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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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第1話:その英雄は地に堕ちる。~落日の始まり~

 ガイアス王国、王立図書館の最奥。


 静寂に包まれた古文書庫の一角に、『魔界大戦』に関する一冊の歴史資料が眠っている。

 その一節、「魔王復活」の項には、かつてこの地を襲った未曾有の危機がこう記されていた。


 ――三百年前、魔王ガングダードが傘下の魔族を率いてガイアス王国の南にある古城より現れ、エスペル島全土は瞬く間に戦禍に見舞われた。


 圧倒的な暴力の前にエスペル島が闇に沈もうとした時、種族の垣根を越えて集結した八人の勇者が立ち上がる。彼らの英雄的な奮闘により、ガングダードは敗れ、その邪悪な魂は封印された。


 それは色褪せたインクで綴られた、過去の伝承。

 平和に慣れた人々にとって、単なる御伽噺おとぎばなしに過ぎないはずの物語だった。


 だが、歴史は繰り返す。


 古城の沈黙は破られ、伝説は現実の悪夢となって蘇る。

 そして今、再びエスペル島は戦火にさらされようとしていた。

「ガイアスが、落ちたそうです」

 その一報は、アレフ王国の円卓の間を凍りつかせるのに十分だった。伝令の兵士は蒼白な顔で、震える言葉を絞り出した。


 国王アレフドリア十五世は、玉座のひじ掛けを強く握りしめた。三百年もの間、物語の中でしか語られなかった「魔王」という単語が、現実の脅威として喉元に突き付けられた瞬間だった。

「馬鹿な。大陸で最も進んだ技術を持つガイアスが、こうも容易く……」


 側近が呻く。

「魔王軍は南の古城より湧き出で、瞬く間にガイアスの機械化部隊を鉄屑に変えたと……」


 アレフドリア王はゆっくりと立ち上がった。その目には、かつての英雄の血を引く者としての矜持が宿っていた。

「三百年前の再現だ。我らが先祖が成し遂げた偉業を、今一度この手で為す時が来たのだ。直ちに全土へ使者を送れ。四カ国会議を招集する!」


 父王の言葉に、末席に控えていた王子ロイは胸を熱くした。幼い頃から聞かされてきた英雄譚。種族の垣根を越え、悪を討つ輝かしい歴史。それが今、自分の時代に蘇ろうとしている。


「父上、私も戦います。先祖の名に恥じぬよう」

 ロイの決意に、王は力強く頷いた。


 しかし、現実は物語のように美しくはなかった。

 招集に応じたのは、北の砂漠を支配するトーザのみ。


 中央山岳地帯のドワーフ国家ゴンドラは、「人間の尻拭いは御免だ」と使者を追い返した。

 南東の森に住むエルフの国クリアに至っては、森への立ち入りすら禁じる結界を強め、完全に沈黙を守った。


「愚かな……今、団結せねば個々に撃破されるだけだというのに!」

 トーザとの二カ国会議の席上、アレフドリア王は憤りを隠せなかった。トーザの代表も重苦しい表情で頷く。

 戦力は足りない。だが、手をこまねいている時間もなかった。


 軍議の末、一つの作戦が立案された。


 魔王軍の次なる標的は、地理的に見て中央のゴンドラである可能性が高い。頑固なドワーフたちが魔王軍を引きつけている間に、アレフ・トーザ連合軍が横合いから強襲をかける。


 そして、その混乱に乗じて精鋭による別働隊が、手薄になった敵本拠地・古城へ潜入し、魔王の首を取る――「陽動作戦」である。三百年前に先祖が成し遂げた偉業をなぞろうというのだ。


「別働隊の指揮は、私が執ります」

 ロイが名乗り出た。危険すぎる任務だが、英雄の血筋である彼が先陣を切ることでしか、この無謀な賭けに兵士たちの士気は繋ぎ止められなかった。


    ◇


 集められた別働隊は、ロイを含めたアレフの騎士三名、トーザの砂漠戦士三名。

 そして、出発の直前、予想外の者たちが姿を現した。


「国が滅べば、商売もあがったりだ。個人的に手を貸してやる」

 巨大な戦斧を軽々と担いで現れたのは、ゴンドラのドワーフ、ガガンだった。国の決定に背いて来たという。


「森の精霊たちが悲鳴を上げている。これ以上、けがさせるわけにはいかない」

 音もなく現れたのは、クリアのエルフ、シルフ。彼女もまた、里の掟を破って参じたのだ。


「これで八名。かつての英雄たちと同じ数だ」

 ロイは彼らの手を固く握りしめた。種族は違えど、志は同じ。物語の再現は、ここにある。彼らは希望そのものだった。


 別働隊は南東へ向かった。クリアの深い森をシルフの先導で抜け、ゴンドラの険しい山岳地帯をガガンの知識で踏破する。本来なら数週間かかる難所を、彼らはわずか数日で駆け抜けた。


