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ギルドへ行こう

 「――つう訳でよ~~。何かチョロいFラン討伐クエとかねェーの?1,000イェンぐらいの、その日暮らしのジジィが請け負うような、そういう簡単なクエはよォ~~」

 アマノさんがヤカラのように絡んでいる。相手のエルフのお姉さん――ハイナさんと先ほど自己紹介で教えてもらった――は、ウンザリした様子で台帳を捲っていた。

 「……あのですね~~、普段は『Aクラス以下は死んでもやらねェ、四天王様のブランドが傷つく』とか言ってんのよヨシュア君この人。仕事はあるにはありますけど、ハイナ的にアマノ君の態度が気に食わないので~~」

 間延びした話し方と、鼻眼鏡、そして小柄な体型とカウンターの向こうで高座に座っている姿が、何故か”駄菓子屋のお婆ちゃん”を思い出した。

 「~~~ッ!! 分かった分かった、これからは面倒そうな仕事も請けっからさァ、さっきも話したろ? このヨシュア少年は異世界から来て、文無しだからとにかく今日食う飯代だけでも稼がないと。二階の俺の部屋に住めるから家賃はどうにかなるけど、飯代やらなんやら取るんだろ? ハイナ婆さん?」

 ハイナさんは糸のように細い目で弧を作り、笑みを浮かべる。

 「はいなぁ。アマノ君が出て行ってからも料金は変わってませんよ~~。ハイナも、ご飯を食べますからね、ついでに作るだけですけど、お金は取りますよ。こんな寂れたギルドでも、運営するのにもらう助成金だけではかなり厳しいですからね~~」

 ハイナさんが言う通り、ギルドとは言うが、僕から見るとただの……何と言えばいいのか、ただの部屋の一室と言うか、市役所の一角というか、入り口から入るとすぐに鎮座するハイナさんがいるので、どうしても駄菓子屋さんの雰囲気が否めず、そして人がいない。全くいない。

 (僕の思ってたギルドってワイワイガヤガヤ色んな種族が酒を飲みながら仲間を集ったり喧嘩したり仕事に応募するってイメージだったんだけど……)

 これでは寂れた田舎の雑貨屋だ。物が無いだけ余計寂しい。壁には僅かに仕事の依頼が貼ってあるが、その枚数からもここは寂れているのが分かる。

 「アマノ君が仕事をしてくれないから隣町に依頼をかけたりね、ハイナ苦労しましたから~~」

 「ここは四天の村だぜ!? マトモな盗賊とかゴブリンなら近寄りもしねェ!! 仕事があったとは思えねェな!!」

 「マトモなら盗賊なんてやらなくないですか~?」

 「あ!! それもそうだなわっはっはっは!!!」

 「にょほほほほほ!!!」

 (えっ、異世界ギャグなの!? 笑いどころ分からなかった……)

 置いてきぼりになり、寄る辺もない僕は、ただ壁を見渡していると、

 「あ、あの!」

 とある討伐クエストが目についた。ボロボロになり、文字も掠れているが、確かにそう書いてあった。

 「あの、ゴブリン討伐ってのはどうですか!?」

 ぱっと目についたクエストについて問うた。難易度もFランク(何故この世界にもアルファベットが?)であり、僕でも手を借りれば出来そう、そう思ったが――

 「――あぁ……。んー、ヨシュア少年、アレはな」

 「ん。ハイナが話しましょ~」

 僕の提案に何故か二人とも苦い顔をした。ハイナさんは手に持った扇子でパタパタと仰ぎながら答えてくれた。

 「ヨシュア君、ゴブリンってね~、言葉を話せるし農業も牧畜もできます。過去には人を襲った事もありますが、今はそんな事もせずに穏やかに暮らしてる人たちが多数です。でも、偏見は消えませんね~。『ゴブリンを狩れ!!』という人たちもいますし、『ゴブリンを狩ってないとは、このギルドは怠慢だ!!』と、まぁ、過激な人は沢山いますから~~。ハイナ的には貼っておきたくもないですが、聖王庁からのお達しは面倒ですからね~~」

