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210. 砂風呂

「もう。一緒に温泉くらい入ってくれてもいいじゃない。」


しばらく、砂風呂の砂の中に身を隠すアスタロートに食い下がったシキであったが、一向に砂風呂から出てこないことに気づき、プンスコプンスコ怒りながら一人温泉へと向かっていった。


ふぅ。


やっと諦めてくれたか。


危くアスタロートのチェリーが収穫されるところだった。


「シープート様。砂加減はいかがですか?」


砂を山の中に身を潜らせていると、砂山を手入れしているメイドが話しかけてきた。


意識を砂に向けると、すぐに今まで入ってきた砂風呂とは一線を画すことが分かった。


「なんだこの砂は、サラサラで肌触りがいい。」


「はい。こちらの砂は、砂の大魔法使い様が、砂の粒径分布を砂風呂に最適に調整したものでございます。ほかにも、天然砂風呂や単粒砂風呂、灰の大地産砂風呂等ございます。」


周囲には規則正しく砂山が並んでおり、1つ1つ若干色合いが異なっている。


メイドの話の通り砂山1つ1つ砂の種類が違うのだろう。


砂山の前の壁には、何やら説明書きがされているが、文字の読めないアスタロートにはどれがどれだか分からない。


分からないが説明などどうでもいい。


全ての砂山に入ってその違いを堪能せればいいだけだ。


「ご利用の後はあちらのコーナーで砂を落としてから外に出るようにしてください。」


メイドが指さした方向に、最後の砂を落とす簀子が敷かれた場所がある。


メイドから利用方法を聞くとその細部にまでこだわっていることが分かる。


部屋の隅には、ご自由に使ってくださいと言われた木製の道具がおかれている。


スコップやレーキは砂を集めるために使うのだろう、だが、横たえられている丸太や木の幹は何に使うんだろうか?


