39. 帰ってきた町
アスタロートは西国の町が見えなくなってからオーラ武装を解除するために森の中に降り立った。
オーラ武装は、纏っていたオーラを霧散させると水のように溶けてなくなっていった。
はぁ。アスタロートは盛大なため息をつき座り込む。
やっちまったぁ。
いや。懸賞魔人に乗っていた時点で西国へと入ることは出来なかったが、すぐに帰るべきだった。
少し手合わせしてそのまま帰る予定だったが、しっかり戦ってしまった。
自分がオーラ武装してからバトルジャンキーみたく戦ってしまうとは・・・。
確かに、オーラ武装で一段階強くなったのをしっかりと感じ取れた。
かつてないほどに体が動く経験は楽しかったのも事実だ。
実際。ポメラニスを簡単に追い込めたし、周辺地域最強を名乗っていたバクマンとも危なげなく戦えた。
でも、それがまずいなぁ。
おそらく西国との関係を元に戻すのは難しいだろう。
まだ、誰も殺していないから罪は軽いかも知れないが関係を修繕できる気がしない。
過去の異世界ものを参考にしてもダークサイドポジションの主人公は終始ダークサイドだ。
もうこのまま、ダークサイドで知将目指そうかな。
ん? いや、まだ道はある。
異世界転生もの以外でも主人公じゃないがよくあるじゃないか。
最初適役だった奴がなんやかんやで目的が一緒になって、いつの間にか仲間になっている展開がある!
よし、その路線で行こう。
そうと決まれば、さっさと帰ろう。
自分の方針が決まったアスタロートは、軽やかに飛び出す。
ふう。やはり、オーラ武装を纏わなければ簡単に飛べるな。
オーラ武装で空を飛んだときは水の中でもがいているようで飛ぶのに必死で何も楽しくなかったが、オーラ武装を解除して飛ぶと風を感じられて気持ちいい。
アスタロートが、フルーレティーの町へ戻って来たのは、辺りが暗くなって闇が深まった頃だった。
空から見てほのかに光が漏れている町は見つけやすかった。
夜中の町は静まりかえっており外に人は出ていない。
昨日泊まった宿の前に降り立つも今日はもう営業を終了しているのか、扉は閉まっていた。
再び空を飛び、これからどうしようかと町を見下ろしながら大きく円を描くように飛んでいると、町外れの草原に白いウェーブのかかった長い髪の見知った亜人がいた。
ゆっくりと、滑空しながらバクの魔物の前に降り立つ。
「おぉ~~。こんばんわぁ。こんな時間に会うなんて、どうしたの、どうしたの~。」
昨日、ホテルで受付をしていたバクの魔物は、昨日とおんなじ様子でおっとりとした口調で話しだす。
西国で出会った人達はみな友好的でなかったから、こうして友好的に話されると心が安まる。
「いや、今日は遠出していて今帰ったんだよ。」
「へぇぇ~。そうなんだねぇ~。随分はしゃいできたようだねぇ~。どろんこだよぉ~。」
バクにそう言われて自分の姿を見てみると、随分とほこりっぽくなっていて、かすり傷も多い。
ポメラニスの最後の攻撃を受けた場所はミミズ腫れのようになっている。
「あははは。」
西国に行って戦ってきたとも言えずに笑ってごまかす。
バクはあまり興味がなかったのか、返事を聞くと辺りをキョロキョロし始めた。
「バクは何してるの?」
「ん~。あたしはねぇ~。おぉ! あったあった!」
バクが声を上げて草むらをかき分けてその奥に咲いていた花を根っこから土ごと抜き取る。
「おぉぉ~。いい花だねぇ。この花をねぇ~。宿屋さんまで持って行かないと行けないんだよねぇ~。ほらさぁ。あなたも知っていると思うけどぉ。昨日宿屋さんの花を食べちゃったからさぁ。店主さんに怒られて、持って行かないと行けないんだよねぇ。」
「それでこんな時間まで探していたの?」
「そうなんだよねぇ~。モゴモゴ。」
返事をしながら口を動かすバク、手に持っていた花は、根っこと土だけ残してなくなっている。
いつの間にたべたんだか・・・。
「・・・。」
俺がジト目で見つめていると、バクはいま取った花を食べていることに気づいたようにはっとした表情をする。
「あぁ。またお花がなくなってしまったねぇ。不思議だよねぇ。朝からお花を集めているんだけど、食べてしまうからいつまで経っても集まらないんだよねぇ。」
見るからに落胆するバクの魔物。
「いや。食べるなよ。」
「いやぁ~。そうなんだけどね。お腹がすいているとつい食べてしまうんだよねぇ。困ったなぁ。採取するペースより食べるスピードの方が早いから、いつまで経っても集まらないよぉ~。」
「いや、食べないって言う選択肢はないのかよ。」
「おぉぉ。食べなければいいのかぁ。いやぁ~。気づかなかったねぇ~。でも、お腹がすいているのに食べないなんてこと出来るのかなぁ~。う~ん。」
う~ん。う~ん。と唸りながら自分が我慢できるか出来ないかを真剣に考え始めるバク。
何に悩んでいるのか知らない人が見れば、深刻な悩みがあるように見える。
はぁ。
なんだか、バクを見ていると西国と敵対してしまったことに悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しく感じてきた。
「我慢できそうにないねぇ~。」
悩んだあげくに出た答えがこれだ。
「なら、先にお腹いっぱいにしてから探したら。」
「おぉぉぉ。目からうろこがポロポロだよぉ。」
バクは気づかなかったとばかりに目から涙をポロポロと流す。
なんだか、子供と接しているようだ。
俳優の時に子役と接する機会が多々あったが、こんな子はいなかったが感覚は近い者がある。
「なら、今日はもう帰ろうか。」
「んん~。あなた、昨日宿に泊まったってことは自分の巣は持ってないのよね。自分の巣は作ったの?」
「いや、まだ作ってないんだ。」
持ってないどころか作る予定すらないんだがな。
「そっかぁ~。今日はもう遅いから宿には誰もいないよぉ。あなたには、色々教えてもらったし、あたしの巣に来る?ごちそうもするよ。」
「え!いいの?」
「うん。いいよぉ。その様子からすると、今日は巣作りに失敗しちゃったんだねぇ。たまにいるんだよねぇ~。巣作りの苦手な子が。」
バクの魔物はアスタロートの姿を見てひとり納得したかのように頷く。
「いや。ちげーよ。」
 




