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222. ホムラのプレゼント

昨日の一件から一夜明けた今、町中のいたるところに、女神アスタロート降臨とアスタロートの懸賞魔人の髪が貼られていた。


ホムラ達と待ち合わせているギルドでもいたるところに新しいビラが貼られており、町の人たちの会話はアスタロートとモコモッコ羊教の話で持ちきりだった。


「おい、聞いたかよ。あの、アスタロートが昨日この町に現れたみたいだぜ?」

「あぁ。知ってる。なんでも、モコモッコ羊教を内部分裂させたとか。」

「俺は、アスタロート派ってのが、肉の流通を再開させたみたいだぜ。広場ではもう新鮮な肉が売られてたぜ。」

「何!?」

「よし。早く食べに行こう。」


3人の男たちが、アスタロートとレロンチョが座る席の後ろを走り去っていく。


「なぁ。シープート。お前、昨日モコモッコ羊の教会で何をしでかしたんだ?」


「なっ、何もしていない。うん。何もしていない。俺は悪くない。」


レロンチョの問いかけに、アスタロートは顔をそっと背けて答える。


レロンチョはアスタロートの反応から昨日何かあったことを確信しているが、アスタロートが話したがっていないので追及しないでいる。


朝のギルドまでの道のりの屋台でモコモッコ羊の肉が売られていることに気づいたレロンチョにとって、自身のモコモッコ羊への復讐は達成したも当然だったからだ。


「なぁ。アスタロート。昨日のクッキー貰いに行かなくていいのか?」


「いいさ。あのおっさん。信者たちの派閥争いでどっち側に着くか迫られて答えも出さずに逃げたんだぜ。今も姿をくらましているらしい。会っても、クッキーなんて貰えないさ。」


「そっ。お前がいいならいいんだ。」


アスタロートは机の上に置かれた飲み物を一口飲む。


苦い。


ギルドに併設している食堂で適当に指をさして頼んだ飲み物だ。


大きな文字で書かれていたから外れではないと思っていたが、はずれだった。


ジョッキ一杯に注がれた得体のしれない飲み物を飲むのを諦めて机の上に置く。


「なぁ。レロンチョ。お前、これからどうするんだ?」


「あぁ。しばらくお前と一緒にこの町に滞在して、そのうち知領に帰るさ。」


「そうか。それにしても、随分多くのビラが貼られているな。」


「そうだなぁ。」


ギルドの壁を見ると、モコモッコ羊教のアスタロート派の人が今も熱心にアスタロートの降臨のビラを貼っている。


何かの広告の上にもお構いなしにビラを貼っている。


そんなに張っても無意味だと思うんだけどな・・・。


そんな彼らの姿をなんとなしに目を追っていると、一枚の古い懸賞魔人の上にビラを貼ろうとしたが、その古い懸賞魔人の上を外してビラを貼る。


日に焼けて汚れている懸賞魔人の姿は、地平線にカカシが並んでいる姿の絵が描かれている。


危険度を示す骸骨の数は、10個でアスタロートと並んで最大だ。


アスタロートは色あせた懸賞魔人の顔をどこかで見たことあるような気がするけど思い出せない。


いや、描かれているのがただのカカシだから勘違いかもしれない。


「なぁ。レロンチョ、あの懸賞魔人だれなんだ?」


「あぁ?知らねぇ。」


「まぁ、知っているはずないわよね。」


突如、アスタロートとレロンチョの間に、ピンク髪の女性が割り込んでくる。


「おはよう。シキ。」


「おはよう。シーちゃん。」


「あの魔人はね。一人で西国騎士団の進行をくい止めた伝説の魔人って言われているわ。」


「へぇ。強いんだ。」


あのカカシの顔からして強くは見えないが、騎士団の進行を食い止めたのであれば随分と強いのだろう。


「キャハハハハ。シーちゃんは純粋ね。都市伝説に決まっているじゃない。架空の魔人よ。大体一人で騎士団の進行をくい止められるはずないじゃない。そんな化け物みたいな魔人がいたら人間はとっくの昔に滅ぼされてるわよ。」


「なるほどね。それもそうか。それで、みんなは?」


「あぁ。ホムラ達ならそこにいるわよ。」


シキがギルドの入り口を指さすと、そこにはなぜか入ってこようとしないホムラと無理やり連れてこようとしているライザー、2人を傍観しているガイモンの姿があった。


「何してるの?」


「さぁ。あたしは知らない。あいつらバカだから。」


アスタロートが視線を向けていると、ホムラと目が合う。


目が合ったホムラは、観念したかのようにアスタロートの方へやってくる。


ホムラは、この旅の最後で自身が魔王の呪いを受け次の勇者に殺されることを覚悟していたが、ザガリスの話で呪いを解く手がかりをつかめたため、ほんの少しだけ旅の終わりに希望を持ったのだ。


勇者の故郷のサガを探せ。


それが、ザガリスが教えてくれたホムラにとっての希望の道しるべだ。


サガを探し出せば、ホムラにとってこの旅の終わりは、人生の終わりではなくなり、人生の一部となる。


旅の終わりのその先の未来に希望を持ったホムラは、アスタロートにアプロ―チすることを決めたのだが、いざアプロ―チとするとなると小恥ずかしくなってしまったのだ。


「シーさん。」


アスタロートと視線が合ったことで覚悟を決めたホムラは、手を後ろに組み背に何かを隠しながら近寄ってくる。


その行動のすべてが怪しく、流石のアスタロートも気づく。


「ん?後ろに何か隠してどうしたんだ?」


「そっその。」


「おい。ホムラ、さっさと渡しちまえよ。」


ライザーにひじで突かれたホムラは、アスタロートに一歩近づく。


アスタロートの顔が目前まで近づいて、顔を赤くして一歩引き下がる。


「こっこれ、プレゼント。シーさんに受け取ってほしい。」


ホムラがアスタロートにプレゼントを渡すことを知っていたシキ、ガイモン、ライザーの3人は、これからの展開に胸を躍らせて見守っている。


「えっ。プレゼント!ありがとう。嬉しいよ。でも、どうして?」


アスタロートは、ホムラからのプレゼントを受け取る。


「ほら、その仲間になったことだし・・・それで、そのお祝いに昨日買ったんだ。」


「そっか。“みんな”ありがとう。開けて良いか?」


「えっ、あっ、うん。」


ホムラからの個別のプレゼントを渡したはずなのに、なぜかみんなからのプレゼントになってしまったことに、周囲の3人がずっこける。









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