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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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第14話:その射手は魔弾を放つ。~紅葉の森の恋と誓い~

【前回までのあらすじ】

 決戦に向けた改修が進む中、ドワーフのガガンは商人ヘギルと対峙する。金に汚い守銭奴だと思っていたヘギルだったが、その実態は、国民の生活を守るために泥水をすすり、職人の誇りを捨てきれずにいる「ボス」の姿だった。


 ヘギルから魂の結晶である特注の戦斧を託されたガガン。二人のドワーフの間に、種族と立場を超えた奇妙な絆が芽生え、連合軍の士気は一層高まっていく。

 決戦を前に、シルフは一人、アンドレア帝国の西に広がる深い森へと足を運んでいた。

 「帝国のエルフたちが暮らす集落がある」と、カーラから聞いたからだ。


 森の奥へと進むと、木々の間に優美な曲線を描く住居が見え始めた。自然の樹木を傷つけず、共生するように作られたその景観は、シルフの故郷「クリア」そのものだった。


 ただ一点を除いては。


 建物の入り口や広場には、帝国への忠誠を示す鮮やかな「赤」い布や旗が掲げられ、植えられている花々も深紅の薔薇や紅葉樹が目立つ。


「クリアとは色が違うけれど……懐かしい風が吹いている」


 シルフが呟くと、見張りのエルフたちが姿を現した。彼らはシルフの姿――同族でありながら異国の衣装を纏う者――を認めると、警戒することなく微笑みかけ、手招きした。


「ようこそ、同胞よ。遠き島からの旅人と聞いている。さあ、休んでいくがいい」


    ◇


 集落の広場で、シルフはこの地を束ねる長老と対面した。

 クリアの長老ほど高齢ではなく、壮年の知性を漂わせる男性のエルフだ。


「ようこそ、旅人よ。私はこの集落で長を務めている者、名をスーリンディアという」


「長老様、私はエスペル島のクリアより参りました、シルフと申します」

 シルフは丁寧に会釈をし、これまでの旅の経緯――島での戦い、魔王との共闘、そして宇宙からやってくる脅威について説明した。


 スーリンディアは静かに聞き入っていたが、やがて深く息を吐いた。

「ほう……その話が本当だとすれば、厄介な話だな。その招かれざる客を追い返すために、この大陸の戦争を終わらせたいと……」


「はい。それが魔王、そして私たちの意向です」


 スーリンディアは自嘲気味に笑った。

「エルフとは本来、自然との調和や平和を愛する種族。終わらせるために戦いに駆り出されるとは、皮肉な話だ」


「……この集落も、帝国の一員として連邦と戦っているじゃないですか」

 シルフが指摘すると、スーリンディアの表情が曇った。

「望んだことではない。覇王の意向によるものよ」


 彼は声を潜め、シルフに問いかけた。

「シルフ、覇王の噂は知っているか?」

「噂は……ですか?」


「かつてこの大陸で最も平穏な場所と讃えられた『常凪とこなぎの里』が北の地にあった。……彼らは覇王への協力を拒み、虐殺されたという噂があってな」


 シルフは息を呑んだ。

「そんな……。覇王にお会いしましたが、とてもそんなことを許す方には思えません」

 あのアンドレア王が、無抵抗の民を虐殺する? あの真っ直ぐな瞳を持つ男が?


「真相は分からない。しかし、根拠のない噂は立たないものだ」

 スーリンディアは遠くを見つめた。


「もし逆らえば、我々も同じ運命を辿るかもしれん。ここの民を守るためにも、我々は覇王に協力せざるを得ないのだ」


「……長老様は、覇王がお嫌いですか?」


「いや……実際に接して感じたことだが、彼はよく出来た人だ。カリスマがあり、兵士への情も厚い。……しかし、この泥沼の戦争を始めた張本人でもある」


 スーリンディアの顔には、割り切れない複雑な感情が滲んでいた。

 彼は気分を変えるように、広場の中央を指差した。


「あそこで若者たちに剣術を教えている男の名はサイロスという。帝国の将軍として、兵士たちを率いている者だ。私よりも覇王との距離は近い。……気になるなら、彼から話を聞いてみるのもいいだろう。ゆっくりしていきなさい」