 すべては順調だった。肉体は疲労の極みに達していたが、精神は昂揚こうようしていた。


「予定通りだな。魔王軍はまだ動いていないようだ」

 山頂から古城を見下ろし、ロイは安堵の息をついた。古城は静まり返っており、大軍が出払った後のようにも見えた。


 だが、その時。


 ロイの懐に入れていた通信用の魔道具が、微かな光とともにノイズを吐き出した。

『――緊急……報告! 魔王軍が……進路を変更! ゴンドラではなく……北のトーザへ向かって……』


「なんだと!?」

 ロイは耳を疑った。


『さらに……敵軍の中に……ガイアスの旗を確認! あれは……ガイアス軍です! 彼らは魔王軍の先兵として――』

 通信はそこで途絶えた。


「馬鹿な……ガイアスが、裏切ったというのか?」

 トーザの戦士が動揺し、声を荒らげる。

「いや、洗脳されているのかもしれん。だが、まずいぞ。本隊の作戦が根本から崩れる!」


 魔王軍はゴンドラを無視し、手薄なトーザへ向かったのだ。アレフ・トーザ連合軍は、予定していた決戦の地ではない場所で、しかも想定外の「友軍」を相手に戦うことになる。


「引き返すか、ロイ?」

 ガガンが低い声で問う。


 ロイは古城を見つめた。不気味なほど静まり返った、元凶の地。

 今戻ったところで、戦局は覆せない。むしろ、本隊が苦戦している今こそ、敵の頭を潰す唯一の好機かもしれない。


「いや、進む。予定通り、魔王を討つ。それがこの戦争を終わらせる最短の道だ」

 ロイの決断に、全員が覚悟を決めた頷きを返した。


 それが、蜘蛛の巣へ自ら飛び込む行為だとは知らずに。


    ◇


 古城への侵入は、拍子抜けするほど容易だった。

 崩れた城壁の隙間から潜り込み、かつて栄華を誇ったであろう広大な回廊を進む。警備兵の姿はほとんどない。


「静かすぎる……」

 シルフが弓を構えながら呟く。

「まるで、招かれているみたい」


 その予感は、彼らが中央のエントランスホール――かつての謁見の間に足を踏み入れた瞬間に現実となった。

 重厚な扉がひとりでに開き、広大な空間の中央にある玉座に、その影はあった。


 人ならざる異形の角、深淵のような闇を湛えた瞳。

 魔王が、頬杖をついて彼らを見下ろしていた。

「ようこそ、英雄の末裔たちよ。待っていたぞ」

 その声は、彼らの脳内に直接響いてくるようだった。


「……最初から、気づいていたのか」

 ロイは剣を抜き、切っ先を魔王に向ける。震えそうになる手を、必死の意志で抑え込む。

「我々の動きも、本隊の作戦も、すべて!」


 魔王は薄く笑った。

「人間とは、なんと愚かで愛おしい生き物か。三百年前と同じ物語をなぞれば勝てると信じている。我らが三百年の間、ただ眠っていたとでも思ったか?」


 魔王が指を軽く鳴らす。


 ホールの影から、無数の異形の兵士たちが湧き出した。さらに、その背後には、虚ろな目をしたガイアスの重装歩兵たちの姿もあった。


「総力戦? 違うな。これは蹂躙だ」


    ◇


 戦いは、一方的だった。


 個々の武勇で勝る別働隊も、圧倒的な数と、何より魔王自身の底知れぬ力の前に、為す術がなかった。


 最初にトーザの戦士たちが、ガイアス兵の放つ魔導銃の斉射を受けて倒れた。


「ガアアアッ!」

 ガガンが戦斧を振り回し、数人の魔族をなぎ倒すが、その背後から魔王の放った黒い雷に打たれ、炭となって崩れ落ちた。


「ガガン!」

 シルフが援護の矢を放つが、魔王はそれを素手で払いのける。次の瞬間、彼女の姿は魔王の影に呑まれ、消滅した。


「やめろ……やめてくれ!」

 ロイは叫びながら剣を振るう。だが、刃は魔王に届くことすらない。


 アレフの騎士たちが王子の盾となり、次々と命を散らしていく。


 最後に残ったのは、ロイただ一人だった。


 傷だらけで膝をつく彼の前に、魔王がゆっくりと歩み寄る。


「貴様の父は、実に良い働きをしてくれた。各国を焚き付け、無様な連合軍を組織し、我らの前に差し出してくれたのだからな」


 魔王の手が、ロイの首にかかる。

「……く、そ……」

「安心しろ。じきに父も、民も、すべて貴様と同じ場所へ送ってやる」


 ロイの視界が霞む。


 薄れゆく意識の中で、懐の魔道具が再びノイズ交じりの声を吐き出したのが聞こえた。

『……連合軍……壊滅……アレフ王は……降伏を……』


(ああ、父上……申し訳ありません……)

 英雄の物語は、ここで終わった。


    ◇


 ロイ王子の敗北と死の報せは、瞬く間に戦場を駆け巡った。

 希望を失ったアレフ・トーザ連合軍は完全に崩壊し、魔王軍とガイアス軍の前に膝を屈した。


 その後、ようやく重い腰を上げたゴンドラのドワーフ軍が、疲弊したはずの魔王軍に決死の突撃を敢行したが、ガイアス軍の最新兵器の前にあえなく玉砕した。


 すべてが終わった後、森に閉じこもっていたクリアのエルフたちは、血を流すことなく城門を開き、魔王への恭順を誓った。


 かつて英雄が愛した島ーーエスペル島は、こうして再び闇に覆われた。

 太陽は沈み、長い夜が始まったのだ。

▼活動報告にて、エスペル島の地図を公開しています。

 ぜひご覧ください。地図はこちらから。

 https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3560278/



【次回の予告】

「英雄は散り、希望は潰えた」

 ――そう信じたのは、あなたと彼らだけ。


 玉座の魔王は、倒れ伏す英雄を見下ろしてこう呟いた。

「骨の折れる仕事だ。だが、これで『舞台』は整った」

 なぜ彼は手心を加えたのか? 彼が恐れる「真の敵」とは?


 絶望の裏側に隠された、驚愕の真実。

 次回、世界の見え方が180度覆る、魔王視点の「解答編」が幕を開ける。

 明日の21時40分更新です!


◾️面白かったら下の☆☆☆☆☆で応援をお願いします!次話執筆の励みになります!

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