第17話:その剣豪は桜と散る。~二人の王と一振りの短刀~
【前回までのあらすじ】
戦場に「最初の波乱」が巻き起こる。
連邦の魔導砲による先制攻撃を、ヘギルの改修した『アルゴス』が驚異的な耐久力で凌ぎきった。その隙に、ロイたちは白竜シャヴォンヌと共に北の禁地「ネクロゴンド」を急襲。
死霊術師アルフィリオンが放つ不死身の怪物アビス・ゴーレムに対し、ガガンの衝撃波とシルフの魔弾が炸裂する。ロイの剣がアルフィリオンを貫き、連邦の重要な戦力である「アンデッド軍団」の供給源は、完全に断たれたのだった。
オウカの国境線は、常春の桜が咲き乱れる、美しい戦場と化していた。
サムライの長、源流は、本陣の丘の上から眼下に広がる戦況を冷静に見つめていた。
「来たか、アンドレア」
地響きと共に、帝国の赤き軍勢が雪崩を打って突撃してくる。覇王アンドレア自らがバハムートを駆り、先陣を切っていた。
「全軍、迎撃! 陣形を崩すな!」
源流の号令一下、オウカのサムライたちが一斉に抜刀し、帝国軍と激突する。
同時に、サムライたちの間をすり抜けて、ネクロゴンドから送られたアンデッド兵団(第一軍団)が、痛覚のない盾として帝国兵の槍を受けていく。
「ふん、数だけは揃っているな」
源流は戦況を冷静に分析する。
サムライとアンデッドの連携は完璧だ。帝国軍は手強いが、このオウカの地で足止めするには十分。
(すべてはディネルース様の計画通り)
源流は、遥か南西、ワーウルフ領の森に潜むアンデッド第二軍団に意識を馳せた。
(今頃、アルフィリオンの第二軍団が、アンドレアの背後を突く手筈。この大軍も、間もなく挟撃され、桜の肥やしとなる……)
彼は、己の勝利を微塵も疑っていなかった。
◇
その異変は、突如として訪れた。
激しく剣を交えていたはずのアンデッド兵たちが、ピタリ、と一斉に動きを止めたのだ。
「……? どうした、アルフィリオンの操り人形どもが」
源流が眉をひそめた、次の瞬間。
帝国兵の剣を受けても倒れなかったアンデッド兵たちが、まるで砂の城が崩れるかのように、一斉に塵となって崩れ始めた。
第一軍団だけではない。源流には見えないが、ワーウルフ領で奇襲の時を待っていた第二軍団もまた、同じ瞬間に機能を停止し、土くれへと還っていた。
「な……んだと……?」
源流の脳裏に、最悪の可能性がよぎる。
(アルフィリオンが……ネクロゴンドが、やられたとでもいうのか? 馬鹿な! あそこはヘギルの国の向こう側だぞ!?)
戦場は、一瞬の静寂の後、阿鼻叫喚に変わった。
盾を失ったサムライたちが、帝国の圧倒的な物量の前に、次々と斬り伏せられていく。
◇
「退くな! 立て直せ!」
源流が必死に叫ぶが、崩壊は止まらない。
さらに、戦場の側面――ハーフリング領側から、新たな軍勢が現れた。
「第二軍団か!? いや、違う!」
それは、アンデッドではない。緑の衣を纏い、農具や猟銃を手にした、ハーフリングの義勇軍だった。
彼らは、アンデッド(第一軍団)が突如として自壊したのを見て、好機とばかりに帝国軍の援護に駆け付けたのだ。
「タフリンめ……! あの土百姓どもが!」
サムライだけでは、もはやどうにもならない。
アンドレア本隊と、ハーフリングの増援。オウカの戦線は、瞬く間に蹂躙された。
◇
「……これまで、か」
源流は、血に染まった桜を見上げ、静かに刀を握り直した。
そこに、漆黒のドラゴン、バハムートが舞い降りる。
「見事な戦いぶりだった、サムライの長よ」
覇王アンドレアが、竜上から源流を見下ろす。
「我が軍門に下れ、源流。貴様のその武、ディネルースに捧げるには惜しい」
「……笑わせる。我らサムライに、降伏の二文字はない」
「そうか」
アンドレアは残念そうに頷くと、バハムートから静かに降り立った。
「ならば、武人として礼を尽くす。……かかってこい」
「御免!」
二人の王が、激突する。
「神速・燕返し!」
源流が目にも止まらぬ速さで愛刀『桜花』を振り抜く。視認不可能な三連撃がアンドレアの急所を襲う。
だが、覇王は驚異的な反射神経でその全てを大剣の腹でいなした。
キンキンキンッ!!
