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剣鬼(2)

 「――言ってる意味分かんねぇよ! お前さっきから何言ってんだ、頭おかしくなったのかよ?」

 僕の目の前の人が首を傾げた。それに合わせてその人が束ねているポニーテイルがばっさばっさと音を立てる。

 この人の名前はアマノ・アシハラ......さん。僕は今、アマノさんが点けてくれた焚き火に当たりながら自分の身に起きた様々な事柄を伝えていた。

 異世界から来た事。此処が何処か分からない事。遭難していた事。化け物に阻まれて何処にも行けなかった事。

 「いやァー、マジで? だから虫食ってたの?」

 「え、何で知ってるんですか?」

 「俺見てたからね! この一週間くらい」

 悪びれず、目の前の焚き火に化け物の肉をかざしながらアマノさんは答える。

 「え......何で?」

 僕は思わずポケットから虫――正しくは動き回ったせいでグチャグチャになった虫の団子――を引っ張り出した。

 「うわバッチィな! だって面白ェんだもん、お前。虫食ってんのも粗食の修行だと思ったし、この四天の森で修行してるの俺以外に初めて見たし......マジで好きで虫食ってんじゃねェの? え? じゃあこの肉食う?」

 目の前の焼き焦げ、煙と共に肉汁を滴らせる肉塊に、僕は生唾を飲むも、

 「えっ、あの、ここ四天の森って」

 今すぐその眼前に肉に飛び付きたい衝動をどうにか抑え込み、聞き慣れない単語について訊ねる。

 「いや......もうお前ヨダレが地面につきそうじゃん。食えってホラ。オラ、水もやるよ」

 そう言ってアマノさんは肉だけじゃなく物語でしか見たことがない瓢箪の水筒を投げ渡してくれた。僕が驚き、オロオロしていると、

 「......もしかして、お前の世界って虫しか食わねェの? ってか口から食ってたけどお前も口から食うの? 人間?」

 「いや、口から食べます......けど......」

 「なら食えよ、いいよ俺の分は。今から焼くし」

 そう言ってアマノさんはサッと刀で自分の肉を切り分けると枝を刺し、日に当て始めた。それをボーッと見ていた僕を、顎で”早く食え”と促す。急かされるまま、口にする。

 「――――っ!?」

 一口囓る。続けて二口、三口、もう止まらなくなり――

 「美味ェか! っぱ”森の王”は美味いよな!! こいつはな、数年に一回、目につく動物なんでも食っちまうんだ。するとな、身体に栄養を溜め込むから旨味が――ってお前、何で泣いてんだ? 美味すぎか?」

 ......アマノさんの言う通り、僕はボロボロ泣きながら肉を咀嚼していた。問われても、僕にもハッキリとした理由は決められなかった。

 生き残った事。久しぶりのちゃんとした食べ物。”炎”という文明の暖かさ。そして何より――人が在る、という事。その何もかもがない交ぜになって涙として溢れた。こんなに人がいるという事が嬉しくて、暖かくて、奇跡のような事なのだと、僕は痛いほど感じていた。

 「あーーーー、アレか? 峰打ちしたのが痛かったか? でも俺の超絶技巧でお前は斬らないようにしたんだけど......もしかして当たった? 血出ちゃってる?」

 「い......やっ、あの、その、ん......僕、その、人と食べ、るのが久しぶ......りで」

 それ以上、言葉が出なかった。嗚咽を咀嚼で押さえ込み、どうにか言葉を紡ぐ。

 「......あーー、うん。そっか。おう。分かった、ドンドン食え、このアマノ・アシハラ様がドンドン肉焼いてやる。だからとりあえず食え。食ってから話そうぜ、俺も話したい事があるしな。......あーーもう泣くな! 分かったから泣くなっ、な!?」

 僕はただ頷く事しか出来ず、慌てたアマノさんが差し出す肉を次々と口へと運んでいった。

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