表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ライオンとチンパンジーの声を聞く

作者: 畦道一歩

目次

0.プロローグ

1.ライオンとチンパンジーの声

2.エピローグ

参考文献

付記



0.プロローグ

 動物の声を文字化する技術(動物語自動翻訳器)を手に入れた博士と助手は野生動物の嘆きを知らされた。その上で次なる被験動物について話していた。

 助手が先に口を開いた。

「動物園で飼育・展示されている動物は、その置かれた環境をどう受けとめているのですかね? 人間をどう見ているのですかね? 食と住は充実していて健康も管理されているから野生の動物のようなヤバさはないと思うのですが」

「それは聞いてみなきゃ分からないよ。でも、その前に人間が動物園を開設する目的から考えなきゃいかん。本来、なかったものものだから」

 博士は意味ありげな声音で返した。

「ということは、動物園は不要だと言いたいのですか?」

 助手は顔を博士に向けて、その心中を探って訊いた。

「事としだいでは……」博士は言葉を切り、「で、開設している目的は?」と訊き直した。

「はい。それはサバンナや密林へ行かないと見ることのできない動物を簡単に見えるようにすることですかね?」

 この少々ピントの外れた答えに博士は顔をしかめて、また問うた。

「見ることによって、どんな目的が達成されるのかな?」

「動物園は癒しや娯楽の場所であると同時に人間以外にもこんな動物がいるんだ、とよくいう生物多様性を理解するためですかね。生き物を通じた教育は人間にとっても大切な情操教育になりますから」

 助手はしゃあしゃあと答えた。

「まあ、そんな目的もあるんだろうけど、ちょっと傲慢な考え方をすると、絶滅しそうな野生動物を保護し、人工的に繁殖させて種を保存し、絶命の危機を遅らせる目的を持っている、と言うこともできるけど」

 博士はさらに建設的な問いかけをしてみた。

 助手は「絶滅」「繁殖」という言葉に反応し、答えた。

「あ~ァ、思い出しました。絶滅したので人工的に繁殖させたといえば、佐渡島のトキなんかが象徴的ですよね」

「そう。明治時代以前には日本のどこにでもいたから。絶滅した原因の多くは人間によるものです」

「でも、博士、絶滅って、どう定義し、誰が決めているのですか?」

 助手は博士の最後の言葉の意味を理解しようとはせずに、また訊いてきた。

 この問いに博士は助手を一睨みして咎めるように言った。

「君ねぇ、幼稚園児のようなことを訊くもんじゃないよ。小学5年生でも知っているよ。いいかい。学者たちが普段から調査をしていて、生きていることが確認できないと、検討会を開いて「絶滅」したと認定したり、50年ほどの間に姿を写真に撮られなかったケースも絶滅と認定しています。これは常識ですよ。ふん」

 聞こえるよう鼻を大きく鳴らした。が、まだ納得していなさそうな助手の顔へ呆れた声で続けた。

「役所がレッドリストを公表しているよ。もういなくなった「絶滅」、飼育されているが野生にはいない「野生絶滅」、その野生で絶滅する恐れが極めて高い「絶滅危惧IA類」など7つに分類している」

 だが助手は、恥ずかしげもなく、またまた訊き返した。

「たとえば、どんな?」

「んんッ。完全に絶滅したものであれば、ニホンオオカミやニホンカワウソが有名だ。知っているだろ?」

 博士は怒気にため息をまじえて教えた。

「は~」

 という間抜けな返事に博士は苛つき語気を強めた。

「その他いろいろとネットで検索してごらん」

 この説明をうわの空で聞いている助手の脳ミソには動物園の動物たちが浮き沈みしていた。その中からなじみのある名前を口にした。

「博士。それじゃ、動物園にいるライオンとチンパンジーの声を聞いてみませんか。私、子供のころから大好きでした。『ジャングル大帝レオ』なんて恰好(かっこう)良かったです。チンパンジーは愛嬌がありますし」

「んんッ。そうかね。じゃあ、聞いてみましょう」

 博士は憮然とした顔でそう返した。

さっそく動物語自動翻訳器を動物園のライオンとチンパンジーの檻の境目に設置した。

博士と助手は研究室でモニターの翻訳文字を読んでいる。



1.ライオンとチンパンジーの声

「アース。あんたがここにいられるのもあと5日だな。短い付き合いだった。飼育員の兄ちゃんと姉ちゃんが話しているのを小耳にはさんだよ」

 チンパンジーは寂しげに声をかけた。

「世話になったな。チン(パンジー)さん。俺は、ここを出て800キロほど南方にある動物園へ移されるそうだ」

 アースも沈んだ声で答えた。

「あんたは、まだたてがみも生えそろっていない。2年前に他の3頭と一緒に生まれたんだよな。季節は秋で暖かい日だった」

 チンパンジーはその日を思い出し、遠くを見る目をした。

「でも、父の顔は知らない。どこかの動物園から種付けのためにレンタルされて来たらしい。もうこの飼育舎にはいない。母も俺たちを産み落とした後、どこかの動物園へ移された。俺の兄妹たちも他の園へもらわれていったそうだ。丈夫で体のでかい俺だけが残されて」

