122. 冒険者登録
「あら~ん。シキちゃんじゃない。今日はどうしたの?」
青髯がうっすらと見える顎の近くで小刻みに手をふるオカマ。
「あ~。今日はこの子の登録に来たの。」
少し、嫌そうな顔をして抑揚のない声で、アスタロートを紹介する。
見るからにシキのテンションが下がっていく。
いや、気持ちは分かるけど、声の抑揚がなさ過ぎる。
これでは、オカマも感づいてしまうだろうし、失礼じゃないだろうか・・・。
アスタロートは心配してオカマの様子を伺うが、そんなことは気にしていないようだ。
おかまは、シキにウィンクを飛ばす。
「う~ん。そうなのね。シキちゃんは今日も元気がないのね。体調が悪いときは無理をしてはいけないわよ。」
坊主で青髯もあるおかまだが、まつげは長く真っ赤な口紅で化粧をしている。
たまに、こんな人いるけど、いざ目の前にするときついものがある。
「あっ。はい。後はお願いしますね。」
「分かったわ。後は任せて、シキちゃんは、食堂でご飯でも食べてくるといいわ。ご飯を食べると元気も出てくるわ。」
シキは、アスタロートの方へ申し訳なさそうな顔を向けながら立ち去ろうとする。
「え、シキさん?」
まさか、この場に私だけを取り残そうって言うんですか?
「最後まで付き合おうと思ったんだけど、ごめんなさいね。悪い人じゃないから、安心して。腕も確かだわ。結構有名な人なのよ。」
登録の手続きを手伝ってもらうはずだったのだが、シキさんはここでリタイアのようだ。
安心してって言われても・・・。
シキが去って行く姿にツヨシさんは手を振り続けている。
悪い人ではないようだ。
「じゃぁ。早速登録しま・・・。あらやだ、あなたよく見ると美人ね。」
「えっ・・・。」
おかまのツヨシがカウンターテーブルから身を乗り出して顔を近づけてくる。
反射的に一歩下がろうとするが、肩を掴まれて下がれない。
このオカマ、気付かなかったけど、かなり高身長だ。
身長の高いアスタロートと同じかそれ以上ある。
じろじろと見られると居心地が悪い。
このおかまは、遠慮というものがないらしい。
シキが苦手な理由が少し分かった気がする。
「うん。私の目に狂いはないわ。髪の手入れを怠っているようだけど、素材は抜群ね。特に肌がきれいね。何の手入れに何を使っているのかしら?」
「いや、特に何もしていないですが・・・。」
「なんですって!あなた、何もしないで、その肌を維持しているって言うの?うらやましすぎるわ。」
アスタロートの肌がうらやましいのか、吠えるおかまからつばが飛んでくる。
あぁ。いま、肌が汚れた。
「いや、あのすみません。放してもらっても?」
「あらやだ~。ごめんなさいね。嫉妬で我を忘れかけていたわ。ほら私、肌が粗いし青髯も目立っちゃうのよ。」
「あはは。それは、たいへんですね。」
「もう。簡単に流しちゃって、あなたの顔に青髯を描いちゃうわよ。あっそうそう、いいこと教えてあげるわ。」
オカマの目つきが変わり、周りを気にしながら近くに寄るようにと手で招き寄せる。
どうしたのだろうか?
周りに聞かれたらまずい話でもあるのだろうか?
「まだ公表されていない内容なんだけど、ギルドを出て3つ右隣の雑貨屋さんが、化粧品を取り扱うそうよ。それもめったに出回らない亜人用よ。」
「あっ、はい。そうですか。」
すごくどうでも良い話であった。
「かぁー。あなた分かってないわね。あなたの考えていることは大体分かるわ。あなた化粧品の匂いが苦手なんでしょ。でもね。亜人用は違うのよ!なんてったって、匂いがしないの。それに、目に入っても痛くないのよ。」
「・・・。」
だから何だよ。
じとっとした目でオカマを見つめる。
「あらやだ、本当に興味がないのね。あなた素材がいいんだから化粧をするともっとバエルわよ。」
親指と人差し指で顎を挟み、青髯をジョリジョリさせるオカマ。
「分