表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/49

星の裏側

 水が滴る音がリズムを刻む薄暗い空間の中、列の崩れた三台の高機動車が、バラバラに停車していた。


「全員無事か!?」


 足元の岩肌にパンプスの音を響かせ、スーツを着ているとは思えない身軽さで前方に止められた車両に急ぐ。

 後方の扉を開けると、リーゼや他の生徒たちがざわめいていた。


「痛ちちち……折れんのかなぁ」

「ヒビ入ってるだけやからすぐ治るで」


 小太りな男子生徒一人が腕を怪我したのか、女子生徒の魔法で手当てを受けている状態。


「ニコ!? 何があったの?」

「私にもわからん! とにかく状況を確認したい。全員外に出てくれるか」


 助手席から振り返る同じギルドの女性社員に声をかけ、運転手の軍人とも協力して高機動車から生徒たちを集めた。


「ツバキ以外は全員いるな」


 最後尾の車両に乗っていた三年A組の担任ヤクマが、硬い岩肌に整列した生徒たちの生存確認を行う。


「この洞窟さ、さっきはずげーぼんやりしてたのに明るくなったな」


 タレックが周囲を見回す。

 湿った洞窟内に生えた苔が淡く光って照らしていたこの洞窟。それが周囲を見回せる程度には明るくなっていた。


「俺が照らしてんだ。あんま長くはもたんだろうけどな」

「へぇ〜。えっと、エルリオさんですっけ」


 左手から白い魔法陣を展開しつつ、周囲の様子を伺っている。タレックの方を振り返りながら右手でキャップを被り直した。


「ああ」


 彼はぶっきらぼうに返事をして、余裕なさげにニコレスと話を進める。


「……それでニコレス。俺は周りの様子を見てくる」

「何があるかわからないんだぞ。私が周辺を探索する。この子達を見てやってくれ」

「だからお前はそうやって!」


 真っ先に暗闇に向かって駆け出すニコレスに手を伸ばすが、それは届くことなく遠くなる背中を見送った。


「……クソっ!」


 悪態をついて仕方なくその場に残っていたが、


「……? ちょっと君!」

「すみません! すぐ戻ります!」


 生徒全員が座る中、突然一人の銀髪の子が立ち上がってニコレスと同じ方向に走っていってしまう。追いかけようとするが、よく見るとその小さな背中は、ニコレスと同じところで並んでいた。


「どうしたんだ……?」


 意味がわからずその様子を見ているエルリオ。

 あの二人がすでに会っていた事は、知り得なかった。


「ニコレスさん」

「……君はリーゼさんか。ツバキ君がお世話になっているよ」


 呼び止められて振り返った矢先、知っている姿に軽く会釈を交わす。


「こちらこそ……って、そうじゃないんです。ここがどこなのかわかりました」

「本当か」

「私、あの時は言わなかったんですけど、ツバキ同じように魔力の流れがわかるんです」


 しばらく二人の間で話を続ける姿を、他の全員が不思議そうに遠目で眺めていた。


 ***


「だりゃりゃりゃりゃあっ!!!」


 一方その頃、ツバキは押し寄せる魔獣を竜巻の如く回転で蹴り殺し続けていた。


「行け行けゼッター魔獣軍! レツゴーレツゴー! 魔獣軍!」


 その上空で呑気にダンスを踊る少女だが、ふと背後を見て目を丸くする。


「……あれ? もしかして最後尾?」


 一番後ろで順番を待つ、とっておきと言わんばかりの巨龍がいた。黒い鱗が日に照らされ、順番を待ちながらのしのしと迫っていた。

 それが少女の目前にまでやってきたところで、通路上の異物を取り除くように、大口を開けて襲いかかったのだ。


「ギャオおおおん!!!」

「あわわわ……」


 龍頭の下で慌てふためく少女。

 ツバキは咄嗟に龍に飛び込もうと足を引いたが、彼女の両手から魔法陣が浮かび上がり__発光。


「来ないでー!」


 __グオッ!!!


 刹那、天に白い光と熱が伸びた。


「うわっ!」


 そのあまりの眩しさと吹き荒れる土埃に、ツバキは目を閉じて両腕で顔を覆う。


「くぅ……なんだこれ!」


 あまりの勢いにツバキが足を踏ん張った。

 何もしなければ吹き飛ばされてしまいそうなほどの威力だった。


「あんなの地面に当たったら……!」


 嫌な想像が脳裏を走る。

 徐々に光と熱と、目の前の活動が止み、ツバキは恐る恐る目を開けた。


「……そんな」


 龍の頭は消え去り、溶けた断面からプスプスと血が吹き出していた。


「やっちゃった……。せっかく苦労して連れてきたのにぃ」


 生命活動を停止した龍が、重力のまま地面に突っ伏して動かなくなる。

 少女は深くため息を吐いて、どこかへ立ち去ろうとする。まるでものをなくしたかのような、この場の空気にそぐわない態度だった。


「……はぁ。もう帰ろ」

「ちょっと! 待って! はぁ……! なんで、こんなこと、するの!」


 がっかりした後ろ姿に、ツバキは頭を押さえながら、絶え絶えの息で呼び止めた。


「やば……ああ、おぇっ」


 目の前の少女が渦を描くようにぼやけている。膝から崩れ落ち、脳の接続が途切れ途切れになってくる。


「ん? ゼッタちゃんが言うから」


 彼女は首だけこちらを向けると、もう飽きたのか、低い声で一言だけ伝えて、前と同じように小さなゲートの中へ去っていってしまう。


「ゼッタ、ちゃん……?」


 頭は追いかけることで一杯なのに、手は地面から離れるどころか、腕ごと痙攣しながら重力に屈していく。

 __見逃してしまった。


 その悔しさだけが頭に落ちて、胴体までもが潰れそうになった。そのとき、後頭部を何かが叩く。


『やりきれ』


 聞こえた自分の言葉に、ハッと目を見開き、崩れそうになった左手が動く。


 バゴッ!


「いっ!?」


 自分の頬を左拳が思い切り殴りつけ、体が宙を舞って左方向に吹き飛んだ。


「たぁ……! くぅっ! 行か、ないと!」


 地面に屈しながらも、体に走った痛みが脳の流れを即座に切り替えた。

 足を膝から片方ずつ起こして上がり、確かに両足を地面に付かせる。


「連絡、しとかないと。店長店長……」


 腰のポケットからスマホを取り出して、急いでギルドに連絡を入れる。


『……それ本当に言ってる?! うん。わかった。状況の説明はこっちでやるから、君はやれるようにやってくれ』


 三年A組を乗せた高機動車三台が、地球の裏側の洞窟の奥深くに転移させられた。

 こんなこと、言って信用されるかも分からないのに、店長オーレスは真っ先に動いてくれる。


「……はい! お願いします!」


 電話を切ったツバキは、スマホをリュックサックにしまい、隙間がないか確認して背負った。


「ふぅ……」


 大きく息を吸って短く吐く。

 そして、地平線を見据えクラウチングスタートの構えをとった。


「よーし……だあっ!」


 ツバキという名の閃光が、地球の裏側約二万キロメートルに向かって消えた。

みなさん、小説はどのようにして読みますか。

自分は文章から映像や音に起こして記憶するタイプなのですが、人によっては情報ベースで読んだりするとかなんとか。


様々な読み方に対応できるのが理想ですが、まだまだ力量不足です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