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179. 魔鳥

朝だ。


深い眠りから浅い眠りへと移り変わっていくにつれて、自身のお腹周りに暖かさを感じ始めた。


暖かい。


ドラマの撮影で子供と一緒に添い寝をしたときのことを思い出す。


子供の体温もこんな感じに暖かかった。


サイズ感からあの時一緒に添い寝した子と同じくらいだ。


もしかして、レロンチョが巣の中に潜り込んできたのかな。


あいつ、口が悪い癖に添い寝しにくるとは案外可愛いところがあるんだな。


そっと手を伸ばしてレロンチョを包み込む。


レロンチョの肌触りは良く絹のような羽根に包まれて・・・。


「ん!?羽根?」


レロンチョに羽根は無い。


そっと目を開けるとそこにはどこかで見たことのある頭が小さく目玉が大きい鳥がいた。


頭以外の全身を茶色い羽根で覆われており、頭は羽毛も生えておらず薄ピンク色の地肌が露出している。


頭のサイズに対して異様に大きな瞳の鳥と目が合う。


クレックレックレッ。


喉を鳴らしながらこちらを見てくるがどこで見たのか思い出しそうで思い出せない。


前世でこんな茶色い羽根に包まれた大きな鳥を見た覚えはない。


ということは、転生してから見たのだろうが、思い出せない。


しばらく目を合わせると、目の前のアスタロートに興奮したのか鳥は羽を広げ威嚇し嘶いた。


ソーークレッチョーーー。


目の前の鳥が羽根を羽ばたかせ一鳴きして名前を思い出す。


ソレクレンチョウだ。


リザリン達と隣国へ人狩りに行ったときに出てきた物乞いみたいな名前の魔鳥だ。


ノーズルンともそこで出会った。


確かノーズルンの話では、ソレクレンチョウは群れで他の動物が仕留めた獲物を横取りしたり、食べ残しを食べたり、前世で言うところのハイエナみたいな魔物だ。


そう。


魔物なのだ。


嘴にオーラが急速に集まっていくのを感じる。


「えっ。うそ。マジ。」


魔物なのだから襲ってくるのは至極当たり前のことだが、この世界の魔物について詳しくないアスタロートは大きな鳥程度に考えていた。


そんな考えでいたアスタロートはソレクレンチョウの攻撃に何も出来ない。


慌てて上半身を起こして逃げようとするが、上から誰かに押さえつけられる。


「インビジブル。じっとしてろ。」


押さえつけられて体が簡易の寝床に半分埋もれる。


上にのしかかるようにアスタロートを押し倒したのはレロンチョだ。


カメレオンの特徴的な大きな2本の指は柔らかく気持ちがいい。


「ちょ、ソレクレンチョウが近くにいる。速く逃げないと。」


「静かにしろ。不可視化の魔法を掛けた。これでごまかせるはずだ。」


焦るアスタロートにレロンチョが静かに答える。


「ごまかせるって、俺こいつと目が合ったんだけど。」


それに、ソレクレンチョウの胴と体が今も触れている。


見えていなくてもここにアスタロートが居ることは明らかだ。


「良いから、黙ってろ。ソレクレンチョウは有名なバカ鳥だ。視界から消えるだけで認知されなくなる。」


「いや、ついさっきまで目の前にいたんだから、見逃されるはずが・・・。」


つい先ほどまで、嘴にオーラを集めて大きく羽根を広げ攻撃態勢に入っていたソレクレンチョウが、オーラを揮散させばたつかせていた羽根も徐々に落ち着いてきて、ついには羽根をたたんだ。


「おいおい。マジかよ。本当に攻撃されなかった。」


「ふふふ。こいつらはこんなもんさ。なんせバカ鳥だからな。おっと、まだ動くなよ。俺たちは群れに囲まれてる。」


「えっ!?マジ?」


「マジだよ。俺が目覚めたときにはもう既にこの有様だ。こいつら、お前が作った巣が自分の巣だと勘違いしているみたいだ。」


そっと外の様子を眺めると多数のソレクレンチョウに囲まれており、アスタロートが作った巣の中で体を丸くしてくつろいでいる。


それぞれ巣の中には1人ずつ人がいるのだが、そんなことお構いなしで羽根を繕っていたり寝ていたりと油断しまくっている。


「ちょ。シキ達が危ないじゃん。」


「大丈夫だ。あいつらにも不可視化の魔法を掛けてある。俺はもうお前の同士だからな。」


レロンチョが少し得意げに話をする。


どうやらいち早く状況に気付いたレロンチョが対応してくれていたみたいだ。


「ありがとうな。」


「うっせぇ。」


相変わらず口は悪いが、こいつ実は結構優秀なんじゃ・・・。


「で、これからどうするんだ。」


「技将の町まで近いから、ここでの戦闘は避けたい。大きな魔法を撃てば、すぐに気付かれるだろう。」


「なるほどな。じゃぁ。このままどっか行くまで待つか?」


戦闘が出来ないのであれば、飛び立つまで待つしか無いだろう。


「いや。そんな悠長なこと言ってられねぇ。」


「どうしてだ。」


「俺のインビジブルは、そんなに持続時間が無い。まぁ、俺だけならいつまででも透明化していられるんだけどな。」


なるほど、ソレクレンチョウがどこか行くまでに透明化が解ければ襲われるのは必然だ。


そうなる前に対処しなければいけない。


それに、大きな戦闘をしても技領の魔人にバレてしまう恐れがある。


「じゃぁどうする?」


「奴らの習性を利用する。お前も協力しろ。」


「分かった。俺も協力しよう。」


「いいか。良く聞けよ。」


レロンチョがアスタロートの耳元で説明する。


「うんうん。えっ。ちょっ。マジ。」


「マジだぜ。これで上手くいく。準備するぞ。」


「えっ。おい、ちょっと待てよ。」


とんでもないレロンチョの作戦に戸惑うアスタロートを置いて、レロンチョは準備をするためにスルリと巣を抜けだし地面へと降り立つ。







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