181. ソレクレンチョウ
空に飛び立ってすぐに、作戦が成功したことを悟った。
アスタロートの背後から多数の羽ばたく音と気配を感じる。
レロンチョの作戦が良かったのか、いや。
俺の演技力だな、俺の演技力でソレクレンチョウをだませたのだろう。
群れの先頭に立ち飛ぶのは気持ちが良い。
チラリと後ろを確認すると悠々とVの字に並んでついてくる。
本当にソレクレンチョウの仲間になったような気持ちよさだ。
高度を上げ、背の高い木々を眼下に収めたとき気付く。
あれ、この後俺どうすれば良いんだ?
ソレクレンチョウを引き連れて飛び立つことで、当初の目的は既に目的を達成している。
クレックレックレッ。
このまま勇者のところに戻ったら、ソレクレンチョウ達もついてくるからダメだ。
では、どこか適当な場所まで気持ちよく飛んで行こう。
その後、どこかの木に止まって――
クレックレックレックレッ。
クレックレックレックレッ。
後ろで並んで飛んでいたソレクレンチョウ達が騒ぎ始めた。
「おい、お前達うるさいぞ。少しは静かに・・・。」
後ろを振り返ると、Vの字に綺麗に並んでいたソレクレンチョウ達は一丸となってアスタロートの真後ろを大きな嘴を開けて飛行していた。
やばい。
俺がソレクレンチョウじゃ無いことに気付かれたんだ。
だが、なぜ?
自身の姿を確認してすぐに原因が分かる。
しまった。
翼を羽ばたかせるたびに、落ち葉が落ちている。
どうして今まで気付かなかったんだ。
羽根に挟んだ落ち葉やモコモッコ羊の綿に突き刺した落ち葉はもうほとんど残っていない。
変わらずまだついているのは手に持っている枯れ枝くらいだ。
ソレクレンチョウ達は、完全に俺を仲間とは見ていない。
数秒前まで、並んで俺の後ろを飛んでいたのに、落ち葉が抜け落ちればもう敵認定だ。
ソークレンチョーーー。
一羽のソレクレンチョウが鳴き声と共に飛びかかってくる。
当然、嘴にはオーラが纏っている。
「あっ。クソ。」
1匹のクレンチョウに突かれ始めると、その直後複数のソレクレンチョウに囲まれアスタロートの視界は茶色くなった。
ソークレンチョーーー。
ソレクレンチョウの鳴き声が聞こえて目が覚めた。
多数の鳥が羽ばたく音が間近で聞こえてガイモンが飛び起きる。
しまった。
疲れていたとはいえ、野営中に熟睡するとは・・・。
幸い周囲を見渡すとソレクレンチョウはどこかへ飛び去っていった。
落ち着いて周囲を見渡すとなぜか鳥の巣の中で寝ている。
それに、先ほど飛び去ったソレクレンチョウ。
もしかして俺、ソレクレンチョウに餌として巣まで持ってこられた?
いやいや。落ち着け。
ソレクレンチョウが俺を抱えて飛べるはずが無い。
それに、あいつらはアホだ。
巣に餌を持って帰るなんて知能は無かったはずだ。
せいぜいよってたかって誰かが飼った獲物を横取りするか、食べ残しを食べる程度だ。
ごく希に狩りもするみたいだが成功などするはずが無い。
念のため巣から離れて仲間を探そうと鳥の巣に手を掛けると一段したの枝に作られている鳥の巣の中にシキが寝ている。
巣の中で体を丸めてスヤスヤと寝ている。
周囲を見渡すと同じような巣が他に3つあり、その巣の中にはそれぞれライザーとホムラが寝ており、最後の1つだけ空だった。
同様の作りの巣の中にそれぞれ1人ずつ無傷で寝かされているのを見て、シープートさんがイメジッコ町の外に作っていた巣を思い出した。
なるほど、この巣はシープートさんがこしらえてくれたのだろう。
全員がソレクレンチョウの餌として巣に運ばれたと考えるより、シープートさんが作った巣に寝かされていたと考える方が腑に落ちる。
優しい人だ。
自分も疲れていただろうに、全員分の寝床を用意してくれたんだ。
まぁ、鳥の巣なのはどうなのかと思うが・・・。
まずは状況を整理しよう。
太陽はもう上がっている。
少し寝過ぎてしまったようだな。
周囲に魔物や魔人の気配はない。
あの魔人の話だと、今日は封印の祠に行ってあのドラゴン種2体を相手にするはずだ。
技将の魔人達は既に通り過ぎたのか、これからなのか分からない。
アスタロートさんがいないことも気になる。
少し様子を見に行くか。
いやでも、ここで下手に動いて敵に見つかったらどうする。
いつもの武器は、昨日川に流されたときに無くした。
あるのは、杖の核として使えそうな水晶だけ。
無くても魔法は打てるが、威力も精度も数段劣る。
今、魔物との戦闘になると不利だ。
だが、このままここに居ても状況は良くならない。
「よぉ。やっと起きたか。」
急に背後から声を掛けられた。
振り返るとカメレオンの魔人が木の幹に張り付いて見下ろしていた。
魔人の姿に一瞬身構えるが、昨日一緒にいた魔人であることに肩を下ろす。
「なんだ。お前か、脅かすなよ。」
「今は、ここを動かない方が良い。じっとしていろ。」
この魔人は、シープートさんと顔見知りのようだが、信用ならない。
一度シープートさんと別れたときにシープートさんの故郷の方角を聞いたが、東国の方角だった。
それに魔人の知り合い。
シープートさんの出身地が東国なのはまず間違いないだろう。
亜人なんだ。
別に驚くことではない。
魔人だって人間に友好な者が少数いるのは知っている。
だが、こいつがシープートさんの知人であるのは少し気に入らない。
昨日の様子から人間に対して友好的な奴じゃないのは明らかだ。
何でシープートさんと一緒にいるのか分からない。
本当は、追い返したいがこいつがいないと命を掛けて手に入れた武器をすべて持ち運べないのも事実だ。
警戒しておいくに超したことはない。
「なんで、俺がお前の指示に従わなければいけない。」
レロンチョのアドバイスを無視しようとしたガイモンを慌てて止める。
「おい。待て、今、渓谷沿いを技将の魔人達が通過している。今確認してきた。このままここに身を潜めていれば大丈夫だ。」
「それを信じるとでも?シープートさんがいないようだが、どこにいる?技将の仲間達をここへ誘導しているんじゃないだろうな?」
「けっ。これだから人間はめんどくせぇ。シープートならソレクレンチョウを追い払うために離れている。時期に戻ってくる。信じないなら好きにしろ。俺も好きにする。」
チッ。クソ。
本当なのかうそなのか分からない。
確かに、目覚めたときソレクレンチョウの鳴き声が聞こえたような気がしたが・・・。
どうする。
この魔人を信じて待つか、それとも動くか。




