223. 勇者たちのこれから
「おぉ!ネックレスか!ありがとう。」
正直、アスタロートはあんまりアクセサリーを付けないし、装飾品で身を飾るというよりは、無地のシャツを好む。
しかし、前世の職業柄プレゼントを受け取り慣れているアスタロートは、満点の反応をする。
アスタロートは笑顔でホムラからもらったネックレスを箱から取り出して付ける。
アスタロートが髪を寄せてネックレスをつける際に、うなじが見えたホムラは顔を赤くする。
「どうだ?変じゃなかな。」
「ううん。似合ってるよ。」
アスタロートがネックレスを付けるとシキがすぐに褒めるが、ホムラはアスタロートのうなじを見て呆けていた。
「ちょっと、何、ボケっとしているのよ。シキもはっきり、言いなさいよ。」
「あっ、あぁ。いいんじゃないかな。」
ホムラが照れくさそうに褒める。
灰の砂漠でホムラがアスタロートに好意を伝えていることは皆が知っていることで、
勇者パーティ内では、ホムラがアスタロートに気があることは周知の事実である。
そのことを知っているシキはホムラにもっとしっかりアピールしてほしかったのだ。
実際に、アスタロートもホムラがアスタロートに思いを寄せていることを知っているが、今回のプレゼント作戦は空振りに終わっている。
シキは奥手だったホムラが自らプレゼントを買うようになっただけでも良しとするか。
「よし。じゃぁ。全員揃ったことだし。これからのことを相談するか。」
ライザーの発言を皮切りに全員の目つきが変わる。
顔を赤くしていたホムラも気持ちを切り替えて、いつも通り話し始める。
「これから、ザガリスが俺たちの武器を作ってくれるまでこの町に滞在する予定だが、いくつか相談がある。」
ライザーは、もう話を聞いているのか、ホムラの意見に同調してうなずいている。
詳細を知らないのは、シキ、ガイモン、アスタロートとレロンチョだけのようだ。
「もともと、ザガリスが武器を作ってくれている間、灰の大地でベーゼルの複製体と戦う予定だったが、その他にもいくつか依頼があってな。そのため、これから3つのグループに分かれて行動しようと思う。」
「へぇ~。パーティを分けて行動なんて初めてね。それで、あたしは誰と何をしたらいいの?」
「うん。シキは、ガイモンとライザーと3人で灰の大地でベーゼルの複製体の殲滅に当たってほしい。」
「え~。ガイモンも一緒なの?ベーゼルの複製体なんて、こっちがオーラを纏えるならライザーと2人で楽勝よ。」
「言ってろ。俺だってシキがいなくても、ライザーと2人で討伐できる。」
「何よ。あたしは、いらないって言うの?」
「先に言ったのはお前の方だろ。ちゃんと俺の指示に従えよ。」
「何で、ガイモンがリーダーなのよ。あたしが指揮をとるに決まっているでしょ。パーティの要のヒーラーよ。」
「アハハハハ。3人をまとめるリーダーはライザーに頼むよ。」
2人が言い争っているのを見たホムラは、ライザーにリーダーを頼む。
「それが、よさそうだな。それで、ホムラとシープートさんは、どうするんだ?」
「そうよ。ベーゼルの複製体を相手にすることは聞いていたけど、あと2つのグループに分けるんでしょ。ってことは・・・。」
シキが、ホムラとアスタロートに視線を向ける。
今、残っているメンバーは、ホムラと俺とレロンチョだ。
レロンチョは正式には勇者パーティではないから、俺とホムラはそれぞれ別の依頼に着くことになる。
「あぁ。俺とシーさんは、それぞれ別の依頼に対応する。」
「それで、どんな依頼なんだ?」
「あぁ。俺は、この町の騎士団長のガ―ディンに呼ばれて、町の防衛線に加わる。」
「防衛線に加わる?どうしそんなことを?町の護衛は騎士団の仕事だろう。」
