171. 再会
パチパチパチ。
カコン。
燃えた薪が崩れて音を立てた。
その音でうたた寝をしていたガイモンが目を覚ます。
くそ。見張りをしていたのに、うたた寝をしてしまっていた。
魔物がでる場所で全員が寝るわけにはいかない。
ガイモンも疲労しきっており眠いのだが、見張りは必要だ。
シキが目を覚ましたら少し寝させてもらおう。
眠い眼をさすりたき火に目を移すとほとんど火が消えかかっていた。
ほんの少し寝ていたと思っていたが、随分と寝てしまっていたようだ。
魔物に襲われなかったのは運が良かった。
漂着していた木片の湿気を魔法で飛ばし、たき火に木をくべようとして固まる。
物音が聞こえた。
4速歩行の魔獣か?いや、足音が違う。
2足歩行の魔人が2人だ。
違う種族の魔獣が共に行動するとは考えにくい。
1人は似た乾いた音を立てているが、もう1人が柔らかい皮膚が地面をこするような音が聞こえる。
一瞬、マートルとシープートさんかと思ったが、そうじゃない。
マートルもシープートさんの足は堅い溶岩と蹄で、洞窟内では乾いた音が響くはずだ。
それに、スケリトルドラゴンスライムから逃れている時は共闘していたように見えたが、上手く逃げ切れたのなら2人が仲良く肩を並べて一緒にいるとは思えない。
川の下流のほうから足音が聞こえてくるが、ゆるいカーブを描いた川の下流を見てもまだ姿が見えない。
シキをさすってみるが、いびきが帰って来るだけで起きる気配がない。
下手にシキを起こして相手にこちらの存在を悟られるよりも、起こさずにこちらが先手を打った方がいいと考えたガイモンは、たき火の火を足で踏み消しホムラの剣を手に取り物陰に身を潜める。
オーラを纏えば、感知されるかも知れないため、オーラを消してホムラの剣で奇襲する。
手に取った剣は、今日までの激戦で刃こぼれがひどくそろそろ修理に出すべきだ。
奥からやってくる人は誰だか分からないが、ここは技将の領内、相手はほぼ確実に魔人だろう。
だが、魔人だからといって必ず敵対心があるとも限らない。
だが、敵意があるかどうかなどどう判断する。
人数的に不利だしこちらは既に疲労困憊。
正面から話す余裕などない。
殺す。
ホムラならもっと良い方法を思いつくのかも知れないが、俺には皆を守る方法はこれしか思いつかない。
甘い考えを捨てろ。
洞窟の側壁に転がっている岩陰に身を潜め、2人の魔人が近づいてくるのを待つ。
ギリギリまで、引きつけて急所を一突きだ。
剣術は得意ではないが、無警戒な相手を一突き入れるくらい可能だ。
深く息を吐き気配を消す。
レロンチョとアスタロートは日が沈む前に洞窟の前で合流して、勇者パーティーを探しに更に上流へと洞窟の中を歩いていた。
レロンチョの話によると先ほどの魔物ギルドの緊急招集は封印の祠に現れたスケリトルドラゴンスライムと戦うために魔人を集めているそうだ。
翌日の早朝には封印の祠に大人数で向かうという。
「なぁ。アスタロート。もう、勇者パーティーはどっか遠くに逃げたんじゃないのか?」
「こら。俺のことは、シープートと呼べ。誰かに聞かれたらどうするんだ?」
左手で頭を軽く叩き、レロンチョの耳元で囁く。
レロンチョの身長は低くアスタロートの半分くらいのため、腰を深く曲げて話す。
「こんなところにもういるはずないだろ。もう帰ろう、スケリトルドラゴンスライムがいるんだろ。そんなおっかないところにいく必要ない。勇者達ももうとっくに逃げてるよ。」
「いや。スケリトルドラゴンスライムがいたのは封印の祠でこんな洞窟じゃない。もう少し奥までいくぞ。」
「えぇ。マジかよ。大丈夫なんだろうな。」
「大丈夫。もし現れたら俺が守ってやるから。な、安心しろ。」
「信じられるかよ。その右腕だって、スケリトルドラゴンスライムにやられたんだろ。マートルさんとお前でも勝てなかったんだ。出会った瞬間俺は死ぬ。」
その身長差からアスタロートはレロンチョのことを中学生くらいに思っており、口が悪いのもすべて若さ故だと思っているが、本当は既に成人しておりアスタロート年上だったりする。
「ほら、しっかり周囲を見てくれよな。俺は、夜目があんまり効かないんだ。」
「分かったよ。」
アスタロートは辛うじて周囲を見渡すことが可能だが、レロンチョは夜目が利き昼間と遜色なく周囲を見渡すことが出来る。
しばらく、無言で周囲を捜索しながら歩く2人。
暗がりに慣れてきたアスタロートは大分周囲を見渡せるようになってきたが、足下の細かい小石は鮮明に見えないため、一歩一歩踏みしめる場所を蹄で確認しながら歩いて行く。
そんな視界の悪いアスタロートが咄嗟に行動出来たのは、ガイモンが履き物を脱いでいなかったこととアスタロートが戦闘なれしてきたからだ。
「シッツ。」
「ふぎゃ。」
突如襲ってきた男の剣が到達する前に、レロンチョを左手で後ろに押し倒し、迫り来る剣を咄嗟に奪い取る。
気配を消して襲いかかってきたが、こいつは素人だな。
過去にピィカの剣技を見たことのあるアスタロートはガイモンの動きを素人と判断する。
剣を取られたガイモンは、すぐに距離を取りオーラを纏おうとするが、アスタロートがそれを許さない。
瞬時に押し倒し、首に剣を押しつける。
勝敗は決し、男は動かないが、アスタロートには暗くて誰だか分からない。
襲われたのは確かだが、意味もなく人を殺すことにアスタロートは未だに抵抗があるため、アスタロートはひとまず話しかける。
「誰だお前?人か?」
「シープートさん。そいつ人間の男だぜ。」
背後から、尻餅をついたままのレロンチョが声をかけてくる。
レロンチョの声の返答は、捕らえた男の戸惑った声だった。
「えっ?シープートさん!?」
その聞き覚えのある声に、アスタロートは男に顔をよく近づけて確認する。
「えっ?あっ!ガイモンさんじゃないですか!」




