番外編ショートストーリー:月下の献杯
今回は覇王アンドレアが、好敵手であった源流にだけ見せる、不器用で男臭い追悼のショートストーリーです。
すべての戦いが終わり、オウカの地に静寂が戻った夜。
アンドレア軍が駐留する屋敷の奥――手入れの行き届いた和風庭園の池のほとりに、その男は一人で座っていた。
覇王アンドレア。
大陸を統べる絶対強者は今、無骨な手で一本の徳利を握りしめている。
月明かりに照らされたラベルには、流麗な筆文字で『散り桜』。
ここオウカでしか造れない、源流が生前こよなく愛した辛口の銘酒である。
「……まったく。最後まで手のかかる男だ」
アンドレアは独りごちると、自身の盃に酒を注ぎ、一気に煽った。
「っ……辛いな」
喉が焼けるような刺激。甘みなど微塵もない、まるで剃刀のような切れ味。
それは、源流という男の生き様そのもののような味だった。
アンドレアはもう一つの空の盃を手に取ろうとして――止めた。
代わりに、徳利をゆっくりと傾ける。
トクトクトク……。
静かな水音と共に、透明な雫が池の水面へと落ちていく。
「飲め。貴様が守りたかった里の、水と月だ」
波紋が広がり、水面に映っていた満月がゆらりと揺れる。
アンドレアの脳裏に、昼間の光景が蘇る。
自らの腹を短刀で貫きながら、それでも最期まで膝をつかず、晴れやかに笑って逝った男の顔。
敵である自分にさえ敬意を払い、武士としての誇りを貫き通した、美しくも愚直な姿。
「……なぁ、源流よ」
アンドレアは、揺れる月に語りかけた。
「俺は、貴様との戦いを楽しんでいたぞ。……貴様のような男が隣にいれば、この退屈な覇道も、もう少し楽しかったかもしれん」
返事はない。ただ、夜風が桜の枝を揺らし、数枚の花弁が池に舞い落ちただけだ。
アンドレアは再び自分の盃に酒を注いだ。
今度はゆっくりと、その味を舌で転がす。
「……ふん。不味くはない」
最強の王と、最強の侍。
言葉を交わすことはもう二度とないが、同じ月を見上げ、同じ酒を分け合ったその夜。
覇王の横顔は、いつもの傲岸不遜なものではなく、友を偲ぶ一人の男のそれだった。
いかがでしたでしょうか?
昼間の「動(激しい戦い)」に対し、夜の「静(追悼)」を表現しました。
「辛いな」という一言に、酒の味だけでなく、友を失った喪失感、辛さを重ねています。
アンドレアというキャラクターの深みと、源流へのリスペクトが伝わっていれば幸いです。
次はネクロゴンドでの激戦を終え、アルフィリオンを討ち取った直後のロイたちの、ほっこりとするショートストーリーを公開予定です。
明日の21時40分更新です!
◾️面白かったら下の☆☆☆☆☆で応援をお願いします! 次話執筆の励みになります!




