男爵令嬢、現れる!
このお話は第2話となります。
ご注意下さい。
前回の事があってから、なるべくアマンダと一緒に過ごすことにした。
けれど、ずっと一緒に居る事は難しくて。
「あの、私!マーギス男爵家の長女クレージュと申します。突然、すみません!私と付き合って頂けないでしょうか?!」
こうして、ちょっとした隙をついて、人気の無い所に呼び出されて告白されてしまった。
……いや、なんで!?
しかも、男爵家!?
一般市民なら、ちょっとは分かるよ!?
モテ期!?
そんなの、いらないよ!!
はーーーー。
すぅーーー。
一旦、落ち着こう。ここは冷静になるべく穏便に対応しないと。
「……すまない。僕には婚約者が居るんだ。だから、付き合う事は出来ない」
暗に貴族用語で僕の事を知らないわけは無いよね?と言ってみる。
本来、学校外であれば、権力を使って黙らせた方が手っ取り早い。
しかし、ここは由緒正しき国立魔法学校の敷地内だ。
校訓に‘’学生のうちは学生らしく過ごすこと。
卒業したら、水に流すべし〟
というものがある。
なんだこれって思うけど、要は権力を使わずに皆を友人と思って接しようってことらしい。
僕は結構、好きな方針だ。
肩肘張らずに色んな人たちと会話出来るし、知らない知識や風習を学べたりするんだ。
強制ではないから、守らない生徒もいるんだけどね。
それを承知でこうして、来てるんだろうな、クレージュ嬢は。
「あの、でも、私、本当に好きなんです!考えては貰えませんか?!」
クレージュ嬢の栗色の瞳が潤んで今にも泣き出しそうだ。
ーーーーーうん。これは違う。
『熱量が全く無い』
僕の中に宿る魔力がそう訴えている。
前の女生徒は少なからず僕に好意を持っていた。瞳に熱量があったから。
なんで、そんな力があるのかって?
僕の一族って昔は魔法師を数多く輩出していたんだ。
でも、200年前に魔力の源であるマナが突然、枯渇した。原因は今でもはっきりしていない。
生活の一部にもなっていた魔法が消えてしまったから、当時はかなり混乱したと記録にある。
血縁により、多少の魔力を次世代へ繋ぐ事は出来たものの、段々と魔力は弱くなっていった。
やがて、完全に魔力は無くなるだろうと言われている。
それが僕。
火や水は出せない。
ドラゴンを召喚したりも出来ない。
僕が出来るのは相手の目を見て感情を温度で見分けるだけ。
でも、この力は確かに役立っている。
僕にしか分からないけれど、僕を見つめるアマンダの瞳は春の陽射しのような暖かさなんだ。
あ。思い出した。
魔法師の一門って、ウィンレッド男爵家もそうだった。
僕のクラスにディード・ウィンレッドがいるんだけど、確かクレージュ嬢と婚約してたよね……。
最近、ディードがアマンダのファンクラブに入ったって聞いた。
もしかして、アマンダに嫉妬して、こんなことをしている??
「クレージュ嬢、ディードとはちゃんと話をしているかい?」
そう聞いてみるとクレージュ嬢の顔が一気に強ばった。熱量も少し上がった。
どうやら、当たりだ。
「今、ディードは関係ないじゃないですか」
「いいや?関係あるよ。君の婚約者じゃないか。
政略で婚約したようだけど、君の様子を見ると互いに好きみたいだね」
「え………、す、き?ディード、が…?」
段々とクレージュ嬢の瞳の温度が上がって、熱湯のように感じる。
僕は頭のなかで魔力をオフにする。
これ以上は火傷してしまいそうだ。
クレージュ嬢は考えが追い付かなくて、ポロポロと泣き出してしまった。
さっきの嘘泣きより、こっちがいいな、断然。
「あれ、リノア?とクレージュ?こんなところで、どうし……っクレージュ!?
リノア、俺の婚約者に何をした!!」
赤い髪に緑の瞳。浅黒い肌の男子生徒が通りかかるなり、僕に迫る。
ディードだ。
タイミングが良すぎる。
これはアマンダの仕業に違いない。
「ディード、ちょうど良かった。クレージュ嬢が不安がっているんだ。ちゃんと話を聞いてやれ」
僕の目の前まで来たディードは隣に居たクレージュ嬢に向き直る。
「そう、なのか?クレージュ、すまない!!」
ディードはがしっとクレージュ嬢を抱き締める。
「違うの、私が勝手に……」
「じゃあ、後は頼んだ」
「ああ。リノア疑ってすまない。ありがとう」
無言で僕は手を振る。
この二人はもう大丈夫だろう。
さてと。
裏庭の東屋から女子寮へ続く通路に出る。
たぶん、この辺りにいるはず。
あ、いた。
僕の愛おしいお姫様。
「あら?リノア?もう用事は終わったんですの?」
事の顛末を知っているのに、きょとんと惚けたが可愛すぎる……!
魔力を切っているはずなのに、なんかキラキラの光がアマンダの周りに見えてる。
僕はもうかなりの重傷だな。
「ディードを連れてきてくれて、ありがとう。さすが、僕のアマンダだ。惚れ直した」
言いながら、僕はアマンダを抱き締める。
ふわふわで、優しい花の香りがする。
「そ!?んなことは、当然、ですわ!?リノアが困っていたら助けるのは当たり前でしてよ!?」
ドクドクと、アマンダの心臓が跳ねている。
僕の心臓も同じくらい跳ねてる。
僕は今、とても幸せだ。
どうか、ずっとこの幸せが続きますように。
同刻 王城内教会
「成功だ!召喚が成功したのだ!!これで、枯渇していた魔力は復活する!!
さあ、我らが聖女さまの御降臨だ!!」
光輝く魔法陣の中心で気絶して倒れている黒髪の女性がいる。
周りには白いローブを纏った神官たちが息を切らせて歓喜している。
嵐は目前に迫っていた。
お待たせしました!
男爵令嬢編です。