第102話:その魔王は深淵の国に孤独なる特攻を期す。~暴かれた水晶の巨城~
【前回までのあらすじ】
夜の港で、戦いの後のささやかな未来を語るララノアに対し、マクマリスはあまりにも残酷な真実を告げる。
究極の自爆兵器『雷爆弾』の起爆者……それは「時間逆行の印」を持つ、マクマリス自身だった。
彼自身は死なないとしても、それは彼女たちから見れば「今のマクマリスとの永遠の別れ」を意味する。「守るって約束したじゃない!」と涙ながらに拒絶し、駆け去っていくララノア。
悲痛な空気が漂う中、ついにヘギルから最悪の報せが届く。――深海にて、敵母船、発見!
王城の特別司令室。
部屋の中央に設置された巨大な魔導モニターには、潜水艇のソナーと魔法カメラが捉えた、深海一万メートルに沈む『敵母船』の映像が投影されていた。
「……相当、大きいな……」
映像を見たマクマリスは、思わず息を呑んだ。
それは船というより、海底に根を下ろした巨大な『大陸』そのものだった。幾何学的なクリスタルの装甲が、深海の闇の中で不気味な脈動を繰り返している。
「ああ。ソナーの反響から推定したサイズだが……なんと『九万平方キロメートル』はある。一つの国と変わらねえ」
ヘギルが汗を拭いながら報告する。
「中にいる敵の兵隊の数は、十万、二十万どころの騒ぎじゃない。……五百万体はいても、おかしくない大きさだ」
「五百万……。倒しても倒しても、次から次へと無限に湧いて出てくるわけだ……」
マクマリスは眉間を揉んだ。
「俺が作った『雷爆弾』でも、これだけデカいと一撃で船全体を完全破壊するのは無理だ」
ヘギルが図面を指差す。
「動力炉を爆破した瞬間、船体が崩壊し、生き残った数百万の敵が船内外に溢れ出てくるぜ。地獄絵図だ」
「敵と交戦することになるのは仕方ない。だが、せめて奴らが進化して対応してくる前に、動力炉と敵の『頭脳』だけでも破壊できれば……」
「爆弾をもう一個、作れってか? お前さんは一人しかいない。動力炉で自爆するなら、誰が『頭脳』の方でもう一つの爆弾を起動するんだよ?」
ヘギルの痛い指摘に、マクマリスは沈黙した。
「……」
「爆弾は必要ねえ」
部屋の隅で腕を組んでいたウルスヌスが、重い口を開いた。
「その『頭脳』ってやつは、でっかいコンピューターか何かか?」
「恐らくな。母船の中心部にある、マザーコンピューターみたいな馬鹿でかい制御塔をイメージしてる」
ヘギルが答える。
「よし、じゃあそいつは、ザルティムの爺さんが一撃で破壊する」
ウルスヌスがニヤリと笑った。
「あの爺さんにはな、覇王様に威力がデカすぎて使用を禁止されてる、スーパーな魔法があるんだ」
「火力はあっても、ザルティムは足が遅い。この広大な船内を、敵の目を掻き潜って捜索するには不向きだ」
マクマリスが現実的な懸念を示す。
「大丈夫さ。鼻の利くカーラに道案内させて、足の遅いザルティムは俺が背負って運ぶ。そっちの道案内はできなくなるけどよ」
「破壊した後、数百万の敵がひしめく船内で乱戦になる。私は動力炉で爆発に巻き込まれるため、転移魔法で貴様らを外に逃してやることもできない。……生きて帰れる保証はないぞ」
「俺にはお前たちが作ってくれた『ギガント・ギア』がある。心配すんな! 帰り道は、力任せになんとかするさ」
ウルスヌスが頼もしく胸を叩いた。
「……感謝する」
マクマリスが短く頭を下げる。
「いいってことよ。……でもよ、爆弾はほんとに、あんたが起動するつもりか? 確実に死ぬぞ?」
「私は死なない。過去に戻るだけだ」
「けどよ……あの、なんつったっけ?」
ウルスヌスがヘギルを見る。
「……ララノアのことか?」
「そう、ララノアだ。あいつ、死ぬほど悲しむぜ」
ヘギルは下を向いて黙り込んだ。彼もさっきのやり取りを聞いていたからだ。
