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174. 筋肉

「よし。じゃぁさっさと行くぞ。」


持って行く武器を選んだシキとガイモンは、各々出発の準備を進める。


ガイモンはライザーを魔法で浮かせて荷物を担ぎ、シキも持てるだけ武器を抱える。


アスタロートもホムラを運ぶために担ごうとするが、いったん止まる。


少し気まずいのだ。


俺は元々男だからホムラに気があるわけじゃない。


だけど、妙な視線をシキとガイモンから感じる。


分かる。


もう分かっている。


シキとガイモンは俺がホムラのことを好きだと思っている。


封印の祠まで来たのもホムラを追いかけてきたと思っているんだろう。


こんなことになるのが分かっていれば、あの広場で仲間になることを拒まれたときにこの誤解だけはきちんと訂正しておくべきだった。


勿論先ほど更訂正したが、聞く耳を持たなかった。


一番怖いところは、俺自身がアスタロートという役がホムラを好きなキャラクターとして受け止めてしまいそうなところだ。


2人があんな感じで見てくるから変に意識してしまう。


もし、もし間違って、俺がホムラのことが好きなキャラクターとしてアスタロートを演じてしまったら一貫の終わりだ。


魔王を討伐した後、ホムラの旦那として異世界を過ごすつもりはない。


一瞬、田舎でホムラと農作業をして生活する自分の姿が脳裏をよぎるが頭を振ってかき消す。


考えるなアスタロート。


一緒に暮らすならフルーレティーのような、かわいい子がいい。


アスタロートとして異世界に転生してからアスタロートとしての役を演じたり、明日太郎として話していたりする。


最近は魔族に対して明日太郎として話しているが、勇者パーティーと話すときはアスタロートという役に入っているような気がする。


レロンチョにはフランクに話しかけているが、勇者パーティーに対して丁寧な言葉遣いをしているのはそういうことだ。


横になって寝ているホムラの横にたちどうやって運ぶか考える。


気絶している人間を運ぶにはどうすれば良い。


お姫様抱っこは嫌だ。


とても嫌だ。


かといって、荷物を運ぶように肩に担ぐ訳にもいかない。


おんぶするのが一番良いのだろうが、寝ている相手をおんぶすることは難しい。


仕方ない。


「レロンチョ。ホムラさんをおんぶするのを手伝ってくれ。」


既に、いくつか武器を抱えているレロンチョは嫌そうな顔をするも武器を置き直して近づいてくる。


「俺はお前の子分になった分けじゃ無いぞ。別に運び方なんて何でも良いじゃ無いか。」


「あぁ。すまないな。」


文句を言いながらも、レロンチョはホムラを抱えて、アスタロートの背中にもたれ掛けさせてくれる。


こいつなんだかんだ言って、優しいんだよな。


「よし。ありがとうレロンチョ。これで移動できるよ。」


「はぁ。世話が焼ける奴だな。」


はっ!!


そこで、ノーズルンと握手したときのことを思い出す。


あの時は、右手を差し出したらノーズルンの管状の舌を巻き付けられ驚いたのだが、この世界には前世にはないとんでもない文化が存在する。


何気なく背負ったが、この背負い方が前世で言うお姫様抱っこに該当する可能性があった。


慌ててシキとガイモンを見るが、反応はない。


杞憂だったようだ。


至って普通の運び方をしているようで安心した。


「では、行きましょうか。レロンチョ案内を頼みますよ。」


アスタロートは、皆に声を掛け洞窟の入り口の方へ足を進める。


数歩歩いてすぐにホムラの体つきの良さに気付く。


肩から前に垂れるホムラの腕は筋肉質で引き締まっている。


落ちないように支える太ももも大きい、少し触った感じ硬い。


歩く振動で背中に感じるホムラの胸板は、見た目よりも随分厚そうだ。


戦士の体とはこういうものなのか。


ゆさゆさ。


少し揺らして、ホムラの胸板を感じる。


うん。よく鍛えられている。


前世で通っていたジムのトレーナーさんの筋肉を触らせてもらったことがあったが、それよりも凄いかもしれない。


間違いなく言えるのは、トレーナーさんの筋肉より硬いことだ。


相当な鍛錬を積んでいるんだろうな。


ゆさゆさ。


うん。やっぱり硬い筋肉だ。


「ねぇ。シープートさん。さっきから変に体を揺らしているけど、どうしたの?」


急にシキが話しかけてくる。


「ふわっ!べっ別に何もしてないですけど、ただ少し体がずってきたから体勢を変えているだけですよ。」


シキが横に並んで小声で話しかけてくる。


「ふーん。アスタロートさんってやっぱり結構大胆なんですね。ホムラの筋肉は良かったですか?」


「ちっ違う。」


ホムラの筋肉に夢中だったアスタロートは変な誤解を受けないように誤魔化そうとする。


ここで返答を間違えると、完全に変な方向への誤解が加速してしまう。


シキは俺がホムラの筋肉を堪能していると疑っているのだろう。


いや、実際にそうなのだが、男が男の筋肉を触らせてもらうのと、女が触るのとでは意味合いが違う。


そして、シキは今、メスが好きなオスの筋肉を堪能していると思っている。


いや、ホムラの筋肉を堪能していた俺が悪いんだけど、違うんだよ。


ここは、絶対に体勢を整えていたで逃げ切らなければいけない。


俺の沽券に関わる。


確信しているシキは、ニヤニヤしながら追い打ちを撃ってくる。


「何が違うんですか?ホムラの太ももをしっかり撫でて筋肉を触っていましたよね。ホムラの筋肉は好みに合ったかしら?」


だぁぁぁ。太もも触っていたところからしっかり見られてた。


疑惑じゃなくて確信していたんですね。


焦るアスタロートは、つい事実を話してしまう。


「だから、違うって、鍛え抜かれたいい体だなって、だぁぁぁぁぁ。」


「キャハハハ。シープートさんは細マッチョ系がタイプなんですね。」


くそぉぉ。


最悪だぁ。


「まぁ。皆には黙っていてあげるわ。でも、あんまり、度が過ぎるようじゃダメよ。ほどほどにね。」


「はい。ほどほどにします。」


これ以上、何を言っても墓穴を掘りそうな気がしたアスタロートは、かぼそい声で返事をした。


もう、誤解を解くのは無理かもしれない・・・。







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