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魔女ベルティエ(2)

ぶつ切りです。

 ベルティエの眼鏡が床に落ちる。目にしたものが信じられないかのようで、パンを両手で持っているヨシュアから目を離せないでいた。そして、そのリアクションにヨシュアは前髪に隠れた目を分かりやすく泳がせ動揺する。

 「な? すげェだろ、生まれて初めて見たぞ。”アイツ”の真逆だ。な? 異世界から来たなんてホラ話、信じる気になるだろ?」

 「ねぇ、その、何で生きてられるの......? 何かゴメンね、ずっと見てると具合悪くなりそう」

 ベルティエはアマノに構うのをやめてヨシュアと同じテーブルについた。はぁ~、と肘をついて溜め息を吐き、再度眼鏡を掛けてヨシュアをじっと見つめる。あまりに長く見られ、ヨシュアは困り、再度顔を伏せた。長い髪の毛がカーテンのように彼の顔を覆う。

 「私の美貌に――」

 「もう40にもなろうって女が――痛ェ!! 刃物は投げてくんなよ危ねェだろ!?」

 「アンタの言葉が刃物みたいに痛いって事だよ分かんないの!?」

 「良い年してまだそんな格好してる若作りに釘を刺してんだよ!!」

 「あーもううるっさい喋るの禁止!! 邪魔すんなら店番でもしてな!! それともこの子ごと燃やされたいのかい!?」

 怖ェ女、とだけ言うとアマノは黙った。そして彼女は「立って」と言うと、ヨシュアは立ち上がり、促されるままアマノが昇った棚の前に立つ。

 「んーーー、気のせいじゃないよね? もしかしてもう死にそうとか?」

 「死にそうなヤツが立ってもモサモサパン食わねェだろ」

 「呪われてる?」

 「ならお前が気付くだろ」

 「ネクロマンサーに――」

 「――それも気付くだろ」

 「じゃあ――――」

 「あの――」

 手を挙げるヨシュア。

 「なぁに?」

 「あのっ、僕の何がそんなに気になるんですか......?」

 恐る恐る訊ねるヨシュアに、彼を挟んで二人を目を合わせる。思わずヨシュアはアマノに目線を送り、彼は困ったような笑みを浮かべて肩を竦めた。

 「あーー、あのな......うーん、その、えーっとあのなんだ」

 「魔力がないのよ、あなた」

 言い淀んでいたアマノをよそに、ベルティエはあっさりと答えた。眼鏡を胸元にしまい、溜め息を吐く。

 「魔力がない、普通、人......と言うよりありとあらゆるモノ、森羅万象はね、この世界の魔力を身体に取り込んで生きているの、魔力って分かる? マナ? 魔素? どれでもいいんだけど、それをあなた、何でそれが無くて生きていけるの?」

 「いや、あの、分かんないんですけど、その魔力って必要なんですか? 他の方法とか無いんですか? ていうか、つまり僕は魔法が使えないって事ですか?」

 「必要だなそらもう。当然使えねェな。魔法使うのにも、身体を動かすのも、絶対に必要だ、魔力が空っぽになるってのはな、腹ペコとは違ェんだ。疲れたとは違う、無くなると死んじまうんだが、普通この世界は――」

 「――そこら中に魔力が満ちてるし、食べ物でも呼吸でも、何なら横にいる人からでも魔力を吸ってるの。だから家族とか友人ってのは絆が深まるし色んな禁忌が生まれてるの、差別とかもそのせいで無くならないんだけど。それはそうとあなた、そのせいでこの空間に浮いてるのよ、ポッカリと。魔力がないせいで無風状態というか、すごい違和感で気持ち悪いの。絵の真ん中だけ切り取られてるような、視界の中に太陽がずっとあるみたいな、集中しないと魔力って見えないから分かりにくいんだけど、とにかく直視してられないっていうか......」

 「だろ!? ”森の王”食ったけど魔力が身体に入っていかねェんだ。あの森中食い尽くして魔力パンパンの王をだぜ!? 魔力がどこかに消えてるみてェなんだよ。面白いだろ!? いやぁ、何かおかしいなと思って”森の王”に食われないように何日も睨み効かせてた俺を誉めてあげたいね俺は!!」

 「”森の王”なんて食わせたの!? 普通あんなモノ食べたら魔力過多で身体壊すわよ!?」

 「えっ!?」

 「腹減って死にそうだったんだからしょうがねェだろ、虫食ってたんだぞコイツ」

 「えっ!?」

 ベルティエはヨシュアを。ヨシュアはアマノを。それぞれの目線が交錯する中、アマノは泰然自若と棚の上で胡座をかいて腕を組んでいる。

 「............」

 視線に気付いたアマノは、顎を擦り悪びれずに、

 「......生きてるって、良いよな!」

 満面の笑みだった。

 「だから食わなかったんすか!?」

 食って掛かるヨシュアにも涼しい顔で、

 「だって毒じゃん、俺魔力の容量全然無いもん」

 「毒!? 毒なんですか!?」

 「......一応、補足するけどお腹壊すぐらいよ、少し食べる程度なら。バクバク食べなければ大丈夫。自分の魔力容量を超えないように楽しむって用法で嗜好品として少量摂取する人はいるから」

 「あの......えと、僕、バクバク食べました......けど............」

 「食ったなァ、腹減ってたんだよな」

 ベルティエはアマノを指差す。

 「アンタ止めるでしょ普通!? 昔食べて三日三晩上からも下からも垂れ流したでしょ!? 身体弱ってる子がそうなったら死ぬかもしんないんだよ!?」

 「死んでないじゃん。それよりもさ」

 「えっ、僕の生死軽くないですか」

 「コイツ、面白くねェか。しかもな、コイツ、”森の王”と闘ったんだぜ?」

 「無視された......」

 「闘ったって......この子が? その、異世界から来たとして、何かその、能力とかあんの? 魔法とか武器とか」

 無視され放置されたヨシュアの裏に飛び降りたアマノは、そのまま彼を立たせてスウェットをまくり上げ、その分厚い腹筋を見せる。思わず「きゃっ!」とベルティエは顔を両手で隠す......が、その指の隙間からバッチリと彼の筋肉を凝視していた。

 「あっ、あらすっごい良い身体っヨダレ出ちゃう――見えてないけど」

 「ババァ見てんじゃねェか......。趣味で身体鍛えてんだってさ、異世界って変わってるよな。下地が出来てんだよ、気合いも入ってるし、面白くね?」

 手の隙間の目が猫めいた、捕食者のソレになった。ヨシュアはその目に射竦められ、全身の産毛が立った。

 「......何が言いたいわけ?」

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