前世の経験をひっくるめてもここまで広く設備が整った砂風呂は経験したことがない。


いくら金持ちだとは言え、この規模の砂風呂が用意されているのは不自然だ。


「あぁ。ありがとう。それにしても、人の屋敷にこの規模の砂風呂はすごいな。イーバルさんは砂風呂が好きなのか?」


「いえ。イーバル様は特段砂風呂がお好きだとは聞いたことがありません。」


「嘘だろ。だって、自分の家にこんなに広い砂風呂を作るんだぜ。砂風呂好きじゃないとなんだっていうんだよ。」


「うふふふふ。この屋敷を建てたのはイーバル様のお母さまであるセンリ様です。異様に砂風呂が広いのは、センリ様のご親友のためにお創りしたとお聞きしております。」


「へぇ~。友人のためにここまでの砂風呂を作るなんてすげぇな。」


「ただ、そのご友人は一度も入られたことがないのです。」


「えー。なんでだよ。俺だったら毎日入りたいけどな。」


「では、私は失礼します。ゆっくりとお寛ぎ下さい。」


簡単に使用方法を教えてくれたメイドは、その場を後にした。


広い砂風呂場にアスタロートが1人、通路からはこの中は見えない。


ここでなら翼を大きく広げてゆっくり砂風呂を堪能できそうだ。


ずっとモコモッコ羊の格好でいると、翼が硬くなって仕方がない。


翼を広げて、服を脱いで、砂の中に入っていれば誰かが来てもすぐにはバレないだろう。


もしかしたら他にもメイドがいるかもしれないから、念のため部屋を見渡して誰もいないことを確認する。


すると、砂陰に妙な足跡がついていることに気づく。


間違いない、レロンチョだ。


レロンチョの足跡はアスタロートが入っていた砂山の2つ隣の場所に続いている。


今のアスタロートはメスで、レロンチョはオスだ。


お風呂で透明化となれば間違いなく除きだが、アスタロートはその思考を捨て去る。


相手は魔人で俺は亜人だ。


以前リザリンに半裸姿を見せたことがあったが、特段何も気にしていなかった。


そのことから、魔人や亜人の種族が異なると性の対象にならないことを確認している。


本当は、そんなことはなく十分性の対象になり、アスタロートは盛大に勘違いしているのだ。


前回のリザリンも表情には出さず、内心大喜びしていたのだ。


「おーい。レロッ・・・。」


レロンチョにわざわざ透明化して何をしているのか、訪ねようとして止まる。


わざわざ透明化して、俺から離れた場所に砂風呂を利用しているんだ。


灰の大地で俺が勇者の仲間になることを快く思っていなかったレロンチョは、俺と距離を取りたいのかもしれない。


そんな、レロンチョに声を掛けるべきじゃない。


それに、翼を広げて砂風呂に入るのであれば、常に意識を出入り口に向けて誰かがきたさいにすぐに翼を体に巻き付け変装しなければならない。


レロンチョの会話が弾んでしまうと警戒がおろそかになる。


そうならないためにも、ここはお互い不干渉でいた方がいいだろう。


レロンチョに話しかけずに、外に誰もいないことを確認したアスタロートは、大きく翼を広げて伸びをする。


翼を構成する多数の骨と関節からポキポキと音が鳴る。


ずっと体を包み込むようにして動かさずにいたため固まった翼がほぐれていく。


あらかた翼のほぐれた取れたアスタロートは、ポイポイと服を脱ぎ砂の中に入っていく。


その時、レロンチョの方から息を飲む音が聞こえたが気にしない。


蹄の足は、地面との設置面積が少なく立つだけで砂に埋まっていく。


そのまま、砂山の上に寝転んでみると砂は暖かくサラサラで気持ちの良いものだった。


伸ばした翼をバタバタと小刻みに動かすと砂が舞い、体が徐々に砂に埋まっていく。


羽の中に砂粒が通るたびに翼の中の汚れが洗い流されていくのを感じる。


土の中に潜り込み、体を休めていると、透明なレロンチョの体に砂が積もっているのが視界の端に映る。


羽をバタつかせて砂が舞ったせいでレロンチョにかかってしまったのだろう。


話しかける予定ではなかったが、ここは素直に謝るべきだろう。


「レロンチョ。すまないな。砂がそっちまで舞ってしまったみたいだ。」


バレずに隠れられていると思ったレロンチョは、突如話しかけられたことで、自分の状況を確認する。


レロンチョの体にはアスタロートがまき散らした砂粒が体につもっており、どこ俺がいるのか1目で分かるようになっている。


慌てて自分の体に積もった砂を祓うが、もう後の祭り。


「やっぱお前、気付いていたのかよ。クソ。これは、やましい気持ちが合ったわけじゃないからな。おっ俺がここでゆっくりと砂風呂で体を温めていたら後からお前が入ってきたんだからな!おっ俺はすぐに出ていくよ。」


本当は、シキとアスタロートが風呂に行くのを偶然知ったレロンチョが透明化して2人の後を着いていったので、この砂風呂場には同じタイミングで来ている。


だが、自分は最初からいて、後からアスタロートがやってきたことにしないと、レロンチョはメスが砂風呂に入っているところに後から透明化してこっそり乗り込んだただの変態になる。


実際にはそれ以外の何者でもないのだが、それを認めるわけにはいかない。


認めたら最後、自分は変態魔族の烙印を押される。


何とかして、ごまかさなければいけないのだ。


だが、そんなレロンチョの心配事もアスタロートの一言で霧散する。


「何を言ってるんだ?レロンチョがそこにいたのは最初から知っているさ。邪魔しちゃ悪いと思って声を掛けなかったんだ。砂掛けてしまってすまないな。」


「ん???」


最初から気づいていた?


それに、砂をかけたことを謝られたぞ。


なのに、何も言わずに堂々と服を脱いで砂風呂に入った??


レロンチョの頭に大量のクエッションが飛ぶ。


思考の渦に迷い込んでいるレロンチョをよそにアスタロートが続ける。


「先に入っていたのはレロンチョだ。レロンチョが出ていくことはないさ。俺は砂をまき散らしてしまうから、レロンチョが嫌なら俺が後から入るよ。」


なぜ、怒らないんだ?


普通のメスの感性ならいまごろ俺は血祭りにあげられている。


それなのに、砂が掛かることが嫌ならアスタロートが後から砂風呂に入るだって?


そんな必要ないぜ。


アスタロートと一緒に砂風呂に入れるなら俺は喜んで砂を被るさ。


「はぁ。全然気にしねぇよ。お前も一緒に砂風呂楽しんだらいいじゃねぇか。」


「そうか、悪いな。できるだけ砂をそっちに飛ばさないように気を付けるよ。」


キタキタキタキターーーーー!


これで、合意の上で砂風呂に入れぜ。


分かったぞ。


アスタロートは異性を知らないんだ。


まるで、子供だな。


異常なほど戦闘に強いアスタロートだ。


これまでの人生のほとんどを鍛錬に費やしていたのだろう。


力将のバールもそうだと聞く。


人生の大半を鍛錬に費やしたベールは、メスに興味がないらしい。


すっごいイケメンで戦闘も強くファンクラブまであるのに自分のメスを作らない戦闘バカだ。


アスタロートも同じなんだ。


だから気にしないんだ。








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