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184. 総力戦

「なんだ。お前もプルルン果実の寄生虫食べたいのか。悪いが、もうこいつの寄生虫は俺ものものだぞ。」


「そりゃ食べたいだろ。なぁ、全部とは言わない。半分、分けてくれないか。」


ガイモンは、少しいがみ合っていたレロンチョに頭を下げて半分分けてもらうように頼み込み、半分貰う約束を取り交わしていた。


まじかぁ。


この世界の人って普通に寄生虫食べる感じなんですね。


そんな、二人をアスタロートは遠い目をしながら見つめる。


また、この世界を侮っていたようだ。


ガイモンの反応から寄生虫を食べたくないと言い出せずにいたと思ったが、本当はレロンチョにあげる寄生虫を自分にも分けてほしいとは思わなかった。


前世の常識が通用しないことはもう分かっていたつもりだったけど、まだ俺の認識は甘いのだろう。


さっさと果実を食べよう。


覚悟を入れ替えて、氷のナイフで果実を半分にすると中からぷりっぷりに肥えた寄生虫たちが蠢いていた。


「ぎゃぁぁぁぁ!」


「ん?どうしたんだ?」

「どうしたんです?」


ナイフで半分に割った果実をきれいにくっつけて幹の上に置く。


ムリムリムリムリ。


こんなの食えない。


半分にカットした果実の中には、大きくなった複数の寄生虫が大量に蠢いていた。


その光景は、腐敗した生ごみに群がるウジ虫のようでもあり、釣りの生き餌コーナーで一塊に固まっているゴカイのようでもあった。


食べられるところなんてどこにもない、食べられるどころかもう持ちたくもない。


もう一度あの半分に割った果実を2つに分けると手に寄生虫が落ちてきそうだ。


想像するだけで、鳥肌が立つ。


寄生虫をかき分けて実を食べるなんて不可能だ。


いや、仮にできても絶対に嫌だ。


そもそも、前回食べたときはもっと奇麗だった。


寄生虫も皮と実の境目くらいにいるだけで、実の中心部分は食べられた。


それが、こんなにことになるなんて・・・。


「どうしたんだ?はずれか?」


レロンチョが、幹の上に置いた実をそっと開けると、複数の寄生虫が所狭しと蠢いている。


「ひぃぃぃぃ。」

「うぉぉぉぉ!」

「あたりだ!」


果実の中みっちりと寄生虫が詰まっているような状態に2人が歓喜の声を、1人が悲鳴を上げる。


気持ち悪い。


「これは、あたりだな。」


「あぁ。そうだな。こんなに寄生虫がみっちり詰まってるのはめったにお目にかかれない。」


「いや、大外れなんですけど・・・。」


そういえば、前回食べたときは珍しいほど寄生虫がいないとリザリンが言っていたような気がする。


今回は、多すぎるだろ。


この世界を侮ってはいけないと心を入れ替えた瞬間、この体たらくだ。


自分が情けなくなる。


「ほら、シープートさん、早く食べてください。」


「あぁ、お前が食べないと俺たちが食えない。」


そういって、ガイモンさんとレロンチョが半分に割った果実を1つずつ手に持って、アスタロートの口元へ近づけてくる。


「バカ。やめろ、食えるか。離れろ。全部やる。」


「いやいや、流石に全部は貰えませんよ。」


断っているにも関わらず、果実を近づけてくる2人。


木の幹の上で後ずさろうと差し出したアスタロートの手は幹の上から外れる。


ズル。


「あぎゃ。」







「アラクルネ全員揃ったか?」


封印の祠の最下層、アスタロートたちが流された川岸に技領のメンバーが大勢揃っている。


「側近たちは揃っておりますが、他の魔人たちはまだ全員は揃っていないようです。」


「そうか。まぁよい。これから作戦を言い渡す。」


「はっ。」


技領のそばに全員が歩み寄る。


側近たちの中には、ドラゴン種と戦うことに否定的なものもいる。


