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道化師(作:二階堂 玲)

(三田村の、あまりにも壮大で、そして虚無的な詩の解釈に、部室は静まり返っている)


一ノ瀬「宇宙の、終わり……。もう、何と言っていいのか……」


二階堂「感傷に浸るのはそこまでにして。次は、私の番よ」


(二階堂は、静かにノートパソコンを開いた。その冷静な仕草が、部室の空気を再び引き締める)


二階堂「私の詩は、あなたたちのものとは、少し趣が違うわ。これは、ある古典的な物語を、私なりに再構築したもの。そこに、どんな『論理』と『皮肉』を込めたのか。読み解いてみてちょうだい」


(二階堂は、その冷たい瞳で、一度、部員たちを見渡すと、淡々とした、しかし、どこか挑発的な口調で、テキストを読み上げた)


***


道化師

作:二階堂 玲


アルレッキーノは 窓をのりこえた

コロンビーナは 彼と抱き合った

パリアッチオは 二人を刺した

観客はどっと 笑い転げた


***


(二階堂が読み終えると、部室は、先ほどまでの静寂とは違う、困惑と、そして、かすかな恐怖に満ちた沈黙に包まれた)


一ノ瀬「……アルレッキーノ、コロンビーナ、パリアッチオ……。これは、イタリアの古典的な喜劇、『コンメディア・デッラルテ』の登場人物ね。恋人たちの逢瀬、嫉妬に狂った夫の登場……。そこまでは、よくある道化芝居の筋書きだわ。けれど、三行目の『二人を刺した』という、あまりにも直接的で暴力的な展開。そして、何よりも最後の『観客はどっと 笑い転げた』という一行……。一体、どういうことなの? これは、喜劇なの? それとも、悲劇? あまりにも不気味で、後味が悪いわ……」


四方田「ひぃぃっ! こ、これ、一番、怖い詩じゃないですか! だって、人が二人も刺されてるのに、みんな、大笑いしてるってことですよね!? なんで!? 誰も、助けてあげないの!? あまりにも、むごすぎます! この観客たち、人の心がないんですか!?」


三田村「……興味深い構造です。第一行、第二行で提示されるのは、恋愛という、極めて一般的な『物語』の定型。しかし、第三行で、その物語は、物理的な暴力によって唐突に破壊される。そして、第四行で、観測者である『観客』は、その破壊行為そのものを新たな『物語』として消費している。これは、現実と虚構の境界線が、完全に崩壊した状態を示唆しています。この詩の中で本当に死んだのは、刺された二人ではなく、『現実』そのものなのかもしれません」


(三人の、それぞれの角度からの的確な、しかし、どこか戸惑いの含まれた感想を聞いて、二階堂は、ふっと、その口元に満足げな笑みを浮かべた)


二階堂「ふふ。面白いわね。みんな、この詩の持つ『気持ち悪さ』の本質を、かなり正確に捉えているじゃない」


一ノ瀬「玲、教えてちょうだい。この詩の元ネタは何なの? あなたのことだから、きっと、何か元になる物語があるのでしょう?」


二階堂「ええ。これは、レオンカヴァッロ作、オペラの『道化師』への、私なりのオマージュよ。旅回りの一座の座長パリアッチオが、妻コロンビーナの浮気を知る。そして、芝居の舞台の上で、役柄と現実の嫉妬が一体となり、妻とその浮気相手アルレッキーノを、本物の刃物で刺し殺してしまう、という有名な悲劇よ」


一ノ瀬「ああ、あの、有名な……。なるほど、だから、こういう筋書きなのね。……でも、だとしたら、一つ分からないわ。本家のオペラは、観客がそれが本物の殺人だと気づき、恐怖に凍り付くところで幕を閉じるはず。それは、紛れもない『悲劇』よ。でも、あなたの詩の終わり方はまるで、ただの喜劇か、悪趣味な冗談のようだわ。これでは、悲劇とはとても思えないのだけれど」


二階堂「わざとよ」


(二階堂は、きっぱりと言い切った)


二階堂「わざと喜劇のように終わらせることで、私はこの詩を、現代社会に対する痛烈な『風刺』にしたかったの。考えてもみて。私たちは毎日、テレビやインターネットで、他人の悲劇やスキャンダルを、まるで娯楽のように消費しているじゃない? それが、どれだけ生々しい痛みや苦しみを伴う現実であったとしても、モニターの向こう側にある限り、私たちにとってはただの『面白い物語』でしかない。この詩の観客の笑い声は、そういう私たちの、麻痺してしまった倫理観そのものなのよ。この詩の中で本当に恐ろしいのは、道化師の狂気ではない。全てを笑って見過ごす、観客の『正気』の方なの。……悲劇をただの悲劇として描くだけでは、もう私たちの心には何も響かない。だから私は、あえてこの物語を、笑い声で締めくくったのよ」


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