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207. ドワーフの町

「おい。俺たちのモコモッコ羊の亜人様はどちらに行かれた?」

「くそ。お隠れになったぞ。」

「探せぇ。まだこの近くにおられるはずだ。」

「なんでだ?俺たちはお気持ちを表明したいだけなのに、どうして逃げるんだぁぁぁ。あーーーーー。」

「落ち着いて、手分けして探しましょう。」

「なら、俺は向こうを探す。」

「では、私は向こうを。」

「抜け駆けするなよ。」

「探すぞぉぉぉ。うぉぉぉおおおぉぉぉぉーーー・・・。」


追いかけていた人たちは、勇者一行が隠れている茂みの前で少し話してから、アリの子を散らしたようにバラバラに走っていった。


やだ、怖い。


1人、常軌を逸している奴がいた。


前世で、女性が夜道を一人で歩くのが怖いと言っていた話を聞いたことがあるが、今ならその気持ちが分かる気がする。


何、お気持ちの表明って何?


懺悔って何を懺悔されるの?


俺何もされていないんですけど、むしろ逆に追いかけてきたことを懺悔してほしい。


悪意は向けられていないようだが、逆に何をされるのか想像できないのが怖い。


茂みの中で怯えるように小さくなっているとシキがそっと手を握ってくれた。


流石、唯一の女性、俺に同情してくれているようだ。


街中を走り回った一行は、街角の茂みに飛び込んでやっと町人の追跡を振り切ったのだ。


今は茂みの中に頭を抱えて可能な限り体を小さくして隠れる。


さりげなく手を握ってくれるシキの手がありがたい。




「はぁ。はぁ。ようやく撒けたな。」


ガサガサガサ、ずぽっ。


ホムラが、茂みから顔を出して周囲を確認する。


「なんなんだよ。あいつらは?本当に人か?人の皮を被った魔物じゃないだろうな?ガイモン分かるか?」


ガサガサガサ、ずぽっ。


ライザーはホムラが顔を出している茂みから顔だけ出してガイモンに聞く。


ガサガサガサ、ずぽっ。


勇者パーティが逃げ込んだ茂みに3つの顔が咲いた。


「俺がなんでも知っていると思うなよ。だが、原因は分かる。このバカシキが。」


ゴン。


「いったーい。なにもぶたなくてもいいじゃない。あたしだって、余計なことをしたことくらい分かっているわよ。」


ガイモンのすぐ隣の茂みから頭を抱えたシキが咲く。


「4人とも奴らが帰ってきたら面倒だ。顔を引っ込めろ。」


「はーい。」


ザガリスに注意された4つの花は、茂みの中に帰っていく。


狭い茂みの中に入ると、未だに大きな体を小さくして身を隠しているアスタロートがいる。


「いや、シーちゃんごめんね。あたしが、不注意だったわ。」


「いや。良いんだ。イーバルさんが言っていたことがなんとなくだが分かった。あいつらに捕まったら俺どうなるの?」


「ふーん。」


背の低いザガリスは皆が地べたに這いつくばって隠れているのに対して、一人だけ普通に座って優雅に長く伸びた髭をゆっくりなでながら独特のテンポで話し始める。


「この間、この町でおもおっも石を持ち上げる大会が開催されたんだ。草食系亜人部門で有名なイノシシの亜人の選手がいるんだが、その選手にモコモッコ羊の亜人が同行していたんだがな。」