「そうだったのかぁ。あんな乳飲み子を……」

「もらわれてぇ、無償で、タダで」アースは悔しげに言葉を繰り返した。

「タダ、でか?」

 そう訊くチンパンジーの声には疑問符がついていた。

「そう、ただ。ここには俺のほかに4頭いて、俺たちライオンは余っている。欲しいと言えばタダでくれる動物園はいくらでもある。ふん」

 アースは不愉快そうに鼻を鳴らした。

「タダって?」

 チンパンジーは信じられないという声音で同じ言葉を発した。

「そうだよ。公立の動物園から搬出されたライオンは、この5年間で14頭いた。うち11頭がタダでもらわれていったそうだ。かつて先輩たちは『百獣の王』と呼ばれたこともあったが……クックックッ。泣けてくる」

「もらわれていくんじゃ百獣の王も形無しだな。同情するよ」

 チンパンジーの声も沈んでいた。

「情けない」ライオンは首を垂れ、「全国の動物園でみると2014年から18年までに、4978頭が搬出されていて、そのうちの47%、2338頭はタダで譲渡されている」

「残りはどうされた?」

「他の動物園、観光施設、動物商・ショップ、個人・学校などへ移されたり、売られたり、もらわれたりしている」

「なるほどォ」

「これだけじゃない。物のように交換されている仲間もいる」

 アースは首を上げ、眉間に皺を寄せて強く言った。

「物々交換される、ってことか?」

「そう。動物園から搬出された動物の34%にあたる1699頭が交換されたそうだ」

「どう交換するの??」

 チンパンジーの声には疑問符が増えた。

「取引では1フラミンゴ、1シマウマなどと通貨単位のように扱われている。俺たちで言えば、メスライオン2頭とグランドシマウマ1頭とが等価交換されるんだ。2対1だ」

「わずかシマウマ1頭? 群のエサの量じゃないのか?」

 チンパンジーの声は呆れたと言いたげだった。

「だな。ご先祖様が聞いたら、涙を流しそうな交換価値しかない。悔しいが、この取引が流行っているそうだ。俺たちにとって、人間にされて一番嫌なこと、屈辱的なことは値段をつけられることだが、市場価値でみたって、ライオンの価値は10万円ほどで、ペットショップで売られている猫に負けている」

「猫の価値は?」

「20万円から40万円。同じ猫科でも俺たちの市場価値は低い。低すぎる。ふん」

アースは自虐的に鼻を鳴らした。

 チンパンジーは驚いて目を見張った。そしてどこかはばかる声音で訊いた。

「アース、ちなみに俺の市場価値はいくらかな?」

 こう訊かれたアースは一瞬、キョトンとした。

「チンさん。知りたいかい?」

「あァ、参考までに」

 好奇な目をしていた。

「俺と同じでチンさんも人間に害を与えかねない動物として指定されている。なので、個人が家庭で飼育するには都道府県知事の許可が必要になる。そのうえ、世界でも守られるべき動物になっているので、正直なところ値段の付けようがない、というのが答えだな」

「ほ~」

 チンパンジーは口をコの字にして息を吐いた。

「でもアメリカだと、40万円から高価なものであれば600万から700万円で取引きされているようだ」

「ほ~~」チンパンジーはライオンよりも高価な取引価格を聞き、長いため息を吐き安堵した。が、それを気づかれぬようすぐに話題をライオンに戻した。

「ライオンについては、それにしてもひどすぎる低価値だな。なぜ、こうなるんだぁ? 先輩たちの時代には市民のレクリエーションや教育目的で海外から輸入されるほど価値があったじゃないか。とくにライオンは子供たちに大人気があったから」

「ああ、聞いたことはある。そんな時代もあったそうだな。その一因は日本がワシントン条約を締結(1980年11月4日発効)したことにある。この条約には絶滅の危機にある野生動物を保護する目的があって、希少な動物を輸入しづらくなったようだ。そこで、動物園は独自に繁殖させはじめたのさ。要は過剰繁殖だ」

「俺らの数をコントロールしようと……神の摂理に反している」

 チンパンジーの声は憎憎しげに聞こえた。

「そう。人間は鬼畜以下だ。なんでもする。やりたい放題だ。で、野生での絶滅リスクが高い(深刻な危機にある)ニシゴリラは全国の動物園で2000年には33頭いたが、19年には20頭までに減った。アフリカゾウは66頭から31頭に減っている。なので、繁殖計画を立てて、どの種も最低50頭を下回らないように繁殖させるそうだ。とくに希少種であるキリン、ホッキョクグマ、アジアゾウなどおよそ90種を国内で計画的に繁殖させている」

