202. 2人の戦士
アスタロートの止めを刺し損ねたベーゼルは、新たな乱入者を認知しアスタロトの方へ襲い掛かってくる。
ベーゼルは、アスタロートに執着しているのではなく、新たに表れた強敵と戦うために距離を詰めてきたのだ。
謎のドワーフに助けられたアスタロートは、動こうとしないドワーフをぽかんと見上げていた。
アスタロートが、ぽかんと見上げているのは思考停止しているわけではない。
勝利を確信したからだ。
「イーバル。仕留めろ!」
「ったく。人使いが荒いぜ。」
助けてくれた老戦士が声を掛けるとベーゼルの頭上から巨大な斧を振り上げた戦士が現れる。
さらにその奥の方にはシキたち3人の姿が見える。
2人は、ここが灰の大地であることを忘れるほどの膨大なオーラを纏っており、そのオーラは灰の大地ではない普通の場所でアスタロートが全力で纏ったオーラ量に近いものがあった。
オーラの差は勝敗に大きくかかわる。
それが、アスタロートが異世界に来てから経験したことの1つである。
纏っていたオーラすべてを込めた一撃を今のベーゼルが防げるはずがない。
大きな斧を持つ男は黒に近い紫色のオーラ武装を纏っており、斧にもまがまがしいオーラがまとわりついている。
「奥義 グラビティ・イーグル!!!」
背後からの強襲に気づいたベーゼルは当然逃げようと羽を羽ばたかせるが、その行動とは裏腹に、斧に吸い寄せられていく。
間違いない、魔王と同じ属性の魔法だ。
オーラを纏った斧はベーゼルを引き寄せて背後から一刀両断する。
ベーゼルを引き寄せた魔法はかつて戦った魔王城で魔王と戦った時に魔王が使用していた魔法だ。
同じ属性の魔法を使用するからか、アスタロートは男の立ち姿がどことなく魔王と似ている気がした。
「ヒール。」
戦闘が終わると、腕におそろいのブレスレッドを付けたシキたち3人が顔を出してきて、回復魔法をかけてくれる。
助けに入ってくれた2人は、ドワーフの町に向かっていた3人と偶然出くわして、ここに駆けつけてくれたらしい。
「ありがとう。助かったよ。」
「かまわん。」
シキに回復魔法をかけてもらいながら、ドワーフの老兵に感謝を伝える。
「それにしても、どうやって、あれだけの魔法を?」
灰の大地では、誰もが自然界からエーテルを吸収できないから、膨大なオーラは纏えないはずだ。
あの技将のベーゼルだって例外ではなかった。
「なんだ。白いのは知らないのか?」
「白いのって・・・。」
ベーゼルを倒した巨大な斧を持っている顎鬚をはやした40代中ごろの男に白いの呼ばわりされる。
確かにモコモッコ羊の変装をしている俺は白いけど、白いのって・・・。
「ほら、これだよ。お前さん達も1つつけな。」
そういって、シキ、ガイモン、レロンチョがつけているブレスレッドと同じものをくれる。
「こいつは、ドワーフが発明した魔道具でな、自然界にあるエーテルをストックしておくことが出来るんだ。俺たちの町じゃ灰の大地に出るときは必需品だ。武器や弁当は忘れても、こいつだけは忘れちゃいけねぇ。」
「へぇ。これが・・・。」
瑠璃色の鉱石が編み込まれたブレスレッドを腕に付けると確かにオーラを纏える。
「すごいな。」
アスタロートがブレスレッドの効果を確かめていると、ホムラ、ライザー、ガイモンが恐る恐る訪ねてくる。
「あっ、あのぉ。もしかして、前勇者パーティのザガリス様と北部対魔人ギルドの隊長さんですか?」
「あぁ。そうだぜ。俺が、隊長のイーバル。そして、このじぃさんが元勇者パーティーでこの北部対魔人ギルドを創設したザガリスだ。」
「うぉぉぉぉ!やっぱりそうだったんですね。」
ホムラがガッツポーズして喜ぶ。
どうやらこの二人はかなりの有名人だそうだ。
老戦士の方に関しては前回の勇者パーティーの仲間だったのか、通りで強いはずだ。
ホムラとライザーが興奮してイーバルと、ザガリスと熱く握手を交わす。
両手を添えてブンブンと振り回す動きはもはや熱狂的なファンだ。
ん?握手?
あっ、友好の誓いだ。
いや、あれは魔人や亜人の文化で人の文化圏では使用されていないのか?
少なくとも、今この場では友好の誓いとしての意味合いはなさそうだ。
となると、友好の誓いは東国だけの文化かなのだろうか。
分からんが、この二人が大物なのは確かだ。
助けてくれたドワーフのザガリスは、前勇者パーティーでイーバルっていう男も並みの強さじゃなかった。
「ハハハ。俺も有名になったもんだな。」
「うぬぼれるな。お前のは親と子の七光りだ。」
ザガリスが長いひげ触りながら答える。
「親と子の七光り?」
親の七光りなら知っているが、子の七光りでもあるようだ。
「なんだ。白いのは知らないのか。」
「この子世間知らずで、すみません。この方は、前勇者パーティーの勇者ラグナ―様とセンリ様の息子でお子さんは特記戦力No.2のピィカ様よ。そしてやがてあたしのお父様になるお方なのよ。」
「「おっお父様?」」
「あらやだ。私ったら、ピィカ様のお父様だから、つい。」
シキが、頬を染めてもじもじしている横で、男どもが頭を抱える。
声には出していないが、アスタロートには3人から大きなため息が聞こえた気がした。
「いや。ついって、嬢ちゃんピィカの女かなんかなの?あいつ、相当のおばあちゃんっ子だけど・・・。」
「すみません。うちの女性陣が、こいつらバカなので気にしないでください。そいつはピィカさんの女どころか話したこともありませんよ。それにしても本当に助かりました。」
ガイモンがさらりと流すが、こいつ俺のことをさらりとバカの一言で終わらせたな。
許さんぞ。
「で、お前たちは何者で、どこから来たんだ?人に亜人に魔人の6人組だ。怪しんではいないが、素性は明かしてほしい。」