少し知恵の回るやつで、ベーゼルに酔狂していない側近たちは今回の戦いに否定的だ。


蜂の魔人であるビービーもその中の1人だ。


先代技将時代が前勇者パーティーに討たれた後に側近に昇格した1人だ。


先代技将による総力戦の命令での西国進行で名を挙げ、ベーゼルが技将になった際にビービーも一緒に側近になっている。


総力戦はきまって全員で突撃し目標を攻撃し蹂躙するというものだった。


今回も総力戦全員で攻撃するのだろうが相手が悪すぎる。


ドラゴン種は倒すことができないから名付けられる総称であり、種族名ではない。


ドラゴンとは圧倒的な力の象徴だ。


そんな種族を相手に、これから戦うのだ。


正気じゃない。


まだ、全員で西国へ攻めていったほうがいい。


比較的最近側近になったビービーはベーゼル様の本気をほとんど知らない。


ベーゼル様が先代技将の側近だったころから知ってはいたが、実力の底が見えない方だった。


致命傷を負っても翌日には怪我が感知しており平気な顔をしている。


そんな底の知れないベーゼル様といえ、数名の側近と力を合わせて勝てるような相手ではない。


力を合わせて勝てる相手なら西国の連中がとっくに倒しているはずだ。


それこそ、ベーゼル様レベルの人が100人くらい束になって戦えば勝てるかもしれないが・・・。


「ベーゼル様、いつも通り、ぶっ殺すだけですよね?」


ベーゼル様の狂信者であるアラクルネが他の物を取りまとめる。


アラクルネは技領の中でも最も頭が切れる知恵者で任されたことは確実にこなす優秀な奴だが、ベーゼル様が決めたことには盲目的に従う馬鹿な奴だ。


アラクルネがもっとしっかりしていれば、技将の暴走を止められただろうに。


ドラゴン種相手に、みんなと一緒に総攻撃を仕掛けたら俺の身の安全も怪しい、かといってベーゼル様の命令に従わないわけにもいかない。


遠距離から攻撃して折を見て逃げるしかないか。


ビービーが逃亡ルートを考えていると思わぬ答えが返ってくる。


「あぁ。今回はそうじゃない。今回はドラゴン種2体を配下に置く。」


「えっ?」


技将の荒唐無稽な作戦に誰かが声を上げる。


ドラゴン種2体を配下に置くだって?


そこで、視線がアラクルネに集まる。


確かに、アラクルネの魔法であればドラゴン種2体を配下に置くことも可能だろうが。


そのためには、ドラゴン種2体を弱らせて、長時間動きを止める必要がある。


そんなこと、倒すよりも難しい。


「ガチガチガチガチ。」


側近の1人が顎を擦り合わせて音を出す。


「うおぉぉ。じゃぁ。俺たちは、スケリトルドラゴンスライムを弱らせたらいいんですね。」


頭の足りない側近が声をあげる。


「シュシュシュシュ。そうだ。あとは、アラクルネが―――。」


「待て待て待て、流石に無理よし。戦力が足りなさすぎるよし。」


同じタイミングで側近になった奴が、声を上げる。


「シュシュシュシュ。戦力が足りない?お前は何を見ている?」


そういわれて、周囲を見渡してようやっと理解する。


「こっこれは、すごいよし・・・。」


先ほど、無理だと声を上げた魔人も圧倒的な戦力に言葉を失っている。


群れの技領とはよく言ったものだ。


上空の封印の祠の独特な地形におびただしい数のベーゼル様と同じ気配をした魔人がいる。


「シュシュシュシュ。お前たちの中には、俺の能力を知らない者もいるな。俺の種族ベルゼブブは自身の複製体を作ることができる。その数に制限は無く、力は俺とほぼ等しい。これでも、勝てないと思うのか?」


圧倒的な戦力を前に誰も声を出せない。


「お前たち、俺様に着いてこい。ドラゴン種2体を配下に置けばもはや俺たちに肩を並べる領地はない。世界を取るぞ。たらふく美味いものを食わせてやる。シュシュシュシュ。」









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