「勝手に交配、繁殖させやがって!」

 チンパンジーは声を荒げた。

「動物園を『種の保存』の拠点と位置づけているようだ。ふん。傲慢にも程がある」アースは腹立たしく言うと、「ちなみにチンさんの仲間は304頭いるよ。絶滅危惧種とは言われているが、まだましだ。一方、シセンレッサーパンダなんかは繁殖させすぎて267頭もいる。世界中の動物園で飼育されているこのパンダの7割以上がこの国にいるそうだ。身内の話をすりゃ、ライオンは繁殖が簡単で一度に3頭ほど産むのよ。こいつらのエサ代がかさむ。成長すれば、近親交配や親との闘争がはじまる。群れで飼えるほどのスペースもない。そこで、余されるんだな。供給が需要を上回っている。超過供給だ。で、価格は下がる」と続けた。

「余剰動物ってことだな?」

「うん。殺処分されずに、どこかの動物園にもらっていただくのはありがたいが、それでも幸せばかりじゃない。不幸は待ち受けている」

「不幸?」

「グランドシマウマのバロンのことさ」

「ああ、縞模様の実にきれいだった。ヤツはどこへ移されたんだっけ?」

「動物商を通じて乗馬クラブへ移された」

「乗馬クラブ? で、バロンになにかあったのか?」

「えッ。知らないのか?」

 アースはびっくりして一瞬石のように固まり目を見開いて、

「おおありよ。動物園でしか生活したことがないバロンは近づいてきた人間どもにパニックになってしまったんだ。無理もない。思わず、低い柵を跳び越えて、ゴルフ場へと逃げ込んだ。そこの池にいたところを麻酔薬の入った吹き矢で撃たれ、そのまま池に倒れて死んでしまった。溺死だ。麻酔とはいえ人間に撃ち殺されたんだ。こんな理不尽が許されていいのか?」

と言うと、キッと目尻を吊り上げてチンパンジーの顔を睨んだ。

 その目にチンパンジーは少し怖じけたが、なんとか返した。

「ゆ、ゆ、許されるわけがない。絶滅危惧種だからといって、俺たちの仲間を勝手に繁殖させて、そのあげく余っただと。他の場所へ移しておいて、死なせやがって。それならいっそ祖先のいるサバンナへ帰してもらった方がよっぽどいい死に方ができたはずだ」

「そのとおり。しかし、サバンナも……」アースは次の言葉を止めて続けた。「そんなご立派な知恵は人間には欠けている」

「『万物の霊長』なんて威張っているが、脳足リンだな。ちぇ」

 チンパンジーは唾を吐くよう舌打ちした。

 アースは「うん」とうなずいてから、やや興奮ぎみに話した。

「ここにきて遺伝学的に煮詰まっている動物については繁殖計画を見直すべきだなんて議論もしているそうで……無責任なことばかりしてやがる。あァ、俺たちライオンについては増えすぎて避妊措置をしている動物園もある」

「な、な、なに! オスとメスがいて避妊をさせるってか!?」

 チンパンジーは怒りの声を上げた。

「そうだ。ふん」アースは大きく鼻を鳴らし続けた。「そのうえ、園内の居住環境を良くしようと(環境エンリッチメント)『アニマルウェルフェア(動物福祉)』なんて言葉を口にしやがるし、繁殖が無理ならと野生動物のいる環境を維持しようと組織を作って形だけ整えて善人ぶっている。こっちにとっちゃ、ありがた迷惑だ。ふん。人間が他の生き物の棲む環境や生命をこんなにも簡単にコントロールしていいのか? 人間だって、生き物じゃねえかぁ。そうだろ?」

 アースはチンパンジーの答えに期待した。

「そうそう。異議なし! ウェルフェアというぐらいだから、そのアニマルなんとかいうものは飼育動物や俺たちにみたいに展示されている動物へのいたわりらしく聞こえるが……」

「いたわり? どこが? 大嘘だ! 施しにすぎない。俺たちを大事に扱いたいのなら、俺たちの生命を尊重する『アニマルライツ(動物の生きる権利;生命権)』を実行しろ」

「そ、そ、そのとおり。同感だ! アニマルライツ! 異議なし!」

 チンパンジーは慌てて答えた。

 アースは気が立っていた。

「ク、ク、クソ! アニマルウェルフェアなんてものは『絵に描いた餅』だ」

「どういうことだ?」

 アースはチンパンジーの目を見て続けた。

「いいかァ、耳垢を取ってよく聞いてくれ。アニマルウェルフェアの考え方は欧州からはじまった。60年代以降、畜産動物の飼育環境の改善が提案されたんだ。そのための法制度も整備されはじめ、70年代からは、これが動物園でも課題とされてきた。この国で言われはじめたのはここ5、6年のことだ」

「すまん。アース、そもそもアニマルウェルフェアってなんだ? 定義はあるのか?」

 チンパンジーは顔の前で両手を合わせ、教えてくれというポーズをとった。

「ある。アニマルウェルフェアっていうのは、科学的なエビデンスに基づいて動物が精神的にも肉体的にも十分に健康で、置かれた環境に調和し、かつ幸せを感じていただけるような飼育環境や展示環境を作ること。動物を主体に考えること、らしい」

