16. 知将の町へ
魔王城からの帰宅の帰路。
フルーレティーと並んで飛びながらアスタロートは頭を抱えていた。
魔王城にいたときは、あまり考えないようにしてきたが、これからの身の振り方についてだ。
はぁ、これからどうしようか・・・。
表向きアスタロートは、フルーレティーの側近になってしまった。
まぁ、俺が流れに身を流したままだったのが悪いのだが・・・。
魔王を倒すために、異世界に来たのに、魔王側のしかも四天王的なポジションの側近になってしまった。
そもそも本当に、魔王を討伐しなければいけないのだろうか?
確かに、バトルジャンキーで殺されそうになったが、会議を見た感じだとそこまで極悪非道な感じはなかった。
どちらかというと、技将のほうが危険思想を持っていたような気がする。
そんな疑問が俺の中を駆け巡るが、頭がショートした。
まぁいい。俺の人生の台本は魔王を倒すことだ。
となりを見るとフルーレティーが飛んでいる。
あぁ、横顔もかわいい。
フルーレティーは、調和勢だと言っていたし、戦いたくない。あと、かわいいし。
勇者たちに向けていた般若のような顔で見られたら、俺は死んでしまう。
勇者がフルーレティーと戦うことになったらまた助けよう。
まぁ、魔王サイドから見た意見だから、西国から見たらまた見方が変わるのだろうか。
とりあえず、フルーレティーの領に行ってから、東国を離れよう。
今、進んでいる方角にひたすら進むと西国に入るはずだ。
このまま、東国にいても勇者の仲間になれることはないだろう。
まずは西国へと行き勇者を探さないと。
フルーレティーと離れるのは寂しいが、魔王討伐後また帰ってこればいい。
あとは、フルーレティーになんて言うかだけど。
ただ一つ決めているのは、東国と戦うことになってもフルーレティーは絶対に生かそう。
調和勢で害はないし、かわいいから。
西国に行くことは決めたが、行ってからどうするかも問題なんだよなぁ。
西国に行って勇者に出会おうものならすぐに戦闘になりそうだ。
まずは、誤解を解かなければいかない。
前途多難だぁ。
まずは、フルーレティーに領を離れることを伝えなくてはならない。
フルーレティーにいてほしいとねだられると、断れるか不安だが、こればかりは伝えなければならない。
なぜなら、勇者の仲間になり魔王を倒すことが私の唯一の台本であり、異世界での道しるべなのだから。
話の切り出し方が分からず、黙ってしばらく飛んでいた。
マグマが流れている渓谷を抜けるとフルーレティーから話し始めた。
「ねぇ。あんたも、馬鹿なの? 私は、魔王と戦うことになれば早々に降参しなさいと話したよね。力将や技将に感謝することね。あなた、力将が攻撃を受け止めてなかったら確実に死んでいたわよ。」
「魔王相手にどこまで通用するか試したかったんだよ。」
「はぁ。あなたが魔王に勝てるわけないでしょうが、魔王に勝てるのは、魔王か勇者だけよ。よく覚えておきなさい。」
勇者が魔王を倒すのは分かる。
「魔王が魔王を倒すのか?」
「正確には、次期魔王ね。」
「なら、さっきの戦闘で魔王を倒せれば俺は魔王になれたのか?」
「キャハハハハ。まぁ、そうなるけど。あなたが?まさか。」
そんな、ことはあり得ないとばかりに、フルーレティーは笑う。
あぁ、かわいい。
「そんなに笑うことはないだろ。今は勝てないかもしれないけど、これから勝てるようになるかもしれないじゃないか。」
あまりにも、フルーレティーが笑うから、少し意地になって言い返す。
「あぁ。ごめんなさいね。別に馬鹿にしているわけではないの。ただ、魔王になるには、才能、努力ともって生まれた身体能力が必要だわ。あなた、モコモッコ羊の角で魔王だなんて、想像したら。キャハハハハ。」
フルーレティーは、俺の角を指さして、ゲラゲラと笑う。
どうやら、モコモッコ羊の角をした魔王が誕生するなど、前代未聞で、
歴代一威厳のない魔王になること間違いなしだそうだ。
そこまで、言わなくてもいいだろうに、この黒くてちょうどいいサイズの巻角はそれなりにかっこいいと思う。
手で、大事に触れてみても、やはりいい。
「それで、良かったのかしら?」
「なにが?」
急にフルーレティーが、まじめな顔をする。
急に真面目な顔するのやめてほしい。
「何がって、あなた、私の側近になったことよ。もう気付いているでしょうけど、私の領には実力者が数少ないのよ。技将や力将には、馬鹿にされる始末だわ。だから、あなたと出会ったとき絶対に私の側近にするって決めたの。でも、あなたの旅の邪魔をするつもりはないわ。むしろ、旅に必要なものは支援させてもらうわ。その代わり、何か困ったことがあれば頼らせてほしいわ。窪地に縁のないあなたには悪い話ではないと思うわ。」
フルーレティーは俺の旅を認めてくれるようだ。
東国からすると敵国である西国に行くのは問題があるかと思っていたが、どうやら考えすぎだったようだ。
ありがたくこの提案に乗っからせてもらおう。
「なるほどねぇ。なら、そうさせてもらおうかな。」
「よし。ちょろい奴で助かったわ。」
「ん? 何か言ったか?」
フルーレティーが一瞬悪い顔をしていたような気がする。
「いえ。何でもないわ。これからよろしくね。」
異世界でも、握手の文化はあるようだ。
飛びながら右手を差し伸べてくる。
よく、飛びながら手を差し伸べてくるものだ。
アスタロートは、翼と腕がそれぞれ別になっており、翼が肩甲骨あたりから生えているが。フルーレティーは違う。
腕と翼が一体化した彼女は、飛びながら、右手を差し出すという芸当をやってのける。
流石、その体に慣れているだけあると感心しながら手を出す。
「あぁ。よろしく頼む。」
握手を交わしたアスタロートは、満面の笑みを浮かべていた。
あっ。かわいい。
アスタロートの領へ戻ってきたのは、異世界転生後二日目の夕方だった。
異世界にきてから初めての町だ。
実際には、空を飛んでいるときにいくつか村を上から見ていたが、それは上から見ていただけに過ぎない。
穏やかな気候の場所にある。
町の大外には簡易的な柵が設置されている。その内側に、田畑があり、人々が働いている。
居住区には、堀が設置されており、町の中心に大きな屋敷がある。
フルーレティーの屋敷だろうか。
空気が澄んでいるせいか、すごく見通しがよく、町の細かいところまで見える。
文明レベルは、中世レベルだろうか?
石造りやレンガ造り、木造の建物があるが、電気家具のような化学用品はないようだ。
 




