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殺人蛍  作者: 佐宮 乃慧


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9/9

第四章 影を掬う

 午前10時。

 県警本部の記録保管室。

 厚い鉄扉が閉じられるたび、古い紙の匂いと乾いた空気が混じり合う。


 久遠刑事は、棚番号C-17の引き出しから一つのバインダーを取り出した。

 クリーム色の厚紙には、S58・未解決/水沢朱里と印字されている。

 事案番号と管理印が押された紙封筒が数枚、ホッチキスで綴じられていた。



 昭和58年7月15日 午後10時頃

 水沢朱里(7歳)所在不明との届出あり。

 家族による捜索及び通報。

 翌16日午前8時、村内川沿い(通称・蛍沢)にて遺体発見。


 発見現場:蛍沢下流 約30メートル地点

 体位:仰向け、両腕開き

 損傷:頸部圧痕なし、腹部切開(直径約6センチ)。

    臓器一部欠損。

 死因:失血性ショック

 推定死亡時刻:15日午後8時〜9時頃


 現場付近より血痕反応複数。刃物の特定至らず。

 遺体周囲に発光昆虫(蛍)多数死骸、指輪(OK刻印有)確認。



 久遠は静かにバインダーを閉じると、上着のポケットから小さな透明袋を取り出した。

 中には今朝拾い上げた指輪が入っている。


 金属の表面は泥を落としてもなお鈍く曇り、年月を経たような深い傷が幾筋も走っていた。

 光の角度を変えると、刻まれた文字が再び浮かび上がった。


 “O” “K”

 

 久遠はまじまじと見つめた。

 ——水沢朱里、名前のどこにもOとKを含まない。


「真白透、お前は何を知っている....。」

 思わず声が漏れた。



 棚の奥で、蛍光灯が微かに鳴った。

 記録保管室は静まり返っている。

 だが久遠の耳には、遠くで水の音がしていた。

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