 アースは言葉を選んで説明した。

「科学? 科学? 幸せを感じる、動物を主体に考える、かァ」

 チンパンジーは嘆息しながら肩を落とした。

「で、このアニマルウェルフェアでは、飼育動物や展示動物には5つの自由が保障されるそうだ」

 アースは意味ありげにニッと口元を歪めた。

「5つの自由?」

「そう。人間が勝手に決めて俺たちに押し付ける自由。一つずつ紹介するから、コメントしてくれ」

「オッケー!」

「一つ目は、餓えや渇きからの自由」

「エサじゃなく、木に付いている生の実や野草を食べたい。水道水じゃなく、新鮮な湧き水を飲みたい」

「二つ目は、不快からの自由」

「コンクリートの床じゃ、寝心地が悪い。草原にしろ。生きた木の枝で寝たい」

「三つ目は、痛み・傷害・病気からの自由」

「こんな狭いスペースでは、かくれんぼも徒競走もできない。運動不足で体力はガタ落ち。健康寿命を縮めている」

「四つ目は、恐怖や抑圧からの自由」

「檻に入れられたままで、行動をすべて監視され、大勢の人間どもに見物されている。恐怖だ。ストレスだ」

「最後の五つ目は、正常な行動を表現する自由」

「俺たちの正常な行動を人間が判断できるのか? されてたまるか」

「ざっと、こんなもんだ。ふん」

 アースはまた大きく鼻を鳴らした。

「どれもこれも勝手な自由だな。俺たち動物に幸せを感じてほしければ、飼育動物や展示動物だけでなく、サバンナや密林にいる動物たちの幸せも考えてくれ」

「そう。どこに棲もうが動物は幸せを感じたいものだ。自由を奪われた飼育動物や展示動物は飼育舎をどんなに改善されようが、どんなに美味い食事を出されようが幸せを感じることはない。幸せそうに演じてやっているだけだ。それを見て人間は満足するんだろうよ。人間は俺たちをオモチャ扱いし、優越感を感じているだけだ」

「どういうことかな?」

 チンパンジーはアースを凝視した。

「人間は動物を愛しているから優しくするのではなく、他者に優しくあれる自分を愛したくて優しくするのだ」アースの声は静かに諭しているようだった。さらに続けた。

「動物そのものを愛するというより、人間ではないというその一点で動物を愛しているだけなのだ」

「単なる自己満足。またまた異議なし!」

「そう。人間が自分の幸せを感じるために俺たち動物を飼育し、展示しているだけだ。俺たちが幸せを感じられるのは人間のいない自然環境にいるときだ」

「そう。この飼育舎から開放されるときだ!」

 チンパンジーは声を荒げた。

「俺たちだけじゃなく、動物園、水族館、ペットショップ、人間に飼われている家畜、ペットをすべて開放しろ。自然へ返せ!」

 アースも声を荒げていた。

「人間には他者の痛みを共感する能力が備わっているというが……」

 チンパンジーは思い出したようにぽつりと言った。

「そう。共感力。それを俺たちに対しても発揮してもらいたいもんだ」

 アースも声高に応えた。

「ところで、この国ではその家畜と呼ばれる鶏や豚、牛などの飼育環境を良くしようと国がようやく指針を作ったと聞いたが」

 チンパンジーは発展的な知識を披露した。

「それがアニマルウェルフェアさ。国際基準を意識しただけだろ。遅すぎる」

「そうかァ。うん、確かに遅すぎる」

「で、どうなの?」

 アースはチンパンジーの知識を試すよう訊いた。

「たとえば採卵鶏であれば、これまで「バタリーケージ(一羽当たりの飼育面積、550cm2)」といって身動きできない空間に閉じ込められてきた。これを改め、羽ばたきできるよう十分な空間を与えること。適温、空気の換気は言うに及ばず」

「ちょっと待ってくれ。その面積じゃ、鶏の体より狭いだろ?」

「確かに狭い。狭すぎる」

「ストレスがかかりっぱなしだろ? そんな環境じゃ、質のいい卵は産めない」

「そう。それをエサの質で調整しているんだろうよ」

「エサか? きっと豚も牛も同じ状況だろ? ふん」

 アースは鼻を大きく鳴らした。

「ほぼ同じ。おまけに『安楽死』の基準まで設定している」

「安楽死? この国じゃあ、人間様への基準も確定していないのに、よくもまあ家畜に適用できるな? 呆れてものも言えない」

「確かに。いつどうやって死ぬのか、それを決める権利くらいは残してくれや。卵、乳、肉をたらふく奪いやがって。クソー!」

「だから、アニマルライツが大事なんだよ。ちぇ」アースは唾を吐きかけるよう大きく舌を鳴らしてから、続けた。「俺たちだって、同じ境遇におかれている。こんな狭苦しい檻の中で、肉の塊を与えられるばかりで……それを見物人の前で食べさせられて。落ち着いて味わうこともできない」

「それは俺も同じだ。動物本来の行動を見せる『行動展示』と呼ぶそうだ」

 動物本来の行動という言葉に反応し、アースは「あ~、サバンナでインパラやジャッカルを追いかけ回して、首に食らい付き仕留めてみたいもんだ。本能が(うず)き毎晩、夢に出てくる。でも、サバンナも……」と言葉を止め、首を垂れた。