 「まぁ。大人の事情ってヤツだな。気にしないで、この……よっと! スライム退治にしとうこうか?」

 アマノさんは高座に身を乗り出してハイナさんの台帳を覗き込んだ。ハイナさんはぱたりと本を閉じると、ゴソゴソと裏にある本棚から書類を取り出し、

 「お行儀の悪いっ。まぁでも、そんな所がいいかもね。じゃあこの書類に署名してギルドに登録して~~。名前は書けるのかしら?」

 「あっ、確かに。俺が代筆するか」

 そう言いながら渡された紙には、下記の通り書かれていた。



聖王庁附属ギルド(四天の村支部)(以下、「甲」というは、__________(以下、「乙」という)に対して、甲の発注する討伐・捕獲業務に対する請負契約を締結する。


 第一条(業務委託・請負契約)

 甲の発注する討伐・捕獲業務を行うために、甲は乙に対してそのために関連する業務を委託し、乙はそれを誠実に請け負うものとする。


 第二条(請負期間)

 ……

 …………

 ………………

 ……………………


 僕はてっきり、ルーン文字とか、羊皮紙に血判とか、そういうのを想像していた。本人の魔力を送り込むと青白く光るとか、そういう……! それがこんな役所ナイズな文章だったなんて、僕は……!

 「どうした? やっぱ読めないか?」

 「読めんかったら最後のトコ判子捺してくれればいいよ~。判子無いならサインでも~~」

 僕が異世界に対して複雑な感情を覚えていると、二人が心配をしてくれたので、僕は極力感情を表に出さず、笑顔でこう答えた。

 「――かんっっっっっぺきに読めます……」

 途端、

 「だっかっら!! お前ホントに異世界から来たのかよ!!??」

 「えっアマノ君、いたずら? ハイナにドッキリしてる??」

 案の定、突っ込まれた。僕も、

 「そんな事言ったって!! 読めるんですもん!! もっとこう……魔力で焼き印を入れるとか無いんですか!? 魔力が指紋みたいに人によって個人情報になってるとか!?」

 言い返すが、

 「お前……世の中そんな面倒な事してられっか! 書類出すたびに魔力読み取るなんて時間掛かるだろうが!!」

 「そうそう! 文字が一番、判子が一番なんよ~~!!」

 「いや、だって、異世界ですよ!? 魔法とかもっとこう、ファンタジーな感じで物語が始まる感じがいいじゃないですか!!」

 「ファンタジーってなんだよ!! 俺からすれば虫丸めて虫団子食ってるお前の方がファンタジーだっつーの!!」

 「えっ、虫食べるのヨシュアくん!?」

 「虫食べませんよッ! そのネタ何回引っ張るんですか!? ってか、異世界人が『ファンタジー』とか横文字使うのやめてもらえませんか!? ぜんっぜんファンタジーじゃなくなるんですよ!! しかもアマノさんとか”アマノ”って名前で顔も日本人みたいで全然異世界間が無いんですよ絵面的に!!」

 「知らねェよ!! 俺に言わせればお前が異世界人だし!? 異世界人らしくもっと虫食う以外の何かやってみろ!! 俺をビックリするような知識披露して俺を倒すとかあっと言わせろ!!」

 「ハイナも~~ハイナもビックリしたい~~」

 「えーっと、何だろ。えーっと、みんな”スマートフォン”っていう小さな板を持っていて、動画を見たり音楽聞いたりしてるんですよ!!」

 すると急に、

 「すま……と、ふぉ、ん……? 何だそれは?」

 「すっ、すまっ、すまっと……??」

 察しが悪くなる二人に、

 「都合よすぎだろーーーっ!!」

 僕は我慢できずに突っ込んだ。


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