斧に惚れたって言えよ」
「調子に乗らないで。……でも、背中は任せられるって思ったわ」
シルフが微笑むと、ガガンは照れ隠しのように鼻を鳴らした。
「ロイ、お前はどうだ?」
ガガンに水を向けられ、ロイは夜空を見上げた。
極北の空には、美しいオーロラが揺らめいている。
「僕は……嬉しいんだ。父上やマクマリスさんが言っていた『結束』って、きっとこういうことなんだなって」
ロイは仲間たちの顔を見渡し、少しはにかんで笑った。
「みんなと一緒なら、どんな敵が来ても負ける気がしないよ」
「……ちっ、王子様スマイルには勝てねえな」
「本当ね。……さ、冷めないうちにスープを飲みましょ」
死の森と呼ばれたネクロゴンドにも、確かな春の風が吹いていた。
彼らが「伝説の英雄」と呼ばれるようになるのは、もう少し先の話である。
いかがでしょうか?
「種族の違い」がありながらも、最後は一つの鍋を囲み「結束」を確かめ合う彼らのワンシーンを楽しんでいただけていれば幸いです。
明日より本編再開です!
【次回の予告】
「完璧な『罠』を喰い破れ! 大陸最強の同時反撃作戦、開始!」
ディネルースに作戦の全てが筒抜けであることを知った覇王アンドレア。
しかし、その絶体絶命の状況で彼が浮かべたのは、凶悪で、心底楽しそうな笑みでした。
「敵が『知っている』と確信していることこそが、最大の勝機だ」
敵の自信を逆手に取った、三方面同時奇襲作戦!
ネクロゴンドの頭脳を潰すロイ、オウカの盾を砕くアンドレア本隊、そして水の都の心臓を狙う四天王。
全ての歯車が狂い始めた時、ディネルースの「完璧な盤面」は崩壊の音を立てる!
盤上の逆転劇。三つの刃が女王を貫く。
帝国視点で決戦を振り返る第22話は、明日の21時40分更新です!
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