 チンパンジーはそれに気づき「どうした」と顔を覗き込んだ。

「あァ、地球の温暖化の直接的な災禍としてサバンナでは雨季になっても雨が降らないそうだ。そのため熱波によって草原が燃えて、それが原因で多くの仲間が命を落としている」

「それはサバンナに限らない」チンパンジーは深刻な声で「アマゾンでも密林を伐採したものだから雨が降らず、多種多様な生き物が死滅している」とつないだ。

「そのとおり」

「俺たちの生存競争が元で仲間が絶滅するのなら文句もないが、そのうえ……」

「おっとー。その先は俺に言わせてくれ」

「あァ、いいとも」

「人間どもが俺らの棲む環境を破壊し、さらに商売のために殺戮したことで仲間が絶滅したことは許せない」

「そう、そのとおり。人間は俺らにとって害獣だ」

 この一言で重たい空気が降ってきた。長い沈黙の後、20秒ほど経っただろうか。ようやくチンパンジーが口を開いた。

「ということは、サバンナや密林で棲み続けるよりもこの動物園のような飼育施設に囚われているのがまだましってことになる」

「皮肉なもんだ。ちェ」

 アースは聞こえるよう舌打ちした。

「しかし、そもそもの温暖化は人間の悪行の結果だから」

「そう、ひどいもんだ。何度でも言ってやる。人間どもは地球を壊し続けている。クソー! 死ぬまでに一度でいいからサバンナを駆け回ってみたい」

 アースは涙を含んだ声で言うと、また首を垂れた。

 見かねてチンパンジーは慰めるよう声をかけた。

「おまえさんは本物のサバンナを体感したこともないし、インパラやジャッカルの生肉を味見したこともない。それでも夢に出てくるのかァ。やはり野生の血は消せないな」

「あァ、我ながら憐れよ」

「俺が生まれ育ったのはアフリカの熱帯雨林。1歳のときに捕まえられた。だから密林での生活体験はある。木の実や草が豊富で、薬草も見分けられる。スコールの後の草木の緑が目に焼きついている。父と母、兄弟たち、群のみんなは今ごろ、どうしているかな~」

 チンパンジーは瞼の裏に故郷の密林を思い浮かべていた。

 それにかまうことなくアースは話を戻した。

「どの仲間も同じだ。ゾウは群で生活するが、多くの動物園では1頭だけで飼育されている。それも身体に足りない狭いスペースで」

「あの大きな身体もストレスで骨皮筋之門(ほねかわすじえもん)になっちまう。クックックッ。憐れだー」

「そのうえ、柵を破壊したり、逃亡を防ぐために鉄製のポールや扉にはトゲが付けられている」

「それじゃあ、ぶつかったら怪我をするだろ」

「うん、する。いや、した」

「うん、する。いや、した、じゃダメだろ。改善しろ、ってんだ!」

「アニマルウェルフェアが声高に叫ばれるものだから、多少は配慮をして、飼育舎を広げたり、トゲを外したり、寝転がれる砂場や水浴びできるプールを増設している動物園もあるそうだ」

 チンパンジーの声に圧され、アースは慌てて答えた。

「最初から野生の環境を提供しろ! こっちは頼まれもせず、拉致されて飼育舎に棲んでやってるんだ!」

 チンパンジーの声は怒気をおびていた。

「飼育舎自体をより自然に近いものにしようとしている動物園もあるにはある」

 アースはなだめようとした。

「どう?」

「たとえば、ジャイアントパンダの飼育舎に中国の生息地である森を再現し、『バイオーム展示』といって野生に近い環境を作っている。定期的に人工のスコールを降らせたりしてジャングルを再現している動物園もある。オランウータンの生息地であるボルネオ島の熱帯雨林を再現した飼育舎なんかが画期的と言われている。チンさんの故郷の環境だよ」

「羨ましいな~。ここも早く熱帯雨林にしてくれ!」

チンパンジーは叫んだ。

その声に、アースは「飼育員たちの立ち話を聞いたところ近々、ここにもそんな設備が付けられるそうだ」と教えた。

「ふ~ん」チンパンジーはそれがどうした当然だという嘆息を返した。

「その〝ふ~ん〟で思い出したが、ゾウの糞をバイオ発酵処理施設で堆肥にすることも行われている」アースは嫌みっぽい笑みを浮かべた。

「へー」チンパンジーはおどけて返した。

「屁の使い途はまだ開発されていないようだ。ハッハッハッ」アースは歯茎を出して笑った。

「そうでガスか。アハッハッハッ」つられてチンパンジーも笑った。

 その笑い声が止むとアースは「俺は動物園じゃなく、せめてサファリパークへ転居させて欲しい」ぽつりとこぼした。「作り物の岩山を一日中上り下りしているばかりで……」

「そうだな。サファリパークであれば多少はサバンナの雰囲気を味わうことができるかもしれない」

 チンパンジーはアースの心をしんみりと代弁した。

 しゃべり足りないアースは話を戻した。

「ある自治体じゃあ、飼育していたホッキョクグマの『マルル』、マレーグマの『ウッチ』、オオカンガルーの『アトラス』などを事故死させてしまったことを反省し、動物が幸せに暮らせるよう条例を制定したところもある」