「あぁ。そうなんだけど、騎士団は、今回のベーゼル複製体の来襲が、技領がこの町に攻めてくる前兆なんじゃないかと疑っているんだ。それで、滞在している間、町の防衛線について理解して、遊撃隊として駐留してほしいみたいなんだ。この町には、ドワーフの技術が詰まった防衛システムがあるらしい。それについての説明と重要防衛箇所について会議するんだ。」
「うぇぇぇ。会議・・・。」
シキは会議という言葉を聞いて、すぐにうなだれる。
「なるほど、じゃぁ。町の防衛に関することは、後でホムラから共有してくれるんだな。」
「あぁ。会議が何日かかるか分からないが終われば、俺もみんなに合流するよ。」
「分かった。」
「それで、俺は何をすればいいんだ。」
「シーさんへの依頼は受けるかどうかは、シーさんに任せるよ。絶対ではないから断ってくれても構わない。」
「おっおう。」
何を頼まれるのか見当もつかないが、前もって断ってもいいと話を振られるあたり随分と危険な香りがするな。
「シーさんには、封印の祠に行って、スケリトルドラゴンスライムの調査をして来てほしい。」
「「えっ!?」」
シキとガイモンが声をあげて驚くが、あらかじめ話を聞いていたライザーが腕を組んだまま微動だにしない。
「ちょっちょっちょっと。ホムラ、正気?シーちゃん一人にそれを任せるつもり?」
「だから、俺だって、断ってくれても構わないって言ってるだろ。でも、必要なことなんだ。技領がもし、スケリトルドラゴンスライムを討伐していれば、最も注視すべき存在は、それを討伐した技領だ。まだ、スケリトルドラゴンスライムがいるのであれば、注視すべきは、ドラゴン種だ。それには、現地を赴いてスケリトルドラゴンスライムの調査をするしかない。何も、戦えって言っているわけじゃない。シーさんなら、スケリトルドラゴンスライムから逃げきれると思っての判断だ。」
「でっでも、危険すぎるわ。」
「もちろん、俺も強要するつもりはない。」
「いいよ。」
「ほら、シーちゃんも断ってることだ、ってえっ?行くの?本気?やめるべきよ。危険すぎるわ。」
「いや。レロンチョにも手伝ってもらうし何とかなるよ。レロンチョは隠密行動が得意だからな。」
「はぁ。ふざけんなよ!俺は、この町でゆっくりさせてもらうね。」
レロンチョは協力するつもりはないよだが、そもそもレロンチョには手伝ってもらうつもりはない。
レロンチョに首根っこを掴み、耳元でささやく。
「ほら、知領まで送ってやるからな。俺はフルーレティに報告したいし先に知領へ向かおうと思うんだ。封印の祠へは帰りに寄るよ。飛べばすぐだからな。いいだろ?」
「ほっ、本当か!」
知領まで送ってくれると聞いたレロンチョは顔を輝かせる。
それも、そうだろう。
ここから、知領まで歩いて帰ろうと思うと遠い。
それを、飛んで送ってあげると言っているんだ。
レロンチョからしたら渡りに船だろう。
アスタロートも、自身のお願いでここまでレロンチョを連れまわしていることもあって、きちんと送ってやりたいのだ。
「あぁ。」
「ちょっと、2人とも、本当にいいの?危険すぎるわ。」
「あぁ。俺から相談をしておいて、こう言うのは変だけど、断ってくれていいんだぜ。正直、先方も受けてくれるとは思っていないだろうし。」
シキが、やめるように言ってくるが、アスタロートにとってはちょうどいい提案だった。
そろそろ、一度知領に戻ってフルーレティに勇者パーティを力将と技将の側近から守った報告とノーズルンとバクバクに会いに戻りたいと思っていた。
こっそりと、知領に戻るにはこの調査はアスタロートにとって都合が良かったのだ。
調査は、1日で終わるだろうが、この町から徒歩で行って帰ってくるには数日かかる。
アスタロートが空を飛べば封印の祠経由で、知領まで行って帰ってちょうどいいくらいの時間だろう。
「問題ない。居ることが分かっていれば、対処のしようもある。遅れは取らないさ。」