「うん。」


ザガリスの話に、アスタロートは似た2人組と出会ったことを思い出す。


「そのモコモッコ羊の亜人。1日中大勢の信者に付きまとわれて、お世話されたんだ。」


「お世話された?」


「あぁ。懺悔という。呪いの言葉を聞きながら、毛のお手入れをされていた。解放されたのはモコモッコ羊のくせ毛がストレートになってからだった。」


「モコモッコ羊の毛がストレートに?」


「あぁ。俺もこの目で見ていなかったら信じられなかった。モコモッコ羊の毛って櫛で研いでストレートになるんだな。」


「まじかぁ。モコモッコ羊の毛ってストレートになるんだな。」


ホムラが呑気に感想を述べているが、アスタロートはそれどころではない。


モコモッコ羊の毛がストレートになるまで櫛で、お世話をされると自分の毛が地毛でないことがばれてしまう。


「絶対に捕まりたくないな。」


「えぇ~。シーちゃんストレート体毛も似合うと思うよ。」


「いや、そういう問題じゃ。」


「あぁ。そういう問題じゃない。ストレート体毛になったモコモッコ羊の亜人は、体毛のカールが戻るまで寝込んだらしい。相当なストレスだったんだろうな。」


「よし。そろそろ移動していいだろう。こっちへ来い。」


イーバルがさらに茂みの奥へと匍匐前進で進んでいく。


「えっ?そっちに行くの?」


「あぁ。目的の俺の家はすぐそこなんだ。」


茂みをかき分けて進むときれいに管理された園庭に出る。


奇麗に切りそろえられた芝生に蛇行しながらずっと奥に続く歩道。


歩道の脇には花や植物が植えられている。


公園だ。


すげぇな。


前世では考えられないほど管理されていることが見て取れる。


このクオリティであれば、入園料をとってもいいくらいだ。


「ついたぞ。」


イーバルが、話す。


「えっ?」


確かイーバルの家に向かっていたはずだが・・・。


「ちょ、おイーバルさん、もしかしてこの公園に住んでいるのか?」


「ちっちが違う。俺をどこぞやの宿無しと一緒にするな。俺の家はこの雑木林を抜けた先にある。ここは、ただの庭だ。」


イーバルが、顔を赤くして抗議する。


イーバルが指さす先には確かに立派な屋敷が見える。


流石、騎士団の特記戦力No.1とNo.2と北部対魔人ギルドのトップを張る家系の家だ。


超が付くほどの大きな屋敷だった。






ホムラ以外の勇者一行はそれぞれ驚くほど広く豪華な客室に案内された。


アスタロートとレロンチョは、亜人専用の客室に案内された。


「こちらは、超高級ふわふっわ藁をふんだんに用いた草食系亜人専用のお部屋です。」


「・・・。ありがとう・・・。」


俺も、みんなと同じ普通の高級ルームがよかった・・・。





ホムラは、ザガリスに武器作成の打ち合わせと称して呼び出さイーバルの書斎で向かい合っていた。


ホムラは部屋に入った瞬間にただの武器の打ち合わせ出ないことを悟った。


ただの武器作成の打ち合わせであれば部屋にこだわる必要はないが、客室から離れたイーバルの書斎に通されて、使用人は退席させて、書斎の入り口にはイーバルが立ち他人の立ち入りを拒んでいる。


ただの武器の話だけでないことは明らかだ。


話し相手は、元勇者の仲間。


俺だって聞きたいことは山のようにある。


席に座ってしばらく無言が続いたが、ザガリスが話し始める。


「俺は、不器用でな。単刀直入に聞く。お前は、どこまで知っていて、仲間はどこまで知っている?」


「どこまでって、何を?」


ホムラにはすぐにザガリスが何の話をしようとしたのか察しが付くが、念のため質問内容を聞き返す。


ザガリスが話そうとしている内容は、西国内でも最重要機密だ。


情報漏洩を恐れた国の上層部は書面に記録することもやめたという。


「とぼけるな。俺たちの冒険の最後をどこまで知っている?今の魔王については?機密事項に関しても心配する必要はない。俺は元勇者パーティーでイーバルはセンリの息子。すべて知っている。それに、センリからは最低限しか伝えられなかったとも聞いている。勇者のお前には知る義務がある。すべて話す。」


「だが・・・。」


ホムラは話しずらそうにイーバルに視線を向ける。


「本当に少しは知っているようだな。俺のことは気にするな。父の話とはいえ、会ったこともない相手だ。踏ん切りはとうの昔からついている。」


イーバルは扉の前に立って淡々と答える。


「そうか。俺が知っているのは、勇者ラグナ―が魔王の呪いにかかり魔王になったということだけだ。仲間は何も知らない。」


「そうか。お前だけを呼び出したのは正解だったようだな。」







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