「それなら俺も聞いたことはある。動物園を生物多様性の保全のための科学的な施設として位置づけたようだ。好きじゃないが、また科学だ」

「人間はこの言葉が好きだから。科学と言えば、なにか高尚なことをしているようなイメージがあって、ミスを犯しても許されると思っているんだろうよ。で、その条例の内容を知っているかい?」

「もちろん。種の保存・教育に力を入れる。少なくとも3世代まで累代繁殖させる。展示動物へのエサやりや、触ることは禁止する。ショーを見せたり、服を着させてキャラクター化することも禁じる。こんなところかな」

「う~ん」アースは唸り、不満を口にした。「その3世代まで累代繁殖させるというのは気に食わないね。繁殖、繁殖と……」

「だな」チンパンジーは同意し、続けた。「でも、俺たちの境遇を理解し、なんとか改善しようと啓発してくれている人間もいるにはいるが」

「ほ~。いるのかい? どんな啓発? どんな人間?」

 アースは訝るような顔をした。

「俺たち動物の悲しみを演劇で表現し、慰めてくれている演劇人さ」

「それは『バッコスの信女―ホルスタインの雌』のことだな」

 アースは語気強く確認した。

「そう。人間に搾取されっぱなしの乳牛の悲しみを演じてくれた」

「動物にとって、この世の中でされて一番嫌なことは自分たちを金銭で評価されること。次にいわれの無い搾取をされることだから」

「そのとおり」チンパンジーは続けた。「なかには乳を出さなくなって市場価値のない雌牛を集めて自然放牧し健康的に飼育している牧場主もいる」

「いやいやチンさん。騙されちゃ、いかん。そうやって付加価値を付けて高級肉と称して売るんだろ?」

 アースは首を大きく右に左に振り振り否定した。

「んんッ?」

「それじゃ、牛であれ、豚であれ、放牧されているときだけ〝幸せ〟を与えられているだけじゃないか、それもわずかな幸せを」

「う~ん」と唸り、チンパンジーは「そっかァ」納得した。

 アースが檻の入り口に目をやると、バケツを手にした飼育員がいた。

「おっとう。そろそろ昼飯時だな。姉ちゃんが肉を持ってきた。あのバケツ、なんとかならんのか?」

「奇麗な有田焼の大皿に盛ってこい」

「だな」

「じゃ、飯の前に話しをまとめよう」

 チンパンジーは促した。

「おォ。俺たちが絶滅しようが生き延びようが、それは俺たちの問題だ。人間にはコントロールされたくない。放っておいてくれ。俺たち動物は生き死については(いさぎよ)い。人間のようにしみったれで、未練たらたらな生き様は曝さない。ふん」

 アースは今日一番大きく鼻を鳴らした。

 チンパンジーは「うんうん」と首を上げ下げし「これだけは言いたい。俺たちの生きる権利(生命権)を侵害するような環境破壊だけは止めてくれ。それは人間にとっても身のためだ」

