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57. 人狩り

「これは、一体どういうことだよ。」


アスタロートのつぶやきは、周囲に集まった数百人の民衆の喧騒で誰にも聞こえなかった。


人々はリザリンたちの前の道路に集まって、口々に言いたいことを言っている。


そのすべてが、フルーレティーの領土へ行きたいとのことで、中にはフルーレティーの領のことをイーストヘブンにつれてってなどと呼ぶ人もいた。


「お前たちが行きたいって言ってるのは天国じゃなくて魔族の国なんだけどな・・・。」


「アスタロートんさん何か言いまいしたか?」


ノーズルンが辛うじてアスタロートが何かを言ったことは分かったが喧騒に搔き消され内容までは分からなかった。


「いや、あのぉーーー。」


アスタロートが、返事を詰まらせると周囲の喧騒が静かになり始めた。


リザリンが、立ち上あがったのだ。


アスタロートの意識が、ノーズルンからリザリンへと移る。


何度も繰り返されている人狩り、この村もフルーレティーの領の住民もみな受け入れているようだ。


この状況下で、リザリンが民衆を攻撃することは考えにくいが、これから何が起こるのか予想できないアスタロートはリザリンの行動に注目する。


リザードンであるリザリンは、人間種に比べ身長が高く立つだけで遠くにいる人にも良く見えるだろう。


リザリンよりも頭半分小さいアスタロートもぽかんとしながら周囲を眺めているが、人の多さが見て分かる。


リザリンが拳を上げて叫ぶ。


「人狩りに来たぞーーー。」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉーー!!!」」」


人狩りに来たことを宣言するリザリンと何故かそれに呼応して雄たけびを上げる民衆。


ライブハウスのような熱狂を感じた。


人攫いに来たんですよね。


攫われる側の人間がなんで喜んでるの?


アスタロートの頭の回路は収拾がつかなくてシート寸前だ。


攫いに行く側の国では称賛されていた行為でも、攫われる国では真逆の反応かと思っていたが本当に違うらしい。


アスタロートが思う人攫いの固定概念に勘違いしていることを理解はしているが、この異世界の住民の思考が分からない。


確かに、フルーレティーの領の人間たちは暴力を振るわれている感じはなかったし身なりもよかったから、奴隷としての扱いは最上級といってもよいのかもしれないが、みんな奴隷の身分で亜人のためにいろいろと働いていたのを見たし、一方で魔人はろくに働いている者はいなかった。


見たところこの町は少しみすぼらしく見えはするが、奴隷になり亜人や魔人のために働くよりは、この町で自分たちのために働く方がいいように思えるが、実際にはそう思ってはいないようだ。


何がそうさせているのか理解できないが、事実彼らにとってこの町で町人をするよりフルーレティーの領で奴隷として働く方がよい生活ができると考えているようだ。


プシュー。


頭をフル回転させて状況を整理したアスタロートの頭から湯気がでた。


「いつもは、もっと少人数でやるんだが、これだけ集まったら仕方ねぇ。少し時間はかかるが、これから獲物抽選大会を執り行う。」


「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」


「はぁぁぁぁ。抽選大会ぃぃぃぃ!!!」


アスタロートも突然の展開に驚きを隠せない。


まさか、人を攫いに来て攫われる側の人間を抽選で選ばれたものになるとは思いもしなかった。


確かに、このままだと村人全員がフルーレティーの領までやってきそうだが、生憎人が乗る荷台の定員は30人だ。


全員を連れていくことはできない。


だから、抽選をして人を攫う人を選出するのだろうが、これは人狩りなんてものじゃない。


戦火を逃れるために難民船の搭乗券を獲得するために、チケットを争って抽選会をしているような気持ちだ。


「おい、ノーズルン。人狩りって称するから勘違いしてたじゃないか。フルーレティーの領への移民希望の人を連れていくだけじゃないか。」


「ぇぇえ!とんでもないです。それだと私たちが人間ごときを連れていくために働いているみたいじゃないですか!!!これはれっきとした人攫いですよ。悪魔の所業なのです。」


「人攫いって言い張るのなら、町に火を放ち逃げ惑う住民を襲ってほしい人数だけ連れ去ればいいではないか。これじゃぁ、抽選会じゃないか。」


「ひぃぃぃ。なっなんて恐ろしいことを考えるのですか!!!アスタロート様は、戦意の無い人を揶揄うだけでは飽き足らず、攻撃までするのですか!」


ノーズルンは数歩後ずさりアスタロートから距離を取った。


「しねぇよ。」


ノーズルンは、アスタロートから逃げるように抽選会の準備をしている仲間の元へと移動していった。


全くめんどくさい奴らだ。


初めから移民希望の住民を連れてくる仕事だと教えてくれていればこんなに悩まなくてよかったのに・・・。


まぁ、それを認めてしまうと人間のために魔人が働くことになるからそうと認めたくないのだろうが・・・。


彼らの中では、人狩りと称し、魔人が人を攫っているという構図にしているのだろうが、ただ、魔族が移民希望の住民を安全にフルーレティーの領まで送り届けているだけじゃないか。


念のため、こっそりと端の方にいる人間に聞き込みを行ってみたが、やはりただの移民希望者のようだ。


どうやら、リザリンたちを裏切る必要はないようだ。


リザリンたちと戦わずに済むことに気づくとアスタロートの体はかなり軽くなった。


「お待ちください。」


リザリンと仲間たちが、抽選会準備をしようとしていたら、人垣をかき分けて老人がやってきた。


「ブルアァ。町長じゃねぇか。ブルァーッハッハッハッハ。いつものように人を攫いに来たぜ。もちろん、いつもの食料もある。人を攫う代わりに食料はいつもの場所に置いていく好きにしな。」


「おぉぉ。いつもありがとうございます。いえ、それどころではないのです。」


「あぁん。どうした。俺たちの邪魔するならあんたでも容赦はしねぇぜ。」


「いえ、そんなつもりはないのです。ただ、周辺地域の視察で騎士団が今日の夕方ごろに来られるのです。」


「ブルァーッハッハッハッハ。そうか、そうか。俺はついてるぜってことはあの爆発野郎とのリベンジマッチができるわけだな。前回の借りは返させてもらうぜ、ブルァーッハッハッハッハ。」


「いえ。それが・・・。どういうわけだか、今回の視察にはバクマン様が来られるのではなく、どういう訳だか、王都の騎士様が来られると知らせがありました。それも、特記戦力だとか・・・。」


特記戦力と聞いて、周囲の人たちの目の色が変わる。


「で、いつ来るんだよ。」


「それが、今日の昼から夕方の間に来るかと・・・。」


「なにぃ。あんな化け物どもの相手なんかしてられるか! おい、作戦変更だ。ショートプランを執り行う。」


「「「はい!!」」」


そういえば、ここの町に入る前も特記戦力を気にしていたが一体どんな奴らなのだろうか?


リザリンの号令にいつも適当な返事を返していた魔人たちが歯切れのよい返事をして、周囲の人間も目の色を変えるほどの存在であることは間違いない。


「ショートプランは、じゃんけん大会だ。」




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