「……個人の感情よりも、この星から奴らを駆逐することを第一に考えるべきだ」
マクマリスは冷徹に言い放った。
「そうだけどよ……なんかしっくりこねーっつーか……」
ウルスヌスが頭を掻く。
「貴様がしっくりくる、こないは関係ない。私は勝つために、最善の選択をするだけだ。……念の為、覇王、ザルティム、カーラにも確認した上で、頭脳破壊部隊の編成を決定する」
「あいよ。ところで、あんたは『動力炉』の方へは、誰と行くつもりだよ?」
「……動力炉は、私一人で破壊しに行くつもりだ」
「おいおいおい、それは賛成できねえ!」
ヘギルが猛反発した。
「起爆後、転移魔法で外に出すことができないと言ったはずだ。死地に行くのであれば、犠牲は最小限の『私一人』に絞るべきだ」
「馬鹿野郎! 一人じゃ、不測の事態に対応ができねえだろうが!」
ヘギルが机を叩く。
「起爆前に、敵の親玉みたいな奴に出くわす可能性だってあんだぞ!? あんたが道中でやられたら、動力炉の破壊自体ができなくなる。そしたら、こっちは全滅だ! あんた一人の肩だけに世界の未来を託すのは、軍事作戦としてリスクが高すぎるんだよ!」
「……」
マクマリスはヘギルの正論に言葉を詰まらせた。
確かに、これまでの戦いでも予期せぬ事態は何度も起きた。単独潜入で全てがスムーズにいく保証など、どこにもない。
「確かな戦力と、あんたを守る盾になる奴が絶対に必要なんだよ……!」
ヘギルが必死に食い下がる。
「……確かにな」
マクマリスは一旦議論を打ち切るため、通信機を取った。
「この件は少し時間をくれ。……ガイアス王、聞こえるか」
『おお、魔王殿か。聞こえておるぞ』
通信機から、潜水艇に乗っているガイアス王の緊迫した声が響く。
「ディネルースはそこにいるか?」
『ええ、聞いているわよ』
ディネルースの不機嫌そうな声が混ざる。
「見ていると思うが、敵船は予想以上の大きさだ。……予定通り、船の周りの海を割れそうか?」
『問題ないわ。私とレヴィアタンの魔力ならいける。……でも、海を割ったら、あっちが水圧や水流の変化に気づくんじゃない? 隠密潜入どころじゃなくなるわよ』
「ガイアス王、どう思う?」
『あくまで技術者としての予想だが……彼らも潜水艇と同じように、海水を取り込み、何らかの変換を行って発電し、船を維持しているのではないだろうか』
「なるほど。海が割れて水がなくなれば、発電の稼働が止まり、敵が気づくということだな?」
『いや、これほどの巨大な船だ。非常時に備え、莫大な電気の『備蓄』はしているはずだ。備蓄電力を使い切るまでは、異常に気づかない可能性は十分にある。見たところ、外部を確認する窓もなさそうだしな』
「分かった。ご苦労。……これ以上は危険だ、こっちに戻ってきてくれ」
マクマリスは決断を下した。
「覇王や源流、アルフィリオンたちを大陸から招集し、このガイアス王国で『最終作戦会議』を始める」
【次回の予告】
「『俺たちを頼れ!』魔王の孤独を撃ち抜く熱い咆哮と、宵闇に現れた秘書官の狂気!」
決戦に向け、ウルスヌスが駆る強化外骨格『ギガント・ギア』の最終テストが完了!
圧倒的な力で演習場を蹂躙する野獣の姿を背に、天才職人ヘギルは「自爆」という重すぎる荷物を一人で背負おうとするマクマリスへ、「俺たち全員で戦うんだ!」と魂の咆哮をぶつける!
ヘギルの熱い覚悟と、自身の非道な野望の間で揺れるマクマリス。
一方、夕暮れの演習場に一人残ったヘギルの前に、憔悴しきった姿のララノアが現れる。愛する者を失う絶望に囚われた彼女の瞳には、狂気にも似た執念の火が宿っており……。
魂の咆哮。
第103話は、明日の21時40分更新です!
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