 と付け加えた。

「人間は自然を支配する、コントロールすることを止めて自然のほうに適応しないかぎり、存続も危ういだろうに」

「その適応を『レジリエンス』と呼ぶ専門家もいるそうだ」

「ほ~。支配する根源は技術」

「技術の開発じゃなく、そろそろ倫理的知性を磨くことに専念しろや」

「でもよう、この国じゃ、人間の数そのものが減っている。純粋な日本人は、そのうち絶滅危惧種に指定されるだろうよ。レッドリストに登録だ。へッ」

 アースは人間を侮蔑するよう言い放った。

「そのときになって、俺たちの心情を理解するようじゃあ……人間様も憐れな生き物だな。ふん」

 チンパンジーも鼻を大きく鳴らした。

「同類相憐れむ。他の生き物の生命権を侵害する前に自分らの数を心配しろ、ってんだ!」

「俺らを鑑賞する暇があれば、自分らの種の保存に精力を使え! もっと繁殖に励め!」

 バケツを手に近づいてくる飼育員を睨みつけ、話しはまとまるどころか、ライオンとチンパンジーの人間に対する罵詈雑言は止まることがなかった。



2.エピローグ

 モニターの前では、博士と助手が深刻な顔をしていた。

「どこの動物園にいる動物たちも、こんなふうに人間を見ているのかなァ。野生と変わらない。ヤバイですよ」

 助手は組んだ両手をツル天ピーカーのお頭に乗せてぽつりとこぼした。

 それには答えず博士は目を閉じ、腕を組んだまま訊き返した。

「君はライオンとチンパンジーの声のどこが重要だと思うのかね? 3カ所あるよ。一つでいいから指摘してごらん」

 この唐突な質問に助手は少しどぎまぎしてから答えた。

「アニマルウェルフェアが実践されはじめたというところです」

「そこかね?」

 博士は不満げに返した。

「ライオンの市場価値がペットの猫以下という嘆きですか?」

 すぐに答えた。が、博士が首を右に左に大きく振って見せたので、顎に手をやり逡巡してからしっかりと答えた。

「じゃあ、3世代までの繁殖を嫌っているところですね」

 博士は微動だにしなかった。

 助手はモニターに顔を向けたまま自棄(やけ)(くそ)ぎみにどれか当たるだろう、と矢継ぎ早に答えた。

「温暖化が原因でサバンナやアマゾンで仲間が死滅しているところ。人間だって、生き物じゃねえかぁ、ってところ。動物にとって、一番嫌なことは自分たちを金銭で評価されること。次にいわれの無い搾取だ、ってところ。動物園じゃなく、せめてサファリパークへ転居させてほしい、ってところ。動物は生き死については潔い、ってところ。人間もレッドリストに登録だ、ってところ。人間も精力を使え、繁殖に励め、ってところ」

 苛ついた博士は「もうー、いい」と眉間に皺を寄せ「そんなところじゃないでしょ。カスってもいない。ぜんぶ外れています」語気強く言い放った。

 助手はどう返したものか答えに困った。また、組んだ手をツル天ピーカーの頭に乗せたまま黙った。

 さらに数秒、待ったが『下手の考え休むに似たり』。正解の出てこないことにしびれを切らし博士は教えた。

「人間にとっても重要なことから言うと、一つ目は『人間は動物を愛しているから優しくするのではなく、他者に優しくあれる自分を愛したくて優しくするのだ』『動物そのものを愛するというより、人間ではないというその一点で動物を愛しているだけなのだ』ってところです。人間は自分の幸せを感じたいがために動物を可愛がっているだけ、ということですよ」

「は~」

 助手は間抜けなため息をもらした。

「いいですか。可愛いという気持は生き物に自然な、生得的な感情ではありません。後天的に獲得する、いわば経験知、身体知といってもいいものです。人間だけの心のありようかもしれません。この場合は自分を慰めて自己満足したいがためですよ」

「は~~」

 助手はまた間抜けなやや長~~い、ため息をもらした。

 かまわず博士は続けた。

「二つ目は『俺たちの生命を尊重するアニマルライツ(動物の生きる権利)を実行しろ』ってところです。この生命権はまさに飼育されている動物の心の叫びですよ」

 助手からの反応がないので、博士は続けた。

「三つ目は『人間は自然を支配することを止めて自然のほうに適応しないかぎり、存続も危うい。そろそろ倫理的知性を磨くことに専念しろ』ってところです」

「は~~~」

 助手はまたまた間抜けな長~~~い、ため息をもらした。

「この二つ目と三つ目については、野生の動物のなかにも人間に頼らないと生きていけないように仕向けられたものもいます。自分で生きるという自己決定権そのものを侵害されているわけですよ。ペットの中には、そうなるように遺伝子操作されているものだっているかもしれません。まさに倫理上の問題です」

 博士の声は諭しているようだった。

「ほ~」

 助手は合いの手を入れるがごとく声をもらした。

 博士は知識を授けようと説明を続けた。

「キツネを使った実験があります。キツネは本来、人間にはなつきません。が、なかには従順で穏やかなものもいます。それらを選別して交配を続けるとわずか数世代で人の指をなめたり、人なつこく、じゃれつくものが生まれます。この性格は大人になっても変わりません」

「野生動物のペット化ですね」

 助手の口から大正解が飛び出た。

「そうです」博士は今日はじめて明るくかつ語気強く「幸せホルモンといわれるセロトニンが多くなるようです」と答えた。

「それで、能天気な性格に変わるのですね」

 助手は即座に返した。

 この答えに博士は─君みたいだ、とは言わないで─頬を緩め、「このホルモンは外見にも影響し、見た目は犬に似てきたそうです」と加えてから、話題を変えた。「そもそもどれくらい動物園はあるのかね?」

「はい。日本は〝動物園大国〟と言われています」

「数は?」

 即答されず、その声はさも不愉快そうだった。

「70以上の地方自治体と80以上の公立園、それに私立園があります」

「よく知っていたね」

 博士の顔にポロリと笑みがこぼれた。

「はい。ご忠告にしたがい、ネットで検索してみました」

「じゃあ、どれくらい来園者はいるの?」

「2018年度だけでも3500万人いたそうです」

「なるほどォ。でも動物園は、そんなにたくさん必要かい?」

 博士はあえて否定的な問いかけをしてみた。

「人間が圧倒的に地球を壊す立場にいるかぎり、野生動物を保護し存続させる観点からも動物園は必要でしょうね。『種の保存』の拠点ですよ。最初に博士も口にされてましたし、ライオンもそう言ってましたよね。そんな動物たちと共存していることを認識させる教育的効果もありますから」

