135. 冒険王カード
アスタロートが頭上を見上げると、フルーレティーが無表情で羽ばたきながら降りてくる。
無表情で感情は読み取れないが、ノーズルンの話だと随分機嫌が悪いとか。
今日は厄日だ。
ノーズルンにも怒られ、フルーレティーにも怒られるのか。
ここは、笑顔を振りまいてやり過ごそう。
「アハハハハ。フルーレティー久しぶりだな。」
やべ、上手く笑えていない。
自分でも分かる顔が引きつっている。
ガシ。
フルーレティーは、アスタロートを逃がさないために、枝に止まる小鳥のようにアスタロートの肩に止まる。
随分乱暴な挨拶だ。
きっと、笑顔を振りまく作戦は失敗したようだ。
「久しぶりだな。じゃ、ないわよ。随分探したんだから。それで、私の前で言ったら怒られるって何よ。」
アスタロートの肩に止まったフルーレティーはお辞儀をするように顔を覗き込んでくる。
フルーレティーの顔が、逆さ向きに見える。
逆さ向きに見えるフルーレティーの顔から真下に髪が垂れ下がってくる。
あぁ、やっぱりフルーレティーが一番かわいいな。
カードで見るよりも実物を見る方がよっぽどいい。
あれ、そこまで怒っていない?
確かに、少し怒っているようだが、それは先ほどの発言に対してだけで、他のことに対してはそうでもないのか?
いや、どうなんだ。
憶測で楽観的に物事を捉えるのは止めよう。
「ほら、何ぼうっとしているのよ。さっさと質問に答えなさいよ。この肩握り潰すわよ。」
「イタタタ。鉤爪が食い込んで痛いです。」
先ほどの会話を聞かれたのだ、当然詮索が入る。
そりゃそうだろう。誰だって他人が自分の名前を出して会話していると気になる。
「いや、えぇ~とだね。」
適当にはぐらかそうとするが、ツチノッコンが視界の端でコソっと動く。
あちゃ。
ツチノッコンが、冒険王カードを背中に隠したのだ。
視界の端で、そんな怪しい行動をすると目に付くものだ。
「あら、ツチノッコン何を背中に隠したのかしら?」
ほらバレた。
「ヘロロロ。なっなんのことですか?フルーレティー様。」
何も隠していないことを証明するために、背中に隠していた手を見せる。
その手には何も握られていない、背中の後ろにカードだけ残して手だけ出したのだろう。
分かりやすい。
非常に分かりやすい。
行動もそうだが、目が泳ぎまくっている。
ツチノッコンの黒い瞳がグルグル回っている。
もう少し、何とかならないのだろうか、その態度では嘘をついていると公言しているに等しい。
「イダダダダ。」
急に肩に停まっていたフルーレティーの鉤爪が肩にめり込んでいく。
こいつ、本気で肩えぐるつもりですか?
鉤爪が食い込んで来ているんですが!
「ツチノッコン。正直に話さないとこうなりますよ。」
「ちょ、マジでイタいんですけど!」
「キャハハハハ。イタくしているんだから当然でしょ。」
だめだ、緩めてくれる気がしない。
「ツチノッコンたすけてぇぇぇ。」
フルーレティーが緩めてくれないとなると頼る相手はツチノッコンしかいない。
ツチノッコンと目が合う。
先ほどまで目がグルグル回っていたが、焦点を取り戻し、しっかりとしたまなざしをしている。
再び焦点を結んだツチノッコンのまなざしはキリリと引き締まっており、普段からは感じられない凜々しさを感じられる。
頼むツチノッコン、ちょうどいい言い訳をしてくれ。
「ごめんなさい。このカード、アスタロートに見せてもらってたんだけど、僕、何のカードか知らないんだ。フルーレティー様にバレないようにしろって、アスタロートが言うから、さっきは隠したんだ。」
ツチノッコンがカードを取り出してハキハキと喋る。
「へぇ。このカードをアスタロートがね。ツチノッコンは文字読めなかったわよね。」
「ヘロロロロ。僕、文字読めないからわかんないなぁ。大人の会話の邪魔しちゃダメだから僕はもう行くね。」
「えぇ。行っていいわよ。」
「おまえ、俺を売ったな!しっかりカードのこと知ってたじゃねぇか!くそぉぉ。覚えとけよ。」
あの凜々しさは何だったんだよ。
「はぁ。全くどこでこのカードを入手してきたのよ。しかもよりによってこのカード。あんた、このカードツチノッコンの他に誰に見せた?」
フルーレティーが写っているカードを見せてくる。
近い近い。
そんなに、近づけられると、逆に見えないよ。
このカードが見られるのがいやだったのか?
確かに、俳優として売れた際に、町中で自分の顔を見かけることが何度かあったが、気持ちのいいものではなかったな。
俺の場合は、自身の容姿に自信が持てなかったからなんだが、フルーレティーも同じような気持ちなのだろうか?
そんなときは、褒めてあげるべきだろう。
他人から褒められると自信が付いてくるものだ。
「ツチノッコンだけだ。とっても可愛らしいいいカードだと思うよ。」
「キィ!知っているわよそんなこと!」
「ヒィィ。」
どうしてだ。
褒めても効果はゼロだった。
「あんたも字、読めなかったわよね。」
「あぁ。そうだが、なんて書いてあるんだ?」
「はぁ。教えるわけないでしょ。書いてあることが気に入らないんだから!もしあんたが字を読めたら今頃死んでたわよ。」
「ヒィ。」
目が本気だ。
この世界に来て初めて文字が読めなくて良かったと思った。
「いや、おもちゃのカードを読まれただけでそんなに怒るなよ。もしかして、そのカードを見られたくないから冒険王カードを禁止にしているのか?」
「だったら何?悪いかしら。」
こいつ、開き直りやがった。
案外、子供っぽいところがあるんだな。
「いや、別にいいけど。」
どうやら、相当嫌なことが書かれているらしい。
カードの効果があんまり強くないのだろうか?
今度、西国に行ったら売っていないか探してみよう。
「はぁ。まぁ、いいわ。あんたが見つかって良かったわ。」
「ん?」
あれ、もう怒っていない?
「とりあえず、ここで話す内容ではないから場所を移すわよ。付いてきなさい。」
そう言って、空高く舞い上がったフルーレティーは空中で停まる。
「さぁ。早速本題だけど。極秘任務よ。」
「極秘任務!?」
いや、ここで話すの?
声は聞こえないだろうけど、極秘任務の内容、町のど真ん中だよ。
何人かに見られているけどそれでいいの?




