『奥の細道・リタイトルチャレンジ』
日付:20XX年某月某日
場所:文芸部部室
議題:『東海道中膝栗毛』のタイトルに見る言語的魅力と、その応用について
出席者:一ノ瀬詩織(部長)、二階堂玲(副部長)、三田村宙、四方田萌
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一ノ瀬「さて、皆! 本日の議題は、江戸時代が生んだ最高のロードノベルであり、痛快ドタバタコメディの金字塔! 十返舎一九作、『東海道中膝栗毛』よ!」
(一ノ瀬、テーブルに古風な和綴じの本を置く)
四方田「ひざくりげ! 知ってます! 弥次さん喜多さんっていう、おっちょこちょいな二人が旅する話ですよね? 行く先々でトラブル起こして、なんかもう、ほとんど珍道中みたいな!」
一ノ瀬「その通りよ、四方田さん! 江戸は神田の住人、弥次郎兵衛と喜多八の二人が、お伊勢参りを目指して東海道を旅する物語。しかし、彼らの行く手には、勘違いやすれ違い、そして自らの早とちりによる失敗の数々が待ち受けている! これぞ、我が国の旅行文学における、不滅のマスターピースよ!」
二階堂「……お話は知っていますが、現代的なコンプライアンスで言えば、ただの迷惑系旅行者の記録ですよね? 宿屋を騙したり、無銭飲食まがいのことをしたり。褒められたものではありません」
三田村「……確認します。これは、二つのヒューマノイドユニットが、バグとヒューマンエラーを頻発させながら、指定座標への到達を目指すも、その過程で多数のサイドクエストを失敗し続ける、という内容のログだと解釈してよろしいですね」
一ノ瀬「解釈は自由だけど、もう少し情緒を大切にしてほしいわね……。まあいいわ。今日の本題は、その内容ではなく、『タイトル』なのよ!」
二階堂「タイトル、ですか?」
一ノ瀬「ええ。『東海道中膝栗毛』……この言葉の響き、実に素晴らしくないかしら? まず、膝栗毛の由来。これは、乗り物に乗る金もない貧乏旅行者が、己の膝を馬の栗毛の代わりに使って、えっちらおっちら歩いて旅をする、という意味が込められているの。そして何より、この語感の良さ! 声に出した時の、軽快で、どこか滑稽な響きが、物語の内容を見事に表現しているわ!」
四方田「確かに! タイトルだけで、なんか面白そうな感じがしますもんね!」
一ノ瀬「でしょう!? タイトルとは、いわば作品の顔! 読者の心を掴む、最初の掴みなのよ! それに比べて、どうかしら! 同じ江戸時代の旅行文学の最高峰でありながら、松尾芭蕉の『奥の細道』! このタイトルは、あまりにも……地味で、固すぎない!?」
二階堂「はあ。まあ、紀行文のタイトルとしては、簡潔で分かりやすいと思いますが」
一ノ瀬「いいえ、玲! これではダメなのよ! 内容は、芭蕉と弟子の曽良が、歌枕を巡り、数々の名句を残した、エモーショナルな旅の記録。それなのに、タイトルが内容の素晴らしさに追いついていない! これでは、手に取るのを躊躇してしまう読者がいるかもしれないわ! これは、文学史における、由々しき機会損失なのよ!」
(一ノ瀬、パン! と柏手を打ち、部員たちを見回す)
一ノ瀬「そこで! 提案します! 題して、『奥の細道・リタイトルチャレンジ』! かの『奥の細道』に、『東海道中膝栗毛』のような、語感が良く、旅の情緒が伝わる、最高のタイトルを付けてあげるのよ! 制限時間は、一時間! さあ、はじめ!」
二階堂「……また、壮大な思いつきで……。まあ、思考の訓練としてなら、付き合いましょう」
四方田「面白そう! 芭蕉と曽良、師弟二人のアツい絆を表現した、エモいタイトル考えちゃいます!」
三田村「……了解。対象オブジェクト『奥の細道』の概念定義を更新。最適な名称へのリネーム作業を開始します」
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(一時間後)
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一ノ瀬「はい、そこまで! では、早速発表してもらうわ! まずは、四方田さんからお願い!」
四方田「はいっ! 私の考えたタイトルは、これです! 『元禄奥州どうでしょう』!」
一ノ瀬「どうでしょう、ですって!? 何よその、投げやりなタイトルは!」
四方田「えー、いいじゃないですか! 元ネタは、平成の伝説的旅番組ですよ! 芭蕉と曽良の珍道中っぽさが伝わって、親しみやすいと思うんですけど!」
二階堂「安易なパロディは感心しないわね。……次は、三田村さん」
三田村「はい。『俳諧座標移動録』です。『俳諧』と、当てもなく歩き回る『徘徊』をかけています」
四方田「座標ってなんですか!? なんか難しそうです!」
一ノ瀬「言葉遊びは面白いけれど、やはり情緒が足りないわね。旅の心が感じられないわ。……では、次は玲よ」
二階堂「私は、『江戸発東北六百里』。芭蕉が実際に歩いたとされる距離を、事実として記述しました」
四方田「数字だけだと、なんだか通販のキャッチコピーみたいで、エモくないです!」
一ノ瀬「そうよ! これじゃあ、ただの地図じゃない! ……では、最後は私ね! 私が考えた、最も文学的で、親しみやすいタイトルは……『みちのくぶらり旅日記』よ!」
二階堂「……部長。失礼ですが、それはあまりにも……普通すぎませんか? 土曜のお昼の旅番組で、毎週やっていそうですが」
四方田「あ、わかります! なんか、ナレーションの声が聞こえてきそうです!」
一ノ瀬「なっ……! 普通ですって!? 普遍的、と言ってちょうだい! 万人が理解できる、最高のタイトルじゃない!」
二階堂「いいえ、事実を客観的に示す私の案が最も優れています」
四方田「絶対、私の『どうでしょう』が一番面白くて、読んでみたくなりますって!」
(三人がそれぞれ自説を譲らず、議論が紛糾し始めた、その時だった。今まで静かだった三田村が、すっとヘッドホンを外し、窓の外を見ながら、静かに呟いた)
三田村「……夏草や タイトル合戦 夢の跡」
(部室は、一瞬の静寂に包まれた。そして、誰からともなく、くすくすと笑い声が漏れ始めた)
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議事録担当・書記(四方田)追記:
今日の議題、めっちゃ面白かった! みんなのネーミングセンスが爆発してて、カオスすぎ(笑)。個人的には『どうでしょう』がイケてると思うんだけどなー。最後の宙ちゃんの俳句が、全部持っていった感ある。うちの部活、やっぱり最高!




