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「はぁ……この、下か」


 かれこれ一時間は走っただろうか。

 ツバキは、三年A組や付き添いの方々が閉じ込められたという洞窟の前に到着した。

 入り口が厳重に塞がれ、立ち入ったものへの厳重な処罰をする旨の看板が貼り付けられており、その隙間からは不気味な魔力が吹き抜けていた。


 すでに中では戦闘が始まっている。

 ツバキはその看板を剥がしては立てかけて、人が通れる隙間を作り、迷いなく身を滑らした。


 ***


 その深くで戦いは続く。

 セルディーの周りをリーゼが飛び回り、注意を引いていた。


「っ! 早いが……見える!」


 至近距離まで接近し、セルディーの攻撃をスレスレで回避して距離をとる。そしてまた降下。

 危険な時間稼ぎを申し出たのはリーゼの方だった。


「リーゼちゃん……あんな変態軌道できたんだな」

「黙って魔力を溜めなさい」


 川が流れていた浅瀬、その中心に立つセルディーを囲うようにタレックとレイスの二人、セリナ、エルリオ、ヤクマが魔力を溜めて待機する。


「今だ!」


 エルリオの号令がかかったその瞬間、リーゼは一気に距離を取り橋の上に着地した。


「「「「リーフバインド」」」」


 四人の声が重なり、セルディーの周囲に緑の魔法陣が展開される。

 青々しい草が蔦のように伸びて銀色の鎧を絡め取っていく。

 右足・左足・右腕・左腕を順に固定し、抜け出そうともがくがギチギチと音を立てて、絡みついたツタは逃さない。


「あとは……!」


 エルリオは水を蹴って駆け出した。

 セルディーの越に巻かれたマナグナムドライバーを掴み、脱着用のボタンを押して引き抜こうとする。


「固っ……!」


 当然そう簡単に外れるようにはできていない。

 力任せに引っ張って引き剥がそうと試みる。


「なぁ……いるんだろニコレス! 起きろよ! こんなの似合ってねぇんだから早く外せよ!」


 必死に呼びかける後ろ姿を、リーゼが橋の上から見据えていた。

 魔法を維持し続ける周囲の顔を一望して、その必死さに眉に皺が寄る。


「加勢しないとまずいな……ん?」


 飛び出そうとした直後、自分の背後から魔力がこちらに向かってくる。

 知ってる魔力。だが、ツバキはまだ上にいる。


「マオ!? 危ないぞ!」


 先に脱出を目指したはずのマオが戻ってきていた。

 ローブのように長くて厚い制服とふわふわの髪を跳ねさせながら、軽やかに水辺に飛び出してきた。


「なんでマオちゃんが? おい!」

「待って……あの子、まさか!」


 呼びかけた声にマオは振り返らない。

 魔法を維持する以上、この場から動けず止めにもいけない。


「もう……ちょっと」


 セルディーのドライバーが緩んできた。

 もう少しという段階で、ブチっと嫌な音が響く。


「しま……」


 銀色の左腕が解き放たれ、間髪入れずに振るわれる。

 その腕が、エルリオの目の前で止まった。


「君は……」

「はよ外しちゃってください!」


 信じられない光景だった。

 龍すら圧倒したセルディーの力を、左だけとはいえ、一人の少女が抑えている。

 さらに、その手に真紅のオーラが迸っているではないか。


「“大煌炎”っ!」


 マオの丸い風貌からは想像がつかないほど、希薄の籠った詠唱が叫ばれた。瞬間、少女の全身が真っ赤に染まった。


「早く!」

「……ああっ!」


 驚いている場合ではない。

 いち早くこの姿を解いてやらなければならない。

 残りの力を振り絞り、解除ボタンをさらに深く捻って引く。ドライバーが外れた。


 白い光に包まれ、ニコレスの体が鎧から解き放たれる。

 意識はなく、水に横たわった彼女の体を、エルリオは抱えた。

 その隣で、もう一人鎧が光って人の姿になった。

 ニコレスと共に行動していた、フェクターだった。


「この子……一緒に戦ってたんですね」


 後ろで小さな体を抱えて、静かにつぶやいている。

 水を蹴る音が聞こえて、ニコレスを抱えたまま立ち上がると、こちらに向かってみんなが駆け寄ってきた。


「ニコは無事?!」

「ああ。息はしてる。こいつも、フェクターも」


 マオに抱えられたフェクターはひどくつかれたように呼吸をしており、治癒魔法で手当を受けていた。


「マオ……大丈夫? よかったの? 今の魔法」


 マオの指先が赤くただれているのが見えた。彼女は顔をしかめもせず、息だけ荒い。


「……うん。やらんとあかんって思った。結果論やけど、役に立てて良かったわ」


 レイスとタレックは、マオと合流し戦いの余韻が流れていた。


「……なんだったんだ。今のは」


 そのそばで、リーゼは頭を抑える。

 異常な圧が記憶に強く残っていた。

 そして、背後からやってきたもう一つの魔力に、笑みが浮かぶ。


「……ごめん。遅れた」

「ツバキ!」


 息を切らして到着したツバキに、全員の視線が集まる。

 特にリーゼは駆け足で彼の元へ走った。

滑り込みセーフ

この章が終わったらまた全体的な構成や文を見直しつつ、次章の準備をしようかと思います。

以前と同じように2ヶ月は空かないかと思いますが、なるべく早く更新できるよう努力します。

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