火花が散る。アンドレアは防御の反動を利用し、そのまま体重を乗せた強烈な一振りを見舞う。
ブンッ!!
空気が爆ぜるごう音。まともに食らえば岩をも粉砕する一撃を、源流は紙一重で回避する。
「流石は、覇王」
距離を取り、重心を落として再び構える源流。その瞳に揺らぎはない。
「お前もだ、源流」
アンドレアも大剣を正眼に構える。
一瞬の静寂。
戦場の喧騒が遠のき、二人の周りを桜の花弁だけが祝福するかのように舞い落ちる。
「シッ!」
源流が切り込む。風のような踏み込みから、変幻自在の剣筋が走る。
アンドレアはそれに合わせ、物理法則を無視した剛力を振り抜く。
力と技の極致。
すんでのところで剛剣をかわし、源流が懐に飛び込む。
「貰った!」
そのまま『桜花』の切っ先を覇王の胸部に向ける。必殺の間合い。
だが、アンドレアは退かなかった。あえて前に出て、源流に体当たりを敢行する。
「ぬんっ!」
「ぐはっ!?」
鋼鉄の塊にぶつかったような衝撃を受け、源流が吹き飛ぶ。
倒れ込んだ源流に対し、容赦なく大剣を振り下ろす覇王。
源流は地面を転がってかわす。
ドォォン!
大地が割れる。
アンドレアのパワーと、源流のテクニック。
両者の戦いは互角。一合ごとに衝撃波が走り、舞い散る桜を散らしていく、まさに神技の応酬だった。
だが、源流はすでに察していた。
(オウカは落ちた。頼みの綱であったアンデッド軍団は消え、ディネルース様の作戦は完全に読まれていた)
(背後で守るべき国は崩壊しつつある。もはや、この戦いに勝利はない。あるのは、一人の武士としての潔い死に場所のみ)
ガキンッ!
激しい鍔迫り合いの中、至近距離で源流はアンドレアの燃えるような瞳を見た。
「……貴様の勝ちだ、覇王」
源流は静かに告げた。
「最後に頼みがある」
「なんだ?」
アンドレアは剣圧を緩めずに問う。
「無益な殺生はするな。女、子供。それに武器を持たぬ者は見逃してくれ」
その言葉に、アンドレアはふっと口元を緩めた。
「何を言い出すかと思えば……。そんなこと、言われるまでもない。俺は虐殺者になりたいわけではない」
「……その言葉、信じるぞ」
源流は納得したように頷くと、一気に力を開放してアンドレアを弾き飛ばし、距離を取った。
「だが、我が魂まではくれてやらん」
源流は愛刀『桜花』を鞘に納めると、懐から一振りの短刀を取り出した。
質素だが、丁寧に手入れされた美しい短刀。
その刃に映る自分の顔を見つめながら、源流の意識は、遠いあの日へと飛んだ。
まだ、この大陸が泥沼の戦争に沈む少し前。
友を救うために走った、あの日の記憶へ――。
【次回の予告】
物語は、第十八話から衝撃の過去へと遡ります!
そこには、愛刀『桜花』を腰に、義理と人情に生きた若き日の源流の姿がありました。
帝国の急襲により地獄と化した「常凪の里」。親友を救うべく駆け抜ける源流の前に現れたのは、不敵な笑みを浮かべるハイエルフ、ディネルース。
「死地に向かう貴方を見て見ぬフリなんてできなくてよ」
ネクロゴンドの長とサムライの長になる男。交わるはずのなかった二人が、同じ馬に跨り戦場へ向かう――。
なぜ彼はディネルースに忠誠を誓ったのか? あの短刀に込められた、語られざる「恩義」の真実がついに明かされます!
運命の邂逅を描く第18話は、明日の21時40分更新です!
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