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『現代詩の最前線、マンションポエム』

日付:20XX年某月某日

場所:文芸部部室

議題:現代詩としての「マンションポエム」の考察

出席者:一ノ瀬詩織(部長)、二階堂玲(副部長)、三田村宙、四方田萌


---


一ノ瀬「皆、今日はいつもと少し趣向を変えた議題を用意してきたわ。題して、『現代詩の最前線、マンションポエム』よ!」


二階堂「マンションポエム? なんですか、それ?」


一ノ瀬「ふふふ、知らないのも無理はないわ。これは、私が勝手に名付けたジャンルだから。具体例を見せた方が早いわね」


(一ノ瀬、持参した不動産広告の切り抜きをテーブルに広げる)


一ノ瀬「例えば、これ。『ここに、住むのではない。都心という、時代を纏うのだ』。あるいは、これ。『天空の静寂を、私邸に。地上150mに描く、家族の物語』。そして、極め付きはこれね。『妻よ、ありがとう。息子よ、誇らしく育て。この邸宅が、お前たちの歴史となる』……!」


四方田「あはは! わかります! なんか、めっちゃ壮大で、意識高い系のやつですよね! 見たことあります!」


二階堂「……なるほど。これは詩というより、マーケティング心理学の応用ですね。具体的な機能や性能ではなく、抽象的なイメージ――『理想の自分』や『幸福な家族像』といった“物語”を消費者に買わせるための、高度な言語的トリックよ」


三田村「……一種のミーム汚染。あるいは、現実改変ナラティブ。このポエムを受容した居住者は、自身の主観的現実を、提示された価値観へと無意識に上書きする。これは、居住空間ではなく、思想を売っている」


一ノ瀬「その通りよ! 玲も宙も、よくぞ見抜いたわね! そう、これはただの広告文じゃない。コンクリートの塊に、壮大な物語性を与え、居住者のアイデンティティすら規定しようとする、野心的な現代詩なのよ! この、過剰なまでの自己肯定感! 根拠なき全能感! 素晴らしいじゃない!」


(一人、興奮気味に語る一ノ瀬。そして、パン! と手を打った)


一ノ瀬「そこで、提案があるわ。私たちで、この『私立百合ヶ丘女子高等学院』のマンションポエムを創作してみない!?」


二階堂「……正気ですか、部長。学校は分譲マンションではありません。前提が破綻しています」


一ノ瀬「いいのよ、細かいことは! この学び舎を、一つの『邸宅』に見立てて、その魅力をポエムで表現するの! 制限時間は、一時間! よーい、はじめ!」


四方田「えー! でも、面白そう! やります! 私たちの青春っていう名の、プライスレスな価値をポエムにするんですね!」


三田村「……了解。対象オブジェクト『私立百合ヶ丘女子高等学院』の概念定義を開始。リリカル・モデリングを実行する」


二階堂「はぁ……。まあ、説得的文章の訓練としてなら、付き合えなくもないですけど……」


(四者四様の反応の中、部室の時計が、カチリ、と時を刻み始めた)


---

(一時間後)

---


一ノ瀬「はい、そこまで! では、早速発表会を始めるわよ! まずは、四方田さんから!」


四方田「はいっ! えーっと、テーマは『青春』です!」

「ここに、偏差値は記載されない。

 私たちの『友情』という名の、かけがえのない評定おもいで

 卒業、それは別れではない。永遠の絆を誓う、始まりのチャイム」


一ノ瀬「ううっ……! エモいわ、四方田さん! 女子高生のきらめきが凝縮されているわね!」


二階堂「次は、三田村さん」


三田村「はい」

「座標、北緯36度。

 我々は、ここで過去を学ぶのではない。未来を、実装するのだ。

 少女よ、世界のバグを修正せよ。この学び舎が、あなたの起動キーとなる」


四方田「なんか、すごいカッコいいですけど、やっぱりよく分かりません!」


二階堂「では、私ね。テーマは『合理的選択』」

「知性への投資。揺るぎない未来への布石。

 百合ヶ丘という『解』は、あなたの人生における、最も合理的な命題である。

 感傷に、惑わされるな」


一ノ瀬「玲らしい、隙のないポエムね……。なんだか、オープンキャンパスのパンフレットみたいだわ。……では、最後は私よ!」

「乙女よ、大志を抱け。

 この学び舎は、知の海原へと漕ぎ出す、白亜の船なり。

 進路に、迷うことなかれ。羅針盤は、常に汝の胸の中にある」


四方田「おおー! さすが部長! 一番ポエムっぽいです!」


一ノ瀬「ふふふ、ありがとう! ……さて、品評会だけど、今回は満場一致と言っていいんじゃないかしら? 最優秀賞は――私の作品に!!」


二階堂「……まあ、ポエムという形式の趣旨を考えれば、異論はありません」


三田村「……承認します」


四方田「部長の、一番グッときました!」


一ノ瀬「ありがとう、皆! ――そして、この傑作を、この部室だけで眠らせておくのは、あまりにも惜しいと思わない!?」


二階堂「……まさかとは思いますが」


一ノ瀬「そう! このポエムを、我が校の公式キャッチコピーとして採用してもらうよう、顧問の先生に直訴しに行くわよ! 皆、私に続いて!」


(一ノ瀬、高らかにポエムを掲げ、意気揚々と部室を飛び出していく。他の三人も、呆れながら、あるいは面白がりながら、その後に続いた)


---

(三十分後)

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(部室の長テーブルに、四人は突っ伏していた。空気は、どんよりと重い)


四方田「……まさか、あんな冷たい目で見られるとは……」


二階堂「……敗因は明確ね。『学校は不動産ではない』という、私が最初に指摘した、根本的な前提の誤りよ」


三田村「……顧問の思考プロトコルを要約。『君たち、暇なのか? そんなことより、来週の小テストの勉強でもしたらどうだ。あと、学校を高級マンションみたいに言うのはやめなさい』。以上です」


一ノ瀬「うう……私の、白亜の船が……! 羅針盤が……! ただのポエム好きな生徒の、痛い思いつきみたいに……!」


(わんわんと泣き出す部長の背中を、副部長がぽんぽんと、優しく叩いていた)


---

議事録担当・書記(四方田)追記:

今日の学び→マンションポエムは、マンションだから許される。現実の壁は、思ったより厚くて、詩情がなかった。部長、ドンマイ!


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