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189. 何度か見れば慣れるもの

「はーい。あすかちゃん。ゴクゴクしましょうね。」


ズズズズズ。


翌朝、ノーズルンがアウラウネの赤ん坊魔人であるアスカに食事を与えている横で、受付嬢とバクバクはまだ寝ていた。


受付嬢に関しては、寝ているというよりは気絶しているといった方が正しいが、ノーズルンは普通に寝ていると思っている。


すぐ隣でノーズルンとアスカがごそごそと動いていると気を失っていた受付嬢の意識も徐々に覚醒していく。


意識を失っていた受付嬢に最初に戻った感覚は聴覚だった。


会話からノーズルンが魔人の赤ん坊に食事を与えていることが分かり、なぜ自分がここにいるのか思い出そうとするが、巣に入ってバクバクが寝るところまででそれ以降のことを思い出せない。


確か、何かショッキングな絵面を目撃したような気がするんだけど・・・。


昨日、いつの間に寝てしまったのか思い出せない。


首に違和感を覚えつつそっと目を開けると土の天井が目に入る。


なぜ、こんな格好で私は寝ているんだろう?


「うっ。つつっ。」


首を起こすと変な向きで首を固定していたからか、首が痛む。


首を左右に動かすと、凝り固まっていたのかボキボキトと音がする。


「あっ。起きたんですね。ぐっすり眠れましたか?」


「はい。」


本音は少しも眠れた気はしないが、建前でそう返事する。


首の調子を確認しながら普通に返事をする受付嬢。


あれ、今普通にノーズルンさんとお話しできた。


確か昨日はノーズルンさんを間近で見ると迫力がありすぎて声を掛けられなかったような・・・。


目を合わせていないから普通にはなせたのだろうか?


ちらりと顔を上げるノーズルンさんと天使がいた。


「かっかわいい。」


半分にカットされた果実の皮に根っこの足を浸しているアウラウネを見て思わず声を漏らしてしまった。


それを抱えているノーズルンは対照的に天使を捕食するクリーチャーに見えなくもないが、お世話をしている姿から途端に普通の魔人と同じように見えてきた。


昨日はあんなに怖いと思ったのに、慣れとはすばらしいものである。


「分かりますか!」


受付嬢のつぶやきにノーズルンが食いついてくる。


「はっはい。」


ぐわっと、顔を近づけてくるノーズルンにやっぱり少し苦手意識を感じつつも、昨日ほど怖いとは感じない。


漠然ともっとやばいものを見たような気がするが、思い出せない。


それに、分かっていたがやはりノーズルンさんは魔人の中でも心優しい人だ。


「アスカをあやしてみますか?」


そう言って、ノーズルンがアスカを抱えて従業員に渡そうとする。


「はい!ありがとうございます。」


赤ん坊を抱っこさせてくれることに感謝しつつも、ノーズルンがアスカを抱えて渡そうとする姿が、食料を確保した脳ぐらいにしか見えないが、そのことを決して口に出さない。


ノーズルンからアスカを受け取って抱いてみるとアスカはキャッキャと笑いながら根っこの足を腕に絡めてくる。


かわいい。


アウラウネの魔人赤ちゃんを見ているとその可愛さに癒されたからか脱力してくる。


「だっだめ!めっ!」


そんな、様子を見ていたノーズルンが慌てて赤ん坊を従業員から引きはがす。


「ああっ!」


赤ん坊をまだ抱いていたかった従業員は名残惜しそうに手を伸ばすが、なぜか脱力したため力が出ない。


「アスカ、ご飯じゃありません!オーラを吸い取ったらだめですよ。」


「えっ!?私、オーラ吸われてたんですか?」


「はい。すみません。アスカ。オーラをチュウチュウしたらいけませんよ。わかりましたか?」


ノーズルンが、アスカに教育しているが、アスカには伝わっていなさそうだ。


未だに根っこをこちらに伸ばし、オーラを吸収しようとしてくる。


成長期だからエネルギーが必要なのだろうか?


すごい、食い意地だ。


だが、それは自然な反応で、本来魔物にとって人間は食糧であり、魔物から魔人になったアスカが受付嬢のオーラを吸い取ろうとするのは当然でもある。


「ほら、メッメッですよ。」


ノーズルンの何度目かの説得でオーラを吸おうと受付嬢の方へ根っこを伸ばすが、そのうち届かないことを悟り根を下ろす。


「はぁ。この様子じゃ。誰かにアスカを預けるのは無理ですね。」


「ん?誰かに預けたいんですか?」


「えぇ。昨日からアスタロートさんが帰ってこないから探しに行こうと思いまして。」


「あぁ~。アスタロートさんならしばらく帰って来ないと思いますよ。」


「えぇ?どこに行っているか知っているんですか?」


「いえ。どこに行っているかは知りませんが、ツチノッコンがフルーレティ様からのお願いで北の方へ飛んで行ったと話していました。」


「そっそうなんですか!」


「はい。アスタロートさんから聞いていなかったんですか?」


追い出してから一向に帰ってこないアスタロートが気を悪くして家を出ていったのかと思ったが、そうでないことを知りホット安心して深く座りなおす。


「それを聞けて安心しました。昨日から帰ってこなかったんで心配していたんです。」


「えぇ。そうですね。今見て私も思い出したんですけど、アスカさんそろそろ例の時期ですよね。」


「はい。そうなんです。この時期の植物系の魔物は成長が早いですから、早く帰ってきてくれると嬉しいのですが・・・・。」







ガラガラガラ。


周囲の瓦礫を押しのけて周囲の状況を確認する。


封印の祠特有の地形は見る影もなく、太陽が瓦礫を照らしている。


スケリトルドラゴンスライムは、瓦礫による重みと丸一日攻撃し続けた疲労で弱っている。


「アラクルネ。今だ。」


「はい。」


丸一日戦い続けて3度目の合図、私の奥義魔法、相手を精神支配する魔法を放つ合図だ。


既に2回精神支配に失敗している。


そして、それに伴い多くの犠牲を払っている。


ベーゼル様が今まで貯めにためてきた複製体もすでに半分以下になっている。


あの化け物相手に挑むのはこれが最後のチャンスになるだろう。


辺りのエーテルもだいぶ枯渇してきており、オーラも纏いにくくなってきている。


アラクルネの込めるオーラに力が籠る。


これが、私がベーゼル様にいいところを見せる最後のチャンス。


このチャンスをものにして、私がベーゼル様のメスになる。


「奥義 スパイダー・マリオネット!!」


アラクルネの放った渾身の奥義魔法はスケリトルドラゴンスライムに直撃して、そののち静かになった。


「シュシュシュシュ!アラクルネ良くやった。流石だ。シュシュシュシュシュシュ!アラクルネ。これから忙しくなるぞ。落ち着き次第、力領へ向かうぞ。俺が、俺達技領が、最強だ。」


「はぁはぁ。ベーゼル様、力領へ向かうのですか?私たちに叶う敵はもういないと思いますが・・・。」


「シュシュシュシュ。まずは足元を整えないとな。余計な敵は作りたくない。」


「流石です。後、複製体が何体か、ベーゼル様の管理下を離れてどこかへ逃げていったようですがどうしますか?」


「放っておけ。」


「よろしいので?」


「そんなことより、やるべきことは山ほどある。」


封印の祠、スポンジ状の大地の大半が瓦礫となった大地で、おとなしく丸く髑髏を巻いて寝ている精神支配されたスケリトルドラゴンスライムが鎮座していた。









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