196/223

196. vs技将の複製体

大きく吹き飛ばしたベーゼルは、何事もなかったかのようにまた飛び上がる。

「おいおい。結構いいパンチだったと思うんだけどな。」

「シュー―シュー―。」

オーラ武装のガンレットを見ると、もうすでに溶け始めている。

まずいな。

灰の大地は暑い。

オーラ武装が解けてしまったら同時に、その効力もなくなる。

ベーゼルにとってアスタロートは戦いにくい相手ではあるが、アスタロートにとっても灰の大地は相性の悪い大地だった。

悠長に戦ってられないな。

ガイモンの方を見てもまだホムラとライザーからオーラをもらっている途中だ。

もう少し時間を稼がないといけないな。

ベーゼルに視線を戻すと、ベーゼルの体に半透明の層が出来ている。

オーラ武装だ。

これで、埋まった戦力差がまた開いたな。

だが、これでベーゼルのオーラもなくなった。

「ガイモン。こいつの弱点は氷や冷気だ。冷気で動きが悪くなってる。」

「分かった！」

後は何とかガイモンが魔法を放つまで時間を稼ぎつつ、最後に拘束すればいい。

ここからが、正念場だ。

何とかくらいついてやる。

そうすればいい。

そうすれば、ガイモンが弱点属性の魔法を放ってくれる。

シュー。

先ほどより素早く飛んでくるベーゼル。

やはり、オーラ武装したベーゼルは早い。

だけど、フルーレティに強化してもらう前のピィカ戦やスケリトルドラゴンスライムと戦った時ほどの絶望感はない。

苦戦は強いられるだろうが、隙を作るくらいなら何とかできそうだ。

ベーゼルが突っ込んできた攻撃をバックステップで避けるが、体に衝撃が走る。

クッツ！

オーラ武装に守られたアスタロートに負傷がないが、今の一撃でオーラ武装に小さな亀裂が入る。

何度も今の攻撃を受けたらオーラ武装が解ける前に壊されそうだ。

だが、躱そうとしても、なぜダメージを受けたのか分からない。

考える暇もないまま再度ベーゼルが攻撃してくる。

頭上から振るわれる攻撃をしゃがんで避けるが、今度は額に強い衝撃が走る。

クッツ。

まただ、確実にベーゼルの腕は躱したはずなのに、攻撃を受け、額から生暖かい液体が垂れて来たのを感じる。

アスタロートが一瞬ふらついた隙に、ベーゼルはまた距離を詰め襲い掛かる。

四方八方から迫りくるベーゼルの手足から逃れられないアスタロートは腕をクロスして防、身を小さくして受け止める。

ウグッツ！！

やはり、攻撃が重い。

氷のガンレットが大きくひび割れる。

腕が折れそうだ。

でも、攻撃を受け止めて分かった。

ベーゼルの攻撃は、アスタロートの腕から拳1つ離れた場所で止まっていた。

ベーゼルの拳は見えないだけで見た目より大きいのか、オーラ武装の効果か、魔法だろう。

何かは分からないが、ベーゼルの間合いには注意しなければいけない。

「ねっねぇ。ガイモン。シープートさん押されてない？さっさと、魔法討ちなさいよ。」

「バカ言え。あんなに動き回ってるんだ。決定的な隙を見せるまで打てるもんか。」

ガイモンは、洞窟で拾った水晶を掲げて、ホムラ、ライザー、ガイモンの3人分のオーラを詰め込んだ魔法を構築している。

ライザーの掲げる水晶の頭上には、まだ日が明るいのに小さくも広さを感じる天体が凝縮されたような空間があった。

魔法構築が終わったガイモンは魔法を放つだけだが、放てなかった。

外した時の代償が大きすぎるのだ。

この攻撃を外せばベーゼルに勝てる機会はない。

その重圧が、ガイモンの双肩に重くのしかかる。

バンバンにとどめを刺したのもガイモンだが、あの時は余裕がなさ過ぎて変なプレッシャーを感じる暇もなかった。

だが、今は違う。

アスタロートがベーゼルを引き付けて隙を伺っている今は、余計なことを考える時間がある。

攻撃を外すこと。

シープートさんに当ててしまうこと。

うまく魔法が発動しないこと。

もし、外せば終わりだ。

シキが話すように、シープートさんは終始ベーゼルに押されている。

「もう、じゃぁ。あたしが、シープートさんに加勢するわ。」

「待て、シキ。」

武器の無いシキが、こん棒を片手に飛び出そうとしたところをライザーが止める。

「待つわけないでしょ。シープートさんが一方的にやられているじゃない。見てられないわ。」

「待て待て、落ち着け。やばかったら、先に俺たちが出る。後衛のお前はオーラを温存しておけ。」

ライザーの制止を振り切って飛び出そうとするシキの腕をホムラが握り止める。

シキの目には、時折よけきれなかった攻撃が当たりオーラ武装が徐々に剝がされて、どんどんベーゼルに追い詰められているように見えている。

ガイモンの目にも同様に映っており、さらにアスタロートの戦況もガイモンのプレッシャーになっている。

ガイモンはシープートさんが決定的な隙を作ってくれるのを待っているが、シープートさんが致命傷を負ってベーゼルを引き留められなくなるのであれば、シープートさんが前衛を張っているうちに魔法を放つ方がいいように思えるのだ。

しかし、前衛組の2人には違って見えていた。

前衛でより洞察力が優れている２人は、暑さで徐々に溶け、攻撃を受けひび割れていくシープートさんのオーラ武装もきちんととらえているが、同時にアスタロートのオーラ武装が放つ冷気に当てられ、ベーゼルの動きが鈍くなってきていることも理解していた。

そして、アスタロートが防御に徹して、隙を作れるまでベーゼルの動きが鈍くなるのを耐え忍んで待っていることも理解している。

2人の勝負は、アスタロートさんのオーラ武装が尽きる方が先か、アスタロートが冷気の影響で鈍くなったベーゼルを捉えるのが先かのレースなのである。

そして、2人ともアスタロートのオーラ武装がなくなり冷気の効果がなくなるよりも先に、ベーゼルがアスタロートの動きを下回ると確信している。

だからこそ、余計なことをせずにじっと様子を見守っているのだ。

だが、後衛のシキにはそこまでアスタロートの戦術を理解できていない。

「ちょっと、放してよ。あんたたちが、行かないからあたしが行くんでしょ。」

「まぁ。落ち着け。いいか、もう少しこらえろ。シープートさんは確実に隙を作れる。」

「あぁ。そうだな。技将との相性がいいのもあるのだろうけど、あそこまで戦えるとはな。もし、灰の大地が涼しい気候だったら、シープートさん1人でも競り勝つかもしれん。」

「はぁ。ちょっと、意味わかんないんですけど。」

「もうすぐだ。」

「あぁ。だな。」

「だから、何がもうすぐなのよ。」

「もうすぐ、シープートさんがベーゼルを捉える。だから、ガイモン。隙を逃すなよ。」