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130. 初めての砂浴び

全く、信じられない。


アスタロートはリザリンに対して悪態をつきながら森の中を歩いていた。


俺が待って欲しいと言っても、無理矢理お湯をかけて綿を取るなんて。


確かに綿を取って欲しいと言ったのは俺だが、あそこまで強引にすることはないだろうに。


おかげで、綿は全部取れたが、まだ少し接着剤が残っているのか、翼の所々痒い。


痒いところを手で触っているとやはり接着剤らしき粘着物が残っているのか羽根に固形物が付いている。


残っている固化した接着剤を手で一つ一つ取り除くのは大変だが、そうするほかないだろう。


一つ一つ丁寧に指先で接着剤を丸めて取りながら町に向かって歩いていると、不自然に乾燥した砂山を見つけた。


前世の自分であれば、なにも思わず通り過ぎていただろう。


誰もいないのを見たところ誰かの巣ではなさそうだが、不自然に盛られた周囲の地面と違う砂が盛られているので人為的に作られているのだろう。


何かの理由でここに集められたた砂なのだろう。


だがこの砂山を見た瞬間に、アスタロートはその使用方法を本能で察知していた。


この砂山に羽根をこすりつけたら気持ちよさそう。


ここに砂山を作った人も同じ砂浴びのためにこの場を作ったのだ。


キョロキョロと周囲に誰もいないことを確認して、背中を砂山に向ける。


こんな子供っぽいことしなくてもいいのだろうが、ほんの少しだけ、ほんの少しだけ試してみたい。


ドサッツ。


目をつむって背中から砂山にダイブする。


フカフカの雪を見れば誰もが一度は飛び込んでみたいと思うものだろう。


そんな子供じみた感情がアスタロートを襲ったのだ。


砂の一粒一粒が羽根の隙間に入っていき刺激する。


気持ちいい。


気持ちいいのだが、まだ足りない。


今、気持ちいいところは、背中と砂山に挟まれている羽根の付け根の部分だけだ。


どうすれば他の羽根も気持ちよくなるか、本能のままに羽根を砂山にくっつけるように広げて左右に転げ回る。


ぁあ。気持ちいい。


これだ。これだ。これ。


砂山の上でゴロゴロすると接着剤が残っていることによる体の痒さが解消される。


それに羽根に着いた接着剤や羽根に着いていた汚れが取れていく。


そこからはもう夢中だった。


水浴びが苦手な鳥は、本来砂浴びや日光浴で自身の羽根を手入れする。


そんなことは知らなかったアスタロートは、自らの本能で砂浴びを実施したのだ。


この感動は久しく感じない感動だ。


SNSで初めてファンから応援メッセージをもらったときと同じくらい気持ちいい。


すっかり砂浴びの虜になってしまったアスタロートは、一度立っては、もう一度背中から飛び込んだり、うつ伏せで寝転がり羽根をばたつかせ砂の中に潜り込んでみたり、山が崩れて平らになった砂地の上を右から左へと転がったり。


それに飽きたらもう一度羽根で砂山を作り背中から飛び込む。


楽しいし、気持ちいい。


夢中になって何度も繰り返し砂浴びをしているといつの間にか辺りが明るくなってきた。


時間を忘れさせるなんて恐ろしい砂。


朝日を見ながら大人気なくはしゃぎまくっていたことに反省すると同時に、こんな楽しくて気持ち良いことを今までしてこなかったことを悔いる。


これからは、毎日しよう。


そう決意したアスタロートの羽根は、朝日に照らされて艶やかに輝いていた。


少し名残惜しいが、接着剤もすべて取れた。


フルーレティーも俺のことを探しているみたいだし町に向かおう。


いや、やっぱりもう一回。


結局砂山を後にしたのは、太陽が頂点を過ぎた後だった。






もう見慣れた町の入り口に立っている案山子の魔人と挨拶をして町の中に入った、スタロートを待ち受けていたのは困惑だった。


「え!?」


訳が分からなく戸惑っているともう一度同じ答えがノーズルンから返ってくる。


「やっと、お母さんがかえってきましたよ。」


魔物ギルド前の木の巣に帰ってくると、ノーズルンが赤子を抱いて待っていた。


アスタロートを見て最初に言った言葉は、正確には赤子に向けて話していた言葉だが。


赤子のお母さんが帰ってきたらしい。


今この場で帰ってきた人物らしき人はアスタロートだけだ。


もしかして俺のことか?


いや、俺に子供などいない。


誰の子だろう?


ノーズルンの子か?


ノーズルンが抱いている赤子とノーズルンの顔を行き来させる。


いや、似ていない。


腕に抱いている、見知らぬ赤子、植物系の魔人なのだろうか全身が植物で構成されている。


アスタロートは何の花か知らないが、スイセンの葉でや茎で構成されている体は頭の上で小さな花のつぼみが出来ている。


もう、目は見えるようで丸々と太ったどんぐりのような目がアスタロートを認識して腕を伸ばし、あうあうとうめき声を上げる。


ノーズルンは母親が帰ってきたと言っていた。


そして、ノーズルンはメスだ。


つまり女同士で子は生まれない。


それこそ生命の神秘を超越しなければならない。


そうか。


誰かの子供を預かっているのだろう。


で、そのお母さんはどこにいるんだ?


辺りを見渡してもそれらしき人物はいない。


赤子の魔人を見ると俺のことが気になるのか造形物のような丸々とした葉っぱの手を伸ばしてくる。


「初めて会うけど、お母さんと認識しているみたいですね。」


赤子の魔人が指を伸ばす相手は俺だ。


つまり、お母さんとやらは俺のようだ。


「いやいやいやいや。どう見ても、俺の子じゃないだろ。」


俺はメスだが、卵も子供も産んだ覚えはない。


そもそも、俺と誰の子だって言うんだ。信じられない。


男と付き合うことも無理だと言うのにそんな、男との子供だって?


いやいやいやいや。脳が受け付けない。


課程をすっ飛ばすにしても程がある。


冷静になれ俺。







面白かった!

引き続き読んでみたい!

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勿論評価は、正直に感じた気持ちで大丈夫です。


何卒よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃんと草食と鳥の本能出ててかわいい。 あとはメスとしての本能だね♡
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