 助手は自信たっぷりな声で答えた。

 博士はニヤリと意味ありげな笑みを浮かべて返した。

「教育的効果なら生身の動物でなくても実物大の動物をCGで映す「ライトアニマル」という手法もある。もっと言えば、本物そっくりのAIロボットでもいい。なにも狭苦しい檻に閉じ込めることはないでしょ」

 最後の言葉に反応し助手は素直な感想を口にした。

「アニマルウェルフェアを実践するのであれば、飼育動物たちの声を聞いて、反映させなきゃだめですよね」

 助手は最後の「ね」のときだけ思いきり笑顔になった。

「そうだね。でも、その前にライオンとチンパンジーが言うように、アニマルライツを尊重すべきだよ」

「それって、動物園は不要ってことですか」

 助手は博士の本心を探ろうと訊いた。

「声を聞き、反映させるくらいなら、動物の生きる権利を尊重し、野生に返すべきです。人間に数をコントロールする権利がありますか? 人間も動物ですよ。人間がされたらどう……」

 逆に博士にこう問いかけられても、その意味を理解しようとすることなく助手はボソッと言った。

「早く、人間の言葉を動物語に自動翻訳できる技術を開発しなきゃ」

 この一言でなぜかぎこちない沈黙の空気が降ってきた。助手は答えがほしくて博士の横顔をじっと見ていた。

 それを察して博士はたっぷり5秒ほど助手の顔を見てから、「あっそ」とつぶやき、口を開いた。

「開発しなくても飼育・展示動物たちは人間の仕草や声かけから言葉の意味と意図を理解する能力をすでに身に付けているかもしれない。その証拠はライオンとチンパンジーの声の中にありましたよ」

 そう話す顔は確信に満ちていた。

「えッ。じゃあ、動物たちは人間にされていることをすべて分かったうえで受け入れているということですか」

 助手はグッグッと身を乗り出し博士の顔を凝視した。

 博士は「うん」と首を下げてから神妙な表情で答えた。

「『幸せそうに演じてやっているだけだ』という声があったでしょ。知性を持つ動物たちは人間の傲慢さを憐れんでいるのかもしれません」

「じゃあ、動物たちは人間よりも一段も二段も上にいるってことですか?」

 あたふたと訊き返してくる助手に博士は「うんうん」と首を下げて応えた。(了)



参考文献。

赤川次郎(2023)「夜の動物園」『観覧車 赤川次郎ショートショート王国』光文社、218~226

 頁所収。

『朝日新聞』(2024)「気候危機と人類の今後」1月7日。

『朝日新聞』(2023)「牛ふん由来燃料に手応え」12月8日。

『朝日新聞』(2023)「「牛の幸せ」探す牧場主」8月21日。

『朝日新聞』(2023)「理解できないもの 引き出される感情 人間と動物 命と性 本質を問う」7

 月17日。

『朝日新聞』(2023)「鶏や豚 飼育環境に国指針」6月29日。

『朝日新聞』(2021)「ののちゃんのDO科学 「絶滅」って、どう決めるの?」1月30日。

『朝日新聞』(2020)「動物が幸せに暮らす動物園」11月15日。

『朝日新聞』(2020)「動物園、どう思う?」11月8日。

『朝日新聞』(2020)「動物たちはどこへ 1から4」9月20日・21日・22日・23日。

枝廣淳子(2018)『アニマルウェルフェアとは何か 倫理的消費と食の安全』岩波ブックレット。

中嶋千里(2023)「太陽と土、放牧で豚を育てる」『朝日新聞』11月25日。

結城正美(2023)『文学は地球を想像する─エコクリティシズムの挑戦』岩波新書。

リー・アラン・ダガトキンほか(高里ひろ訳)(2023)『キツネを飼いならす』青土社。


付記。

 神林長平は、「論文を書く・読む」と「小説を書く・読む」との違いを考察するなかで、「小説を書く・読む」をこう評している。

「小説という虚構世界の中にその人にとっての真実を表現することが、小説を書くことの意義である。」(682頁)

「そもそも小説とは、誤読されることを承知の上で、あるいは覚悟の上で、書かれるものである。」(685~686頁)

「小説を読むとは、小説の言葉を読者自身の言葉で置き換えていく行為であると言ってもよい。それを承知している小説家は、読者に、書かれていない言葉を意識させるように書いたりする。」(686頁)

「「誤読」されることのない小説はだれにも読まれずに未完のまま放置された作品に等しい(略)。」(686頁)

「論文─事実の中に新しい「真実」を見つけたことを、だれもが「それは新しい」と納得する形で報告する文書(682頁)─では、こうはいかない。誤読をされるような言葉を常に排除する。

 この拙稿はテクノロジーを使って動物の声を聞くかぎり、SFという虚構の世界を書いている。がしかし、論文ではありえなくて、虚構ではあっても「誤読」のされない、ほぼ想像のできる範囲域にある事実を書いたものに過ぎない。執筆の動機は、頑張って、頑張って動物たちの側に立って、人間の行為を戒めることです。神林長平「解説 なぜいま私は解説(これ)を書いているのか」樋口恭介(2021)『異常論文』ハヤカワ文庫、681~687頁参照。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