    ◇


 広場の中央では、一人の男性エルフが剣の稽古をつけていた。


 名はサイロス。長い銀髪を後ろで束ね、エルフにしては珍しく、腰に長剣をいている。


「ハッ!」

 サイロスの気合いと共に、振るわれた剣身が青白い炎を纏う。

 魔法剣だ。魔力を刃に乗せ、物理と魔法の複合攻撃を繰り出す高等技術。


「見事な腕前ね」

 シルフが思わず声をかけると、サイロスは剣を収め、爽やかな笑顔で振り返った。

「おや、貴女が……」

 サイロスの言葉が止まった。


 彼の目はシルフの顔に釘付けになり、そのまま彫像のように硬直してしまった。

 風になびく金色の髪、意思の強さを宿したみどりの瞳。


 サイロスは生まれて初めて、雷に打たれたような衝撃――一目惚れをしたのだ。


 シルフは固まったサイロスを見て心配そうに覗き込む。

「ど、どうしたの? 大丈夫?」

「美しい……」

 サイロスは、つい心で思ったことを口走ってしまった。


「えっ、な、なに!?」

 シルフが顔を真っ赤にする。


 我に返ったサイロスも、耳まで真っ赤にして慌てふためいた。

「あ、あーっ! ご、ごめんなさい! 何でもないです! 独り言です! 今のは剣の話で……いや違う!」


 二人はバツが悪そうにモジモジしていたが、意を決してサイロスが口を開いた。恥ずかしくてシルフの顔を直視できない。


「わ、私はサイロスといいます。貴女が噂のシルフ殿ですよね。カーラ様から聞いています。弓の名手だとか」


「そんな、名手だなんて……。サイロスは帝国の将軍なんですよね」

「はい。決戦では、私も覇王様の主力部隊として前線に出ます」


 少し落ち着きを取り戻したところで、シルフは気になっていたことを尋ねた。

「あの……この集落の長老様から、変な噂を聞いたんだけど」

「常凪の里の件ですよね?」

 サイロスはすぐに察したようだった。


「私が帝国軍に入る前の話なので、詳細は知らないんですが……私は将軍になった時に、アンドレア様に直接聞いたことがあるんです。『本当に虐殺をしたのですか』と」


「……アンドレア様は、何と言ったの?」


 サイロスは横目でチラッとシルフを見たが、シルフがまっすぐと見つめているものだから、慌ててまた目を逸らした。


「『俺が信じられるか? 信じられるならついて来い。信じられないなら好きにしろ』……そう仰いました」


「真相を語らなかったってこと?」


「はい。弁解も否定もしなかった。……でも、私は信じることにしました。あの方の背中を見ていれば分かります。アンドレア様は、無益な殺生をするような方ではありません。ディネルースとは違います」


 サイロスの言葉には、確固たる信頼があった。

 シルフは頷いた。

「うん、そうだよね。私も信じる。あの白竜が認めたエレノア様のお兄様だもの」


    ◇


 二人はすぐに打ち解けた。


 木陰のベンチに座り、シルフはこれまでの旅路を語った。エスペル島での敗北、魔王との共闘、ハーフリングの王との出会い、そして水の都での裏切り。


 サイロスは目を輝かせて聞き入っていた。


「素晴らしい……! 私はこの集落と帝国の規律の中で生きてきました。貴女のように、世界を見て、多様な価値観に触れる冒険にずっと憧れていたのです」


 サイロスはシルフに向き直り、勇気を出して伝えた。

「全ての戦いが終わったら……一緒に旅をしませんか?」


「旅?」

「はい。シルフ殿はエスペル島を、私はこの大陸を案内します。二人で、世界を見て回るんです」


 シルフは驚いたが、すぐに花が咲くような笑顔を見せた。

「エルフが旅だなんて……でも、面白そう。いいわよ」

「本当ですか! やったぁー!」


 サイロスは喜びのあまり立ち上がり、ガッツポーズをした。

 シルフはそんなサイロスを微笑ましく見つめていた。


「次の戦い、私が命に代えても貴女をお守りします」

 サイロスが真剣な眼差しで言う。


「ありがとう。でも……一緒の部隊にいるかな? 戦場は広いわ」

「確かにそうですよね……そうだ! いい事を思いつきました!」

 サイロスは自身の剣を抜いた。


「私の剣は、魔力を刃に『付与エンチャント』することで、斬撃を炎や氷に変えます。……シルフ殿、貴女の弓にその技術を応用すれば、もっと戦いの幅が広がるはずだ」


「弓に、エンチャントを?」

 シルフは自身の愛弓を見つめた。

「矢に魔力を込めることはあるけれど、それはあくまで自分の魔力。属性を付与し、維持したまま放つのは至難の業よ」


「コツがあります。イメージするのです。矢を放つのではなく、魔力の道筋を空中に描き、そこを矢になぞらせる感覚です」

 サイロスはシルフに手を差し出した。


「決戦までまだ時間はあります。私の技術、貴女に伝授しましょう。……私の技術が、離れていても私に代わって貴女を守ってくれるはずです」


    ◇


 その日から、シルフの特訓が始まった。


 最初は矢に込めた魔力が霧散してしまったり、矢自体が魔力に耐えきれず空中で弾け飛んだりと失敗が続いた。


 だが、サイロスの丁寧な指導と、シルフの持ち前のセンスが徐々に実を結び始める。


「そうだ! 矢じりに魔力を集中させ、弦を弾く瞬間に開放する!」

 ヒュオッ!

 シルフが放った矢は、空中で赤熱し、着弾した瞬間に爆発的な炎を巻き上げた。


「できた……!」

「完璧です、シルフ殿! 今の貴女なら、どんな堅牢な鎧も、魔法障壁さえも貫けるでしょう」

 サイロスが拍手を送る。


 シルフは額の汗を拭い、充実感に満ちた笑顔を見せた。

「ありがとう、サイロス。貴方のおかげで、私はもう一つ強くなれた」

「絶対に死なないでください。二人旅、楽しみにしています。……さあ、もう一本!」


 静かな森に、二人のエルフの気合いと、風を切り裂く音が響き渡る。


 かつては「自然の守り手」として閉じていた森のエルフが、外の世界を知り、新たな技術を受け入れる。

 シルフの矢は今、ただの矢ではない。仲間を守り、未来を切り開くための「魔弾」へと進化していた。


 準備は整った。


 ロイの白き翼、ドワーフの魔導の斧、そしてエルフの魔弾の弓。

 絆によって磨かれた「最強の三本矢」が、ここに完成した。

【次回の予告】

 熱狂の「赤」か、冷徹な「白」か。


 ついに一ヶ月の刻が流れ、大陸の命運を懸けた最終決戦の火蓋が切って落とされます!


 すべてが激突する、大陸史上最大の戦いが始まる第15話は、明日の21時40分更新です!


◾️面白かったら下の☆☆☆☆☆で応援をお願いします!次話執筆の励みになります!

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