表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

目が合った

目が合った 約束編

作者: だんぷてぃ

 目が合った。


 電車の中、つり革につかまりながらぼんやりと窓の外を眺めていたとき、不意に視線を感じた。反射的にそちらを見ると、向かいの座席に座る女性と目が合った。

 彼女はすぐに視線をそらすわけでもなく、じっとこちらを見つめていた。まるで何かを確かめるように。


 ——知り合い?


 そんなはずはない。けれど、どこかで見たことがある気がした。記憶をたどろうとするが、もやがかかったように思い出せない。彼女の表情は穏やかで、それでいてどこか不気味だった。


 次の駅に着き、ドアが開く。彼女はゆっくりと立ち上がると、俺のすぐ横を通り抜けていく。

 その瞬間、かすかに囁くような声が聞こえた。

「やっと見つけた」

 振り返ろうとした瞬間、ドアが閉まり、電車は動き出す。


 ——今の、何だったんだ?


 窓の外、去っていくホームの人混みの中、彼女の姿を探した。しかし、もう見つからなかった。

 胸の奥で、何かがざわめいた。


 数日間、その出来事が頭から離れなかった。あの声、あの表情。何か大切なことを思い出しそうな感覚があるのに、どうしても掴めない。


 そんなある日、偶然にもまた彼女を見かけた。

 今度はカフェだった。店の奥の席で、彼女は静かにコーヒーを飲んでいた。迷うことなく、俺は彼女の前に立った。

「……あなたは?」

 彼女は驚いたように目を見開き、すぐに微笑んだ。そして、小さな声で答えた。

「思い出せた?」

 その言葉に、心臓が強く跳ねた。


 ——俺は彼女を、知っている?


 だが、記憶の糸はまだ絡まったままだった。

「ごめん……思い出せない。でも、何か大事なことを忘れている気がするんだ」

 彼女は少し寂しそうに笑った。

「大丈夫。きっと、また思い出せるよ」

 彼女の声は、どこか懐かしくて、冷たかった。


 その日から、俺は彼女と会うようになった。名前を聞いても彼女は答えず、ただ微笑むだけだった。


 ある日、公園で並んでベンチに座っていたとき、彼女がそっと手を伸ばした。指先が触れた瞬間、頭の奥で何かが弾けた。


 ——思い出した。


 幼い頃の記憶。小さな手を繋ぎながら、一緒に遊んだ少女。俺は約束したのだ。

「ずっと一緒にいる」

 だが、俺は約束を破った。

 彼女はあの日、川に落ちた。俺は手を伸ばしたが、間に合わなかった。そして、彼女は消えた。


「……君は……」

「よかった。やっと思い出してくれたね」

 彼女は微笑んだ。しかし、その笑顔はどこか壊れたように歪んでいた。

 気づくと、俺の手は冷たくなっていた。いや、違う。俺の身体が、冷たくなっていく。

 視界が暗くなる中、最後に聞こえたのは、彼女の囁きだった。


「今度は、離さないから」

この度は、私の小説を読んでくださり、本当にありがとうございました。

物語を最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。

感想などもいただけたら、さらに励みになります。

これからも精進してまいりますので、また読んでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