15. vs魔王決着
拳を振るうと、氷の衝撃波が前方に飛んでいった。
あたりが、白い蒸気でおおわれ、あたりの気温が一気に下がる。
拳に魔王が当たった感触はないのと同時に、左手で持っていた魔王の鎌から魔王の力が伝わってくることはない。
どうやら、逃げたのだろう。
ぐしゃ。
背中に、食い込んでいる鎌を抜き取る。
いててて。
背中からどくどくと血が流れているが、それほど痛くない。
アドレナリンが出ているからだろうか?
蒸気が晴れてきた。
あたりを見渡すために足を動かすとシャリシャリと音がする。
下を見ると、氷が張っている。
俺の魔法がそうしたのだろう。
蒸気の隙間から、少し装備が凍り付いた魔王が見えた。
それは、向こうも同じようだ。
「ガハハハハ。まさか武器を奪われるとはな。お前には全力をぶつけてもよさそうだ。」
「魔王様、奴は怪我をしております。ここまでかと。」
力将が声をかける。
「だまれ。貴重な新しい戦闘相手との機会を奪うな。まだやれるよなぁ。ハァァァ。」
魔王の魔力が今までとは比較にならないほど練りあげられている。
この魔力はまずい。
本能でわかる。
今の私ではとてもかなう相手ではない。
これが、彼らの言っていた暴走なのだろうか?
逃げに、専念するのだ。
「だぁぁぁぁ。」
魔王が、叫ぶと、何倍もの重力がかかったかのような負荷が体にかかる。
これでは、満足に動けない。
これが、魔王の力か・・・。
まずい。
魔王の拳に紫色のオーラが集まりより濃くなっている。
ここまで戦って分かったが、魔王の魔力にはものを引き寄せたり吹き飛ばしたりと引力や斥力のような性質がある。
そこから逃げ出すのは、無理だろう。
引き寄せられて終わりだ。
ならば、魔王の攻撃を避けるか、防御するしかない。
ありったけの、魔力を体に集めるが、魔王の魔力オーラの四分の一もまとうことができない。
一度にまとえる魔力の量が、瞬時に施行できる魔法の容量となる。
つまり、4倍以上ある。
魔力攻撃を四分の一以下で防がねばならない。
こんなことになるのであるならば、昨日異世界転生した場所でもっとトレーニングを積んでおくべきだった。
2将が言葉をかけて、魔王を止めようとするが、聞く耳は持っていない。
「さぁぁ。防いで見せよ。俺に刺激を与えて見せよ。」
体が、引っ張られる。
最初に引き付けられた力が、如何に手加減された力であったのかがわかる。
「バール!」
「あぁ。戦闘はもう終了だ。」
2将も止めに入ろうとするが、間に合いそうにない。
魔王の引き寄せる力で体が浮き、足では踏ん張れない。
羽で体を留まらせようとするも、一向に止まらない。
あとは、できることは防御するだけだ。
羽に力を入れ、羽に氷をまとう。
羽を盾にして防ぐのだ。
最後のあがきに魔王とアスタロートの間に氷の壁を作るも、魔王に粉砕される。
目前に迫る魔王の拳。
粉砕された氷の壁に足が届き、ほんの少しだけ、地面を蹴り拳の直線コースから外れる。
直線コースを少し外れたアスタロートを追うように、軌道が少し修正される。
2枚の羽を体の前に重ね合わせ縦のように構える。
「だぁ。」
ブゥゥゥン。
重低音と共に魔王の攻撃が羽をかすっていくのが目に見えるのと同時に、羽と胸に大きな衝撃が来る。
「ガハッ。」
理解が追い付かない。
なぜ、これほどまでにダメージを受けるのだろうか?
