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18. 知将の町

「いや、おねぇさんは、モコモッコ羊じゃないからね。このロープは外そうか。」


相手は、子供だ。

ここは、大人になれ、明日太郎。

何とか、笑顔を保ちながら声をかける。

せっかく、おねぇさんキャラとして演じていくと誓ったのに、一日も持たずにキャラ崩壊するところだった。


ロープをかけられ初めて、少年のほうを振り返るとそこには、茶色と黒の縞模様の二足歩行の生き物がいた。目はぎょろりと大きく髪はなく、口は大きく歯もない。見たところ皮膚はカエルに近そうだ。


お口を大きく開けて、こちらを見てくる少年を見て、お世辞にもあまり賢くなさそうだと思ってしまう。


「キャハッ、キャハッ、キャハハハハ。」


モコモッコ羊に間違われたアスタロートを見て、アスタロートは宙に浮き腹を手で押さえながら隣で笑い転げている。


「しゃべった!モコモッコ羊じゃない! モコモッコ羊の亜人だったんだね。」


魔人の子供は、アスタロートがしゃべったことでモコモッコ羊ではないことは分かったようだが、まだ、モコモッコ羊から離れられられていない。


ただ、牧場から逃げたモコモッコ羊ではないことは理解したようだ、ロープを緩めてくれた。


ピキ。


魔人の子供の発言に、こめかみにしわが寄ったが、まだ笑顔を保っている。

少年と目線を合わすためにその場にしゃがみ込む。


「モコモッコ羊の亜人でもないからね。角だけじゃなくて体もよく見ようか、ぼうや。」


「黒い体に蹄の足、毛を刈られたモコモッコ羊だよね。」


そういえば、白い毛のないモコモッコ羊は黒い体をしていた。


体をロープで縛られ、ずんぐりむっくりしたフォルムになっているが、いまだにモコモッコ羊認定とはひどい。

ロープを手で外し、翼を見せつけるように広げる。


「ほらよく見て、翼があるでしょ。」


口を大きく開けて固まっている。


「翼の生えたモコモッコ羊の亜人・・・。」


少年が、つぶやくが、その内容からどうやらモコモッコ羊から離れることはできなさそうだ。


隣では、ずっとフルーレティーが笑っている。


これ以上、モコモッコ羊をどうこう言うのはやめよう、時間がいくらあっても足りなさそうだ。


「キャハハハハ。ツチノッコン、この女性はアスタロート。新しく私の側近となった。そして、昨日魔王と戦っている。」


フルーレティーがそういうと、ツチノッコンと呼ばれた魔物の子はみるみる表情を変えた。

握っていたロープをぽとりと落とし、ぎょろっとしていた目が零れ落ちそうなほど見開いて、こちらを見てくる。

魔王と戦ったことが、それほどに衝撃的だったのだろうか?

少年は、握手を求めてきた。


「わぁぁぁ。アスタロートは3将クラスの強さなんだね。」


俳優の時を思い出す。

街角で小学生のファンに見つかったときは、みなこんな感じの顔をしていた。


握手を拒む必要はない。

なんせ、私はファンサービスもよかったからな。


「3将クラスには届かないさ。」


アスタロートは、本心で答えた。

実際にアスタロートは、魔王の攻撃を防ぎきれなかったが力将は防いだ。


魔王と模擬戦をするには、戦闘試験を突破しなければならない。それに、突破したとて生存率は50%の壁が立ちふさがる。

生きているということは、その壁を越えたことになる。

実際、戦闘試験ではダメダメだったが、魔物の子供が知るはずもない。

戦闘前はその様なことは、ちっとも考えていなかったが、魔王との戦闘実績はステータスになるようだ。

少年の身の輝きを見るとわかる。

この目の輝きは憧れの人を見るときの目だ。

目の輝きに、人も亜人も魔族もないのだろう。


「それで魔王に毛を刈られたの?」


「いや、刈られてねぇよ。」


おっと、いけない素に戻ってしまった。

こいつわざとじゃないだろうな。

いい加減、モコモッコ羊から離れてほしい。


「ツチノッコン。先に行って、町のみんなに新しい仲間が増えたことを伝えに行ってもらっていいかしら。」


「うん、わかった。」


フルーレティーが、魔人の子供にそういうと、子供は快く了承しロープをその場に放り出して走っていった。


あの魔族の子供にいったいどんな紹介をされるのだろうか・・・。


「フルーレティー、あの子に行かせて良かったのか? 不安しかないんだが・・・。」


フルーレティーは、いたずらっぽく笑って答える。


「キャハ。そうかしら、面白そうじゃない。」


こいつ、俺で遊んでいるんじゃないだろうな。




子供が走っていった道をフルーレティーと歩いていく。


居住区と田畑の境には、堀が彫られておりそこに水が流れている。


居住区は、木造家屋が多く、二階建ての建物はほとんどない。

一階建ての長屋が、並んでいる。


水路は生活用水に用いているようだ。

そばでは、水汲みや洗濯をしている人や亜人がいるが、働いている魔人の姿は見えない。

労働をするのは奴隷という考えは本当らしい。


「魔人は普段何しているんだ?」


「そうね。人によって違うけれど日向ごっこをしたり、筋トレしたり、生き物の観察したりしてるかしらね。」


随分と退屈そうな生活を送っていそうだな。


「俺からすると、随分と退屈そうな生活だな。魔人は働かないのか?」


一生、日向ごっこをしていると俺は腐ってしまいそうだ。

仕事をするのも嫌だけど、何もせずに日向ごっこするのも苦痛だ。

それならば、せめて自分の食生活が充実するように働きそうだ。


「ほとんどの魔人は、働かないわね。ただ、全員がそうなわけではないわ。少数だけれども好きで、働いてくれる魔人はいるわ。といっても、飽きたらすぐに辞めちゃうんだけれどね。」


なるほど、まったく働かないわけじゃぁないようだ。


雑談をしながら歩いていると、町の中心近くまでやってきた。

道幅は広く、突き当りには、石造りの大きな建物が見える。


異世界ものでは、だいたい突き当りに見える石造りの建物が冒険者ギルドだったりするのだが、ここは魔王領そうではないだろう。


「突き当りの建物は何なんだ?」


「魔物ギルドよ。」


ギルドあるのかよ。




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