第13話:その職人は魂を打つ。~黄金の枷と未練~
【前回までのあらすじ】
白き竜との契約を果たしたロイたちの裏で、連邦議長ディネルースもまた冷酷な罠を張り巡らせていた。
帝国の作戦を完全に見抜き、包囲殲滅と魔導砲による超長距離射撃を画策するディネルース。彼女は絶対的な勝利を確信し、冷たく微笑む。
帝国軍の格納庫では、昼夜を問わず火花と轟音が飛び交っていた。
ガイアス兵の精密機械技術、魔族の魔法工学、そしてヘギル率いるドワーフ職人たちの鍛造技術。本来なら交わるはずのない三者の技術が、空飛ぶ船『アルゴス』の修復と改修のために注ぎ込まれていた。
「おいおい、本当にあと二週間で終わるのかよ?」
その様子を冷やかしに来たのは、ガガンだった。
彼は帝国兵たちへの稽古の合間を縫って、進捗を見に来たのだ。
作業指揮を執っていたヘギルは、葉巻を噛みながら振り返った。
「心配すんな、田舎モン。俺の部下たちは優秀だ。それに、ガイアスの連中も魔族も、意外といい働きをしやがる」
ガガンは鼻を鳴らし、近くにあった木箱にドカッと腰掛けた。そして、鋭い視線をヘギルに向けた。
「……さっき、兵士たちの武器を見せてもらったぜ」
「ほう? 帝国の装備は悪くないだろう」
「ああ、質はいい。だがな、そこにお前の国の刻印があったぞ。『鉄鋼共和国製』のマークがな」
ガガンの声に、怒気が混じる。
「連邦側についておきながら、裏では敵である帝国にも武器を流してやがったのか。戦争を長引かせて、金儲けするために」
ヘギルは悪びれる様子もなく、肩をすくめた。
「ビジネスだと言ったろ? 顧客を選り好みしてちゃ、国は回らんのさ」
「ふざけんな!」
ガガンが立ち上がり、ヘギルに詰め寄る。
「お前がばら撒いた武器で、どれだけの血が流れたと思ってやがる! なのに、なんで今更こっちに肩入れする? この戦争が終われば、お前の商売だってあがったりだろうが!」
ヘギルは葉巻の煙をガガンの顔に吹きかけ、ニヤリと笑った。
「考えが浅いな。ロイ王子の話が本当なら、戦争が終わった後には『宇宙からの客』が来るんだろ? なら、武器の需要はなくなりゃしねえ。むしろ特需だ」
「なんだと……」
「それにな」
ヘギルは声を潜め、真剣な目をした。
「ディネルースは、俺が帝国とも取引してることに勘づいてる節がある。あの女は合理的だが、裏切りは許さんタイプだ。戦争が終わって連邦が勝てば、次は俺が消される番だ」
ヘギルは自身の首筋を指でなぞった。
「いつ消されるかという恐怖に怯えて生きるより、ロイ王子やアンドレアの『賭け』に乗った方が、生存確率は高い。……俺はな、自分の命も、社員(国民)の生活も守らなきゃならんのだ」
◇
「……ついて来い。見せたいものがある」
ヘギルはガガンを促し、格納庫の隅に設けられた仮設オフィスへと連れて行った。
中は書類の山だった。発注書、設計図、資金繰りの帳簿。
ヘギルは自分の背丈よりも大きな金庫を開け、布に包まれた「ある物」を取り出した。
「以前、俺に言ったな。『使い手の命を預かる覚悟がねえ』と」
ヘギルが布を解くと、そこには一本の戦斧が現れた。
工場で量産されていた無機質な鉄塊ではない。武骨だが、細部までこだわり抜かれた重心設計、柄の滑り止めに施された丁寧な革巻き。一目で、熟練の職人が魂を削って打ち上げたものだと分かった。
「こいつは……」
ガガンが息を呑む。
「俺が打った。久しぶりにな」
ヘギルは愛おしそうに斧の柄を撫でた。
「俺だって、本音じゃ毎日鉄を叩いて暮らしてえよ。最高の武器を、それを使いこなす最高の戦士に渡す。それがドワーフの夢だ」
しかし、ヘギルは自嘲気味に笑い、金色の歯を見せた。
「だがな、俺は『ボス』だ。俺の背中には、何十万という国民の生活がかかってる。夢や情熱だけで飯は食えねえ。泥水をすすってでも、頭を下げてでも、金を稼いでこいつらを食わせなきゃならん」
ヘギルはその斧を、ガガンに突き出した。
「これは俺の『魂』の切れ端だ。情熱を捨てて、黄金の枷をはめた俺が、それでも捨てきれなかった未練だ」
ガガンは震える手で斧を受け取った。ずしりと重いが、驚くほど手に馴染む。
「……いい仕事だ」
「当たり前だ。機能も特注だぜ」
ヘギルが得意げに説明する。
「その斧には、特殊な魔導回路を埋め込んである。外気に漂う魔力を勝手に吸い上げ、刃に蓄積する。振るうたびに、切っ先から衝撃波として魔力が噴出する仕組みだ」
「衝撃波だと?」
「ああ。刃が直接当たらなくても、カスっただけで相手の骨を砕く。対アンデッド、対重装甲、どちらにも有効な最強の一振りだ」
ガガンは斧を軽く振ってみた。ヒュン、という風切り音と共に、微かな青い光の残像が走る。
「……すげえ」
「くれてやるよ。俺が持ってても、せいぜいオブジェになるだけだ。お前なら、コイツの性能を引き出せる」
ガガンはヘギルの顔を見た。そこには、守銭奴の商人の顔ではなく、一人の誇り高き職人の顔があった。
「ヘギル……あんた、やっぱりドワーフだ。最高の職人だぜ」
「へっ、よせやい。……さあ、行け。俺はシールドの調整に戻る。納期を守らねえと、信用問題に関わるからな」
背を向けて歩き出すヘギル。その背中は、ガガンには以前よりずっと大きく、そして逞しく見えた。
ガガンは新しい相棒を背負い、深く一礼した。
「ありがとよ、ボス。こいつで必ず、未来を切り開いてくるぜ」
決戦まで、あとわずか。
職人の魂を受け取った戦士は、新たな力を手に、来るべき時を待つ。
【次回の予告】
決戦の火蓋が切られる直前、シルフは帝国の紅き森で一人のエルフと出会う。
その名はサイロス。魔力を刃に宿す「魔法剣」の使い手。
「貴女の弓に、私の技術を授けましょう」
伝承されるのは、矢に属性を宿す技術。
ロイの翼、ガガンの斧に続き、シルフの弓が戦場を支配する「魔弾の弓」へと覚醒を遂げる第14話は、明日の21時40分更新です!
◾️面白かったら下の☆☆☆☆☆で応援をお願いします!次話執筆の励みになります!




