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魔女ベルティエ(3)

久しぶりに続き書きました。

 「鍛えたら面白くねって事。この変わった体質で、色々仕込んだら――」

 「――ソレ以上は、言葉を選びなよ。もう良い歳なんだから、分別くらいつけなよ」

 急に雑貨屋のこの部屋が、冷気を帯びたような寒さが支配した事にヨシュアは気付いた。

 「何がだよ? お前こそ何熱くなってんだ? 面白いモン面白いって言って何が悪いんだよ?」

 アマノからも気のようなモノが発せられ、二人の間に時空の歪みのような、対流による大気の混じりにも似た、殺気のぶつかり合いが起きる。その日初めてヨシュアは「殺意って見えるんだ......」と学んだ。

 「......アイツが死んだから暇してて、その暇潰しにアタシもその子も巻き込む気? ふざけんなよ」

 「お前こそ何勘違いしてンな事言ってんのか分かんねェけど、誰もアイツの話なんてしてないよな? ワザワザ話題に出すって事は――お前が引き摺ってんじゃねェのか?」

 途端、薄暗い部屋は恒星を目の前にしたような目も眩む明るさに包まれた。その光はベルティエの掲げた指先の上から発せられていた。

 (......星?)

 とヨシュアが勘違いしてしまうのも無理はない。その光は大きさはビー玉より小さかった。彼女の指先より小さな丸い光源が、手を翳しても目を閉じても視神経を突き刺す程の明るさを産み出しているのだ。

 「バッ――――!?」

 「――死んどきな」

 焦るアマノに向かってベルティエは指を軽く曲げる。それだけで流星が瞬いた。その刹那、

 「疾ッ!!」

 気合一閃、アマノは居合いの要領で手の甲を高速で打ち出し、鞭めいた振り払いで恒星を霧散させた。弾けた光の粒子が飛び散り、あちこちで僅かな熱源としてモノを少しだけ焦がす。

 「アチッ!?」

 「お前、こんな狭ェ部屋でなに考えてンだブッ殺すぞ!?」

 「あの......」

 「子供の遊びみたいな魔法じゃない、誰でも使えるレベルの炎魔法」

 「誰が使うかがすげェ重要なんだよ! ンなの当たったらシャレになんねェだろうが!?」

 「あの!!」

 「あン?」

 ――かのように思えた、が。

 「――あの、その、コレって......」

 ヨシュアは二人に見えるように手を掲げる――煌めく粒子が、着弾した肘から渦を巻いて手首から掌、そして指先に集束し、そこから煙の如く虚空へと消えていく。その様子を、二人は呆然と見ていた。

 「あっ、スウェットが......」

 反応の無い二人に、ヨシュアは焼けて穴の所々空いたスウェットを悲しそうに摘まんで穴を数え始める。穴はしっかり空いており、彼の皮膚にまで火の粉が到達していたらしく、うっすらと赤く、火傷していたのが見て取れた。

 アマノはバッと動き出すと、ベルティエの手を握り、

 「いっ、痛ッ!」

 という彼女の言葉も聞こえないようで、脇目も振らず部屋から連れ立って出ていくと、

 「おいっ、アレ......!? 何だよ......!?」

 彼女の肩を両手で問うた。チラチラッと部屋を覗き混み、ヨシュアを窺いながら。

 「分かんないわよ......! でもアレ、魔力が......」

 二人で部屋を覗き込んでくる。二人とも眉間にシワが寄っていた。ヨシュアは、どうしていいか分からず、「どうしたんですか......?」と不安げな声を漏らすが二人はソレを無視してまた顔を引っ込める。

 「魔力、身体の中でメチャクチャに回ってて何アレっ、本当に何、アンタ一体何を連れてきたの......!?」

 「分かんねェけど、アレ、どっからか噴き出しちまいそうだぜ......!? あんなの暴走したら......」

 再度二人は一緒に顔を出し、ヨシュアが声を掛ける前に隠れてしまった。

 「アタシの店が跡形もなく無くなるわね......」

 「バトウに殺される......」

 「その前にアタシが殺すけどね」

 頭を抱えるアマノを冷ややかな眼で見るベルティエ。

 「でも見て、アレ......!」

 ベルティエが指を指す、その先ではヨシュアの腕を纏っていた光が徐々に消えつつあった。

 「何だァ......? アレだ、死ぬ時に似てるな、魔力の抜けが」

 「ちょっと試してくる」

 アマノが話し終わるより先に、ベルティエは再度指先に光を灯しながらヨシュアに歩いていく。

 「あのっ、さっきの光って」

 「ちょっと待っててね~」

 誤魔化すようにヨシュアからの質問をはぐらかすと、彼女は指先の光をヨシュアの手の甲へ近づける。ベルティエはまだ部屋の外から顔を出している彼へ顎をしゃくった。

 「まだよね?」

 「まだだな」

 二人の目に、先程のような魔力の奔流は見えない。

 「今回の魔法は灯りの代わりだから熱くないからね? ちょっとごめんね」

 そう、困惑しているヨシュアに伝え、ベルティエは彼の手に光を押し付けた。すると――

 「――あら」

 「――なるほどねェ」

 再びヨシュアの身体が魔力の旋風を纏い、ベルティエの触れている側の腕が光った。それを確認すると、逆の手に押し付ける。すると、そちらの腕が光り、渦巻いた。

 「ひょっとして......ねぇ、コレって」

 「ちょっと頭とか腹とか当ててみ?」

 言葉に従い、ヨシュアの身体のあちこちにベルティエの指が当てられる。その度、二人は「ほぉ」や「あら」、「そんな場所まで!?」とか「これどうなっちゃうのォ?」など、様々な感嘆の声が漏れ、終わる頃には二人とも奇妙な満足感を覚えていた。

 「あの、そろそろさっき腕が光ってた理由教えて欲しいんですけど......」

 やけに上気した顔のベルティエはそう請われ、少し恥ずかしそうに咳をして立ち直る。

 「あっ、ごめんなさいっアタシとした事が......えーっと。じゃあアタシの言う通りに言葉を繰り返して。出来る?」

 自身の求めていた説明とは違う事にヨシュアは不安そうな顔でベルティエを見上げ、そしてアマノの方へ顔を向ける。アマノは「とりあえずベルの言う通りにしてみ?」と少し笑みを浮かべており、それで僅かに安心したのか、

 「......分かりました」

 と了承した。

 「いい子だね~、じゃあいくよ?」

 ベルティエがヨシュアの未だ粒子を発している腕を手に取り、掌を上に向けるようにして自身の手で包む。輝きが、俯きがちな彼の顔を照らす。

 「”光よ、あれ”」

 「ひっ”光よあれ”」

 すると、どうだろう。魔力が無いと言われていたヨシュアの指先に、光が灯った。ベルティエのモノと比べると僅かに小さな光の玉が、彼の指先で浮いていた。

 「――アンタの言う通り、面白いかもね」

 彼女は口を三日月のように裂き、微笑んだ。


今は書きたいときみたいです。

いつまで書けるか、自分でも……。

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