呼吸がままならない、耳なりも酷く耳が機能していない。
ただ、1つ明確に分かっていることは、魔王が空振りに終わった拳をそのままの勢いで1回転し拳をもう一度、アスタロートにめがけて振るっていることだ。
先ほどのガードで身にまとっていた魔力をすべて使い切ってしまった。
ブゥゥゥン。
衝撃にあらがうために、一部氷が崩れ落ちあちこちに羽が飛び出している翼を前に突き出し、その内側で両手をクロスにする。
異世界に転生して、二日で死ぬなんてまっぴらごめんだ。
生き残る可能性を捨てるつもりはない。
次の魔王の攻撃で翼は、駄目になるだろう、翼を捨てて生き残れるならそれでいい。
かすって、あの威力だ。
直撃なら死ぬかも・・・。
あぁ。もっと楽しみたかったなぁ。
せっかく、女性になれたのだ。
女性役などやったこともなかったから、楽しみだったんだけどなぁ。
アスタロートとあってから、ほとんど地の明日太郎の口調で接していた。
あれ? 攻撃が来ない?!
恐る恐る、目を開けてみると、
雷をまとった緑色の肌の鬼が立っていた。
バチバチバチ。
雷をまとい攻撃を防いだのだ。
「ベーゼル早くしろ!もう持たんぞ。」
「私は、お前ほど早く動けないんですよ。」
私の頭上にベーゼルが飛んでいる。
蠅の足で、私の体に吸い付くとそのまま魔王から離れていく。
魔王の攻撃音の重低音と雷がとどろく音がした。
「バール。これは、どういうことだ。」
「せっかく仲間になったものを、しかも最弱だった知将の武力を底上げしてくれる側近を、今日、殺すにはもったいない。」
「俺に逆らうつもりか?」
「いえ。忠誠心から進言しているのです。」
「もうよい。すまなかったな。」
魔王が、魔力を解き近づいてくる。
アスタロートは、壁際に横になって休んでいる。
バールは、外にいるウサコを呼び戻しにいっている。
「なかなか、良い腕をしている。私が本気を出して生き残るものは数少ない。今後、フルーレティーの側近として励むがよい。」
そういい終わると魔王は、少し考えたような表情をする。
「あぁ。最後の攻撃はよく躱したな。」
「ちょっと何なのよこの部屋。アスタロートは生きているんでしょうね。ベーゼルとバールがいながらなんでこんな惨状になってるのよ。」
フルーレティーとウサコが部屋に入ってきて、部屋の戦闘痕跡をみて騒いでいる。
室内は、半分以上凍り付きひび割れている。
ベーゼルが、フルーレティーとウサコを連れ戻してきたのだ。
「もちろん、生きていますとも。」
「ならいいわ。ウサコお願いするわ。」
いやよくないんですけど。
もう少し心配してくれてもいいんじゃないかな。
「はい。アスタロートさん、すぐに治療します。」
ウサコが血まみれになって倒れている俺のそばまで走ってきてくれる。
あぁ。
最初の出会ったときは、不愛想でぶつぶつつぶやいているメイドだと思っていたけど、ウサコお前はいい奴だな。
ウサコが、俺の体に手を添えて、回復魔法を施行する。
あぁ。体が温かくなっていく。
ボロボロになった、翼も背中の切り傷も呼吸もしにくかったがそれも治っていく。
治療が、終了し魔王が話しかけてくる。
「見事な。戦いだった。私も楽しくなって、少々自分を忘れてしまっていたようだ。無事で何よりだ。それと、おぬしは、勇者を撃退したと聞いていたが、勇者はどれほどの強さだった?」
魔王も、勇者の実力は気になるようだ。
「私が、魔法無しの力だけで蹴散らせるほどです。」
ここで嘘をついても仕方ないと思ったアスタロートは素直に答える。
魔王は、残念そうな顔をする。
「なるほどなぁ。勇者の資格を得たものは尋常じゃないスピードで成長するが、お主が身体能力だけで蹴散らせるということは、まだまだ実力はないようだな。私は、強い勇者との戦闘を所望する。弱い勇者は、不要だ。後日、勇者討伐部隊を送り出そう。その討伐部隊に勇者が負けるようでは、それはもう勇者ではない。追って連絡する。今日は、ご苦労だった。皆、各々の寮へ帰還するように。」
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