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168. レロンチョ

薬をしっかりと塗り切ったアスタロートは満面の笑みでマートルを見送るが、マートルは真逆の反応をする。


「次あったら覚えておけよ。」


そう捨て台詞を吐いたマートルは渓谷を軽々とタンタンとリズムよく駆け上っていく。


あぁ。かわいかったな。


マートルは見た目こそボーイッシュで肌の色も溶岩を連想させるほど赤黒くそれほど可愛くはないどちらかというとボーイッシュな感じだ。


だが、仕草には品があった。


立てば芍薬、座れば牡丹、戦う姿は勇ましかったが、まさにそんなことわざがぴったりな人だった。


塗り薬は結局すべてなくなってしまったが、もうどうでもいい。


いいものが見られた。


右腕は相変わらず感覚がなくほとんど動かせないが、勇者パーティーと合流すれば応急処置くらいはしてくれるだろう。


で、俺の目が覚めてから、ずっと放置状態のカメレオンの魔人に顔を向ける。


「お前、何やってんの?」


そのカメレオンは、俺とマートルが会話している最中に体を渓谷の岩肌と同じ色にして、じっと体を屈めて擬態したままで、返事が返ってこない。


いるのは分かっていたが、ずっと岩に擬態して存在感を消していたから無視していた。


今もじっと動かずにしているところうまく隠れられていると思っているのだろうが、バレバレだ。


だって、体は岩肌と同化しているが、背負っている荷物がそのまま不自然に残っている。


今もよく見れば空中に大きな目玉が2つこちらを伺っており―――。


あっ今目が合った。


今、絶対気づいたよな。


目、合ったよな。


アスタロートと目が合った瞬間、レロンチョは目をそらした。


マートルに裏切者と疑われていたからまだ警戒しているのだろうか?


マートルとも仲良くしたから、勘違いだということに気づいてほしいのだがな。


この魔人は警戒心が強いみたいだ。


勇者パーティーの捜索もしたいし、このまま立ち去っても良いのだが、どうも引っかかる。


どこかで、見たことがあるような気がするのだ。


今は、擬態しておりよくわからないが、近くで見れば思い出すかもしれない。


ゆっくり近づいて目の前でしゃがみ目線を合わせる。


ここまで近づいてもまだ気づいていないと思っているのだろうか?


カメレオンの魔人は、大量の冷や汗を垂れ流しながらじっと固まっている。


ここまで、近づいてまだ擬態を続けるのは逆に怪しい。


アスタロートが異世界に転生してからまだそれほど日は立っていないが、様々な人や亜人、魔人に出会った。


その記憶をさかのぼっていくと、一人の魔人が検索に引っかかった。


「あっ。思い出した。お前、レロンチョだろ。」


アスタロートが、フルーレティーの領に泊まった次の日に、何やら喧嘩腰でやってきて仲間が何かを見せたとたん血相変えて帰った奴だ。


「ぷっひゃぁぁ。頼む、許してくれ。俺はまだ死にたくない。」


急に動き始めたカメレオンの魔人は、擬態が解け、後ろにひっくり返り降伏のポーズをする。


徐々に赤い喉が膨らんできてパンパンに膨れ上がる。


「アハハハハ。何言ってるんだよ。殺すわけないだろ。」


「本当か?」


「あぁ。知領の魔物ギルドで会ったきりだったな。」


アスタロートが殺意はないことを伝えると飛び上がってすり寄ってくる。


こいつこんな奴だっけ?


魔物ギルドで会ったときはもっと口調もオラオラしていたし、服装もチャラかったような気がする。


今は、貧相な服と山に山菜を取りに来たかのようなかごを背負っている。


アスタロートは、レロンチョのことを魔物ギルドでやたらと喧嘩腰で話しかけてきたが、すぐに友達に連れ戻されていた奴と記憶している。


レロンチョ自身は喧嘩を売ってしまった直後に友人からアスタロートが危険度10の懸賞魔人であることを知らされて、喧嘩を買われたら生き残るすべはないと思い、逃げるために技将の町に引っ越したのだ。


普通の人であれば喧嘩を売られたと感づき気分を悪くするし、喧嘩っ早い人なら勝っていただろうが、アスタロートが周囲に敵を作らない温和な性格であったため見過ごされているのだ。


アスタロートに敵意がないことを知るとレロンチョは急にハサミみたいな手をこすり合わせ再度念押しする。


「本当に、本当に怒っていないのか?」


「なんで、俺が怒る必要があるんだよ。」


アスタロートが怒っていないことを知るとカバンを投げ捨て怒り出す。


「くそったれー。やっぱり怒っていなかったのかよ。みんなが俺のことを殺しにお前が来るって言うから俺は・・・俺はわざわざ技将の町まで逃げてきたんだぜ!とんだ取り越し苦労だぜ。」


そう。思い出した。


「そうそう。お前、そんな感じだったよな。」


「はぁ。うるせぇ。お前のせいで俺はなぁ。」


最弱の町である知領から逃げてきたレロンチョは、技領では笑いものにされていたのだ。


そして、人間たちの仕事を手伝わさせられるという、苦痛まで・・・。


レロンチョはここ数日の苦悩を思い出し、目いっぱいに涙を貯める。


「おいおい。どうしたんだよ。」


「はぁ。泣いてないし。お前が悪いんだよ。」


「で、こんなところで何してたんだ?」


「はぁ。お前に殺されるかと思って息をひそめていたんだよ。」


「いや。違う違う。その前だよ。ほら、その籠。なんか集めてたのか?」


「はぁ。集めてないし。人間に頼まれて薬草とか探してないし!」


「そうか。薬草を探していたのか。」


「はぁ。だから違うって。」


「お前、口調のわりにいい奴だな。」


「はぁ。ふざけんな。俺はワイルドな魔人様だぜ。人間の手伝いなどするはずないだろ。」


「じゃぁ。何してたんだ?」


「ビッ、ビリビリの身を探していたんだよ。薬草なんて探してない。」


「そうか。なら、少しお願いがあるんだが・・・。」







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