表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/223

178. 巣作り

「おいおい。まだ寝床作ってるのかよ。」


夕食の昆虫を捕まえて帰ってきたレロンチョが、アスタロートが作っている巣を見て言葉を放った。


カメレオンの魔物のレロンチョは、昆虫を手で挟みながら木の幹を手足でスルスルと登ってくる。


器用なものだ。


「良いだろ別に、巣作りは苦手なんだ。」


この世界に来てから巣作りを覚えたばかりだ。


1泊するだけの簡易な寝床を作るだけなのに、難しい。


木に絡まっているツタや木の枝を集めてそれっぽく組み合わせるが、どうも不格好だ。


組み合わせた枝の端が何本も内側に出ている。


枝の端が内側に飛び出しているとチクチクして気持ち悪いんだよな。


知将の町で作ってもらった巣は、枝の端が巣の内側にも外側にも飛び出しておらず、見た目も居心地も良かった。


木の幹から巣を見下ろすように観察したレロンチョは感想を言う。


「何だぁ、この寝床は?鳥の巣かよ。って、そういえば、半分鳥類だったな。」


「おい。おっきい声で言うな。聞こえたらどうするんだよ。」


「大丈夫だよ。人間達は下でぐっすりだ。」


アスタロートが作りかけの巣から下を覗くとシキが大きく口を開けて寝ているのが見える。


「それに、お前、何回寝床を作り直しているんだよ。1,2,3,4っつめか。この調子だと何回作ったって寝床は完成しないな。」


レロンチョが見渡す限り近くの木に不格好な寝床が3つある。


気に入らないから作り直しているんだろう。


たまに、巣作りが苦手な個体はいる。


そんな奴は今って何かと何かの生き物のハーフだったりする。


きっとアスタロートもそうなのだろう。


「いや。その3つはもう完成しているぞ。」


「えっつ!?まじ?じゃぁ。なんで余分に巣を作ってるんだよ。」


「いや。シキ達の寝床も作ってあげないと。」


「はぁ。人間が鳥の巣なんかで寝るはず無いだろ。バカだろ。」


「バカじゃねぇ-し!巣で寝ないのも知ってるし。このまま、下で寝ていたら魔物に見つかる可能性が高いと思ったから木の上に皆を避難させるためだし!」


気に入らない巣だから何回も作り直していると思い込んでいるレロンチョにアスタロートの思惑を話す。


ただ、レロンチョの考えもあながち外れていたわけでもなく、巣作りが上手くいっていたくて不格好であることを気にしているアスタロートはぶっきら棒に話す。


そんな。アスタロートの話を聞いて、レロンチョが固まる。


「・・・。」


「何だよ。どうしたんだよ。お前も巣を作って欲しいのか?」


「ちげーよ。いらねぇよ。合っても使わねぇ。」


「じゃぁ。どうやって寝るんだ?」


「俺は、木の上ならどこでだって寝られる。そういう種族だ。」


「ふーん。カメレオンだからそうなのか。」


「それにしても、見直したぜ。お前、案外賢いんだな。魔物に存在がバレても鳥の巣の中で寝ていれば皆、鳥系の魔物だと思うだろう。だれも、人間がそれも勇者パーティーが寝ているとは考えないだろう。」


うんうんと頷きながら、急にアスタロートを褒め出すレロンチョ。


いや。あの。ただ単に地面よりも木の上の方がバレないかなって思って巣を作っただけなんですけど・・・。


鳥系の魔物を装って巣を作っているわけじゃ無いんですけど・・・。


自分の考えの浅さを打ち明けようか一瞬脳裏をよぎるが、褒められているし良いかとそのまま褒められて気持ちよくなるアスタロート。


「お前は、人使いが荒そうだが、お前の下にならしばらくついてやってもいい。本当は、赤髪の人間が目覚めたら、頃合いを見計らって離れようと思っていたんだがな。」


ほう。あのレロンチョが俺の優秀さに気付いてまさか一緒に行動して良いとまで言ってくるとは思わなかった。


それに、頃合いを見計らってということは、移動にレロンチョの手が不要になるタイミングってことだろうか?


そうだとしたら、こいつはやはり口は悪いが良い奴だ。


「しばらくって、いつまで一緒にいるんだ?」


「そうだな。知将の領に戻るまでかな。」


「いいのか?俺は、勇者パーティーと一緒に行動しているんだぜ?」


「人間と共に旅をするのは気に入らないが、お前とならいいぜ。そのくらい。」


そう言って、レロンチョは昆虫を捕まえていない方の右手を差し出す。


左手には夕食の獲物のバッタが足をばたつかせている。


差し出されたレロンチョの右手は、爪の無い2本の大きな指が特徴的な手だ。


昔図鑑で読んだことがあるが、カメレオンは手の感覚器官で触れた物の色を感知し体の色をそれに合わせるという。


差し出された右手を握り返せば、レロンチョの体も俺と同じ肌色の皮膚になるのだろうか?


そんなことを考えながら、レロンチョの右手を握り返す。


「あぁ!!」


しまった。


この世界では握手なんて文化はない。


あるのは友好の誓いとかいう兄弟の杯のような文化だ。


「へへへ。何を驚いているんだ。これで友好の誓いは終わりだな。知将の領へ戻るまでの旅。よろしく頼むぜ。」


しまったぁぁぁ。


くそっ。レロンチョの指に気が取られて、握手してしまった。


優秀だと勘違いされて、家族が増えるくらいなら打ち明けて馬鹿にされていた方が幾分か良かった。


これで、俺とレロンチョは家族みたいな関係か・・・。


まぁ。知将の領へ戻るまでって言ってたし、ずっとでは無いんだろうが、気をつけないといけない。


気を抜いて握手しまくるとどっかの部族みたいになりそうだ。


「あぁ。よろしく頼む。」


「友好の誓いを立てたんだ。しっかり俺のことを守ってくれよな。」


「えっ。技将の魔人にバレたら寝返るんじゃ無かったのか?」


「へへへ。俺は、あんたを気に入ったんだ。よろしく頼むぜ。ほら喰うか?飯食って無いだろ?」


そう言って、お近づきの印にと言わんばかりに、捕まえていたバッタを差し出してくる。


「いらねぇよ。」


その後、レロンチョと共に4つめ5つめの巣を作って、勇者パーティーを運び就寝した。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