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177. 渓谷の夜

「メェェェェーン」


見る見るうちにシキとガイモンがいるところから遠ざかって行く。


落ちる瞬間にシキが大きく手を伸ばしてくれたが届かず真っ逆さまに落ちていく。


アスタロートの身体能力であればどうとでもなるただの落下運動だったが、ホムラに胸をもまれて冷静さを失っており、羊の鳴き声のような悲鳴を上げただただ落ちていった。


ドン。


「フギャァ。」


地面に叩きつけられ悲鳴を上げる。


高いところから何の受け身も取らずに落ちたのにも関わらず、特に大きな痛みはなかった。


渓谷の下は川か地面のはずだ。


川に落ちなかったということは地面に落ちたはずだけど、何かがクッションになったよう・・・。


あっ!


アスタロートが、急いで立ち上がるとアスタロートの下に、ホムラがいた。


あちゃぁー。


指がピクピク動いていることから生きているようだが、白目を剥いて伸びている。


あの高さから落ちて、その上俺までのしかかってしまったのだ。


ホムラにはひどいことをしてしまった。


いや、ひどいことをされたのは俺か?


そう思って、自分の胸に手を添える。


胸って触られると力抜けるんだな。


この体になってからの新たな気づきだ。


この間は、水浴びよりも砂浴びの方が合っていることに気付いたな。


あまり、自分が女性になったことを意識していなかった。


アスタロートというキメラのような亜人に転生した認識はあったが、女性として自身を見つめ直したことはなかった。


体を包む羽根に指を引っかけ隙間から自身の胸を見る。


そこには、大きすぎず小さすぎない、ほどよいサイズの胸が見える。


うん。普通だ。


普通の女性の胸がついている。


前世で俳優として活躍していたアスタロートの胸の比較対象は前世の女優達であり、彼女達と比べて普通という評価は世間一般で言うところのスタイルが良いということだが、アスタロートは気付いていない。


別にホムラの胸を触られたから許さないとか、女子っぽいことを言うつもりはない。


だが、この体は危険だ。


胸をもまれると力が入らなかった。


何も出来ずただ落ちるだけだった。


危険だ。


自分の体のことを全く理解していなかった。


今も、思いもよらなかった体の反応に鼓動が早くなっている。


もしかしたら、顔が赤くなっているかもしれない。


「おーい。シープートさん。大丈夫?」


崖の上の方から、シキが声を掛けてくる。


「あぁ。俺は大丈夫。ホムラは伸びてるけど・・・。」


「そう。そんな変態のことは放っておいたら良いわ。登ってこられるかしら?」


「あぁ。先に登っておいてくれ。」







「はぁ。やっと、登れた。」


「ガイモン遅すぎ。シープートさんも魔人もとっくに2往復してるわよ。」


最後の力を振り絞って渓谷を登り切ったガイモンは登り切ると大の字で横たわった。


「うるさい。俺は頭脳派なんだ。体力バカなお前らと一緒にするな。」


「はぁ。あたしも頭脳派の回復職なんですけど。結構しんどかったんですけど!」


体力バカと罵られたシキは、容赦なく腹を踏みつけて抗議する。


「イデ。そういうところが、脳筋なんだよ。」


「うっさいわね。女の子には体力バカなんて言ったらだめなのよ。パパから習わなかったの?シープートさんも否定した方が良いわよ。こいつすぐに人のことバカにするから。さっきのだって、しれっとシープートさんのこともバカにしていたわ。」


「えっ!?あぁ。俺は別に気にしないさ。」


「ふーん。シープートさんって、結構男勝りなのね。亜人って皆そうなのかしら?」


「はぁ。休憩。今日はここら辺で一夜を明かそう。」


一歩も動きたくないのかぐったりと横たわるガイモンは、このまま崖際で寝てしまいそうな勢いだ。


ガイモンが一夜を明かそうと話すのもうなずけるほど辺りは暗くなっている。


「それも、そうね。流石にあたしも今日は疲れてたわ。」


「おい。少しでも歩いて技領から離れないとまずいぞ。明日の朝には、技領の全戦力が封印の祠に向かう。こんな封印の祠への通り道のすぐ隣で一晩過ごすバカがおるか?信じられん。もっと先に進むぞ。」


レロンチョは、技領の部隊を警戒しているようだが、シキやガイモンの様子を見てもこれ以上移動するのは難しいだろう。


「レロンチョ。この近くで一晩過ごそう。これ以上の移動は無理だ。」


「おいおい。正気か?あいつらはドラゴン種2体を相手にする軍勢だぞ。見つかったら、まず、逃げられない。終わりだぞ。」


レロンチョの懸念ももっともだが、ダメだ。


シキとガイモンがうとうとし始めている。


もう限界などとうに超えているのだろう。


「なら、朝早く移動しよう。」


「正気か?」


「あぁ。2人の様子じゃそうするしかないだろう。」


レロンチョは、勇者パーティーの様子を確認してから言い放つ。


「かぁ~。お前は、少し呑気なところがあるな。それに甘い。俺だったら、叩き起こして歩かせているな。もしものときのために先に言っておく。もし明日技将の軍勢に見つかったら俺は寝返るからな。勇者パーティーと一緒にいたから死ぬなんて、死んでも嫌だぜ。」


「フフフ。振り回してすまないな。無理を言っているのは分かってる。裏切っても文句は言わないよ。」


「何、笑ってんだよ。本当に裏切るからな。」


レロンチョの口は悪いが、根は良い奴だ。


今日一日一緒にいて分かった。


こうして面と向かって先に寝返ることを彼が俺に付き合って行動してくれる最低限のラインを提示してくれている。


根が悪ければ黙って裏切るだろう。


わざわざ、寝返るなんて言わない。


今だって、近くに休める場所を探している。


さて、簡易な寝床を作成して寝るかな。


俺も今日は疲れた。


お!あそこの木、巣作りに結構良いかも。






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