137. 勇者会議
「ねぇ。本当に良かったの?シープートさん本当に強いし、綺麗だったでしょ。」
アスタロートと別れた勇者メンバーは、しばらく拠点にしていた宿で封印の祠へ旅立つ準備をしていた。
シキがホムラに質問する。
シキの質問に思うところがあるのか、荷物整理しているホムラの手が止まり黙り込む。
「・・・。紋章が現れなかったんだ。共に旅をすることは避けた方がいい。今は付いてこれるかも知れないが、必ず付いて来られなくなる。情が湧いて、無理に連れて行くと不幸ごとになる可能性が高い。なら、はなから連れて行かない方がいい。シキも覚えているだろ。」
少し悩んだホムラの答えは、王都を出発する際に、前勇者パーティーの現王都騎士団長のセンリ様から教わったことだ。
前勇者パーティーはそういったルールを決めたのだ。
深くは聞かなかったが、センリ様の様子から何か不幸ごとがあったのは間違い。
何があったのかは分からないが、4人は誰かを亡くしたのだと考えている。
「そんなことは、分かっている。」
シキだって文字は読めないが、考えなしのバカではない。
そんなことは重々承知だが、それを考慮してもシープートというモコモッコ羊の亜人は魅力ある戦力だったのだ。
「分かってる。あたしも分かっているんだけれど。それでも仲間にいて欲しいと思えるほど、本当に強かったのよ。新種のトレントの根の攻撃を払う俊敏さに樹皮を一撃で砕く力強さ。将軍バッタを分断したときだって、あの時は引いていて気付かなかったけど、今思い返せば、あの群れを何回もの魔法で分断しきる持久力とオーラ量はあたし達を上回っていたわ。ねぇ、ガイモン。ガイモンだってそう思うでしょ。」
一緒にいたガイモンならきっと自分と同じ気持ちだと思ったシキはガイモンに同意を求める。
意見が半分に分かれたら話し合いになる、そうなったらシープートさんを仲間に入れられるかも知れないからだ。
シキからすると、いつも説得するのが大変なのは規律を重んじるライザーと論理的な思考を好むガイモンだ。
どちらかを見方に付けることが出来れば、意見が通る可能性がぐんと上がり、逆に2人と意見が対立するとまず意見が通ることはない。
それが、シキとホムラの中だけにある共通認識で、シキとホムラ、ガイモンとライザーで意見が分かれた場合は話し合いもせず、シキとホムラが降参する。
ただし、急な判断に迫られた場合はホムラが決めることが多い。
今回の場合、シープートさんの実力を十分知っているガイモンが賛同してくれる可能性が高く、規律を重んじるライザーは反対すると思ったからガイモンに話を振ったのだ。
ガイモンが賛同してくれたら、上手くライザーとホムラを説得してくれると思っての行動だ。
「あぁ。確かに、まだまだ高みはあると教えられた気持ちだな。シープートさんならば魔王討伐まで一緒に旅が出来るのではと思えるほどに強かった。」
「でしょ。ねぇ。今からでも、シープートさんを仲間に誘わない?」
「いや。もう決まったんだ。このメンバーでいこう。」
「ガイモンなら分かってくれると思ったのに・・・。」
唯一自分と同じ意見を持ってくれそうなガイモンだったが、シープートさんを仲間に引き込みたいのは自分だけのようだ。
まぁ、ガイモンも絶対反対って分けではないのだろうが・・・。
ふてくされた子供のように唇を尖らせながら、乱暴に荷物を整理し始める。
ガイモンが見方に付いてくれないなら、ライザーを説得するのは不可能だ。
「意見を変えて悪いが、ガイモンとシキがそこまで評価するなら、俺は仲間に加えてもいいと思う。」
今まで、口を挟まずに傍観を決め込んでいたライザーがシキに賛同する。
「えっ!!!」
期待していなかったところから賛成してくれたシキは、喜びで表情を和らげる。
「おい!ライザーどうした。お前らしくないぞ。この中じゃ誰よりも規則を重んじるのに。」
「えぇ。そうね。賛同してくれるのは嬉しいけれど、まだ、体調が悪いの?熱でもあるのかしら?」
誰もがライザーは反対するだろうと思っていたが、そのまさかだ。
ライザーの答えを信じられなかったホムラとシキは、体調がまだ悪いのではとシキの体を確認する。
「やめろ。俺はもう大丈夫だ。俺だって思うところはあるんだ。俺たちが負けたアスタロートっていう亜人は強かった。それこそピィカ様やセンリ様を彷彿させるほどには・・・。アスタロートとはそう遠くないうちにもう一度戦うことになるだろう。対アスタロート戦を考えるには少しでも仲間は多い方がいい。シープートさんが俺たちの旅について来られなくなるまでは、共に行動してもいいだろう。幸い向こうもそう申し出てくれているんだ。今から誘い直しても来てくれるだろう。」
「あらあらあら、正直ライザーが賛同してくれるとは思っていなかったわ。あたしを同じ意見なんて珍しいじゃない。どうしたの?いつもは規律だなんだのうるさいのに。少しは柔軟に考えられるようになったのかしら。」
シキが、ライザーの腕を肘でつつきながらいう。
「ふん。俺は、信頼のおけるガイモンの評価から適切に判断しただけに過ぎない。規律も大事だが、仲間の命には換えられないからな。」
「ちょっと、あたしの意見は参考にならないって言うのかしら?」
「まっまぁ、みんながいいなら、俺もシープートさんと一緒にいるのはやぶさかではないんだが。」
少し、顔を赤らめるホムラ。
「あれれぇ。さっきは生きて帰って来られるか分からない相手を待たせるのは悪いなんて言っていましたけど、もしかして見栄を張っていたんですか?本当はシープートさんに待っていて欲しかったのに見栄を張っていたんですか?」
ライザーとホムラが賛成してくれたら、もう決まったも同然だ。
「うっうるさいなぁ。俺だって男だ。美人に言い寄られたら悪い気はしねぇよ。お前だって、ピィカ様を見た時ニヤニヤしてたじゃないか。」
「当たり前じゃない。私がイケメンから結婚を申し込まれたら迷わず受けるわ。その時は勇者パーティー脱退ね。」
「おい。ちょっと待て、それは困る。」
「はぁ。ホムラ、俺は強いシープートさんを仲間に入れるのは賛成だが、お前が色恋にうつつを抜かして仲間に危険が及ぶようなら即刻シープートさんをたたき出すからな。」
「なっ。そんな言い方。いや、そうだな。分かってるよ。」
「で、どうするんだ?ホムラが仲間に入れたいなら俺はいいが、早くしないと出身地に帰ってしまうぞ。巣の場所は俺とシキが知っているが領に帰られてはもう諦めるしかないぞ。」
「もう。みんな公園ではあんなこと言っていたのに、本当は仲間に入れてもいいかもって思っていたんじゃない。まったく、素直じゃないんだから。」
「よし。今すぐシープートさんを迎えに行こう。まずは、先ほどの公園に行って、いなければ巣に向かおう。」




