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133. 我が子の食事

ブチ。


ブチ。


ブチ。


「キャッキャッキャッ。」


「アスカさん。お羽根を抜くのが上手ですね。」


今もなお散々羽根をむしり取られているアスタロートは、悟りを開いていた。


生まれてまだ間もない子供に他人の痛みを理解しろという方が無理な話だ。


赤子に右の羽根をむしり取られたら、左の羽根を差し出そう。


とりあえずアスカの気が済むまでおもちゃになることに決めた。


我が娘が喜ぶなら、私は喜んで禿げようではないか。


ブチ。


アスタロートの背中によじ登り両手で雑草を引き抜くようにブチブチと引き抜いていくアスカ。


ノーズルンはアスカがアスタロートの背中から落ちないように4本の腕で支え、アスカの行動を助長させている。


「アスタロートさん良かったですね。最初は顔を見られてすぐに泣かれていたのに、もう随分と懐かれましたね。ほら、アスカさん、どんどん抜いていきましょうね。これで立派な魔人になれますよ。」


アスカ好きで俺の翼を抜くのはいいが、ノーズルンに抜いてもいいと言われるのは違う。


ノーズルンの発言に少し苛立ちを覚えたアスタロートは少し脅すことにした。


「今抜かれた羽根の分だけ、ノーズルンの毛も抜くからな。」


「!!!」


アスタロートが思っているよりも、低い声が出た。


少し脅すと言っても発言自体は冗談で、実際に毛を抜くつもりはないのだが、ノーズルンには冗談に聞こえなかったようだ。


「ッッツ!!!シュシュシュ。じょっ冗談ですよね。アスカさん、そろそろ止めてご飯にしましょうね。」


ほとんど抜くような毛なんてないのに、何を焦っているんだか。


ノーズルンは昆虫系の魔物が知性を獲得して魔人化した個体で、見た目がほとんど昆虫で、長い毛は生えていない。


生えていないのだが、手や足の先に触覚を感じる短い触毛が生えている。


指は3本あり、武器などは指でしっかり挟み込むようにして持つが、軽いものであれば触毛だけで持つことが出来る。


ノーズルンにとっては非常に重要な毛だ。


触毛なんて毛を知らないアスタロートは、羽根を抜かれた分、髪の毛抜くからな程度の感覚で話したが、触毛は髪の毛なんかよりもっと大切だ。


触毛がすべて無くなことは、人で例えると触覚を失うことに等しい。


人に例えるのであれば、髪の毛を抜いたらその仕返しに、視力を奪われるようなもので、いたずらの仕返しが全く釣り合っていない。


笑いながら返事をするも2本の腕をすっと背中に隠し、アスカをアスタロートの背中から下ろし、羽根を抜くのを止めさせる。


笑ってごまかしているが毛を抜かれるのがよっぽどいやなのだろう、手を隠すような仕草をしている。


アスタロートとしては、少し不機嫌なことが伝われば良かったのだが、手を隠すような仕草をされると気になるものだ。


「手に毛でも生えてたっけ?」


「はっ生えてないですよ。シュシュシュシュシュ。アスカさんに、ご飯をあげてきますね。」


アスタロートの巣がある木の根元に人が1人ギリギリ入れる穴が空いている。


この穴は、アスタロートが西国に旅立ってから、ノーズルンが作ったノーズルンの巣だ。


その穴は鍋蓋のような木の板で入り口が塞がれており、ノーズルンがアスカを抱えたまま足で蓋をどかして穴の中に入っていく。


ノーズルンは、アスタロートに毛を抜かれるのが嫌で、アスカの食事を理由に自信の巣の中に逃げ帰ったのだ。


「あぁ。ちょ。冗談だから、俺もアスカにご飯食べさせたい。」


後に続こうとするがアスタロ-トには穴は小さすぎる。


翼は引っかかって入りにくいが強引に入って行く。


頭だけ、巣の中にたどり着いたが中は思いのほか広く、大人3人がギリギリ入れるくらいの広さだ。


「ちょ、強引に入ってこないでくださいよ。私に触毛なんて生えてないですから。」


「いや、毛なんてもう抜かないから、それよりアスカに飯を食べさせるの手伝うよ。」


「まぁ、毛を抜かないならいいですけど、高さがないので座っていてくださいね。」


「あぁ。分かったよ。」


広さは大人3人が入れる程度だが、高さはあまりなく、アスタロートが座っても頭が天井に当たるため頭を傾ける必要があるくらいだ。


バクバクの巣もそうだったが、必要以上に大きな巣は作らないのだろう。


足を折りたたんで座っているとノーズルンが水を用意する。


木の根が傷付けられており、そこから滴っている水をココナッツのような大きな木の実を半分に割った皿に水が貯えられている。


部屋の端には、木の実や落ち葉や藁が綺麗に敷き詰められている。


床は土だが、良く締め固められており埃っぽくないし、部屋も全体的に綺麗だ。


土壁には綺麗な石ころや草葉で装飾がされている。


ノーズルンの趣味なのだろう。


見た目は、クリーチャーだが、以外ときれい好きでおしゃれ好きなのだろうか。


よく見ると、ノーズルンの服には小さなフリルが付いている。


今まで、気付かなかった。


辺りを物色していると食事の準備が終わったのか、食器と木の実とアスカを抱えたノーズルンが振り返る。


腕が4本あるって便利だな。


「この子、固形物は食べられないんですよね。この果実が食べられないなんてかわいそうです。」


「まぁ。まだ幼いし、そのうち食べられるようになるんじゃないか。」


「そうだといいんですけどね。」


水が入った木の実の食器を藁の前に置き、藁の上にアスカを寝かせる。


チャプン。


「おいおい。食器の中にアスカの足が入ってるじゃないか。」


アスカを寝かせる際に、木の根っ子みたいな足が食器の中に入る。


これじゃ不衛生だしすぐに足を出そうとするが、ノーズルンに止められる。


「アスカさんは、これでいいんですよ。」


「はぁ!?いやいや、これでいいわけないだろう。」


「シュシュシュ。アスカさん、固形物は食べられないですが、飲むのは上手なんですよ。じゃぁ、一緒に飲みましょうね。」


何がどうなっているか分かっていないアスタロートを放置して、ノーズルンも果実に管状の舌を突き刺す。


ズボ。


「はい。アスカさんも一緒にごくごくしましょうね。」


グチュジュルルルル。


ノーズルンがアスカに見せつけるように果汁をゴックンゴックンと吸い上げる。


ノーズルンの食事シーンは年齢規制が入りそうなグロさだ。


普通の子供が見たら絶叫ものだろう。


ほら、アスカが全身を強張らせている。


これは、盛大に泣くぞ。


クチュチュルルルル。


「はえ?!」


ノーズルンがいつも通り木の実の中身を吸い上げると、それを真似したアスカが足の根からかわいい音を起てて水を吸い上げる。


「おいおいおい、おーい!ストップ。ストーップ!」


自分の娘がとんでもない飲み方で水分補給をしていて急いで止めさせる。


変な癖が付いたら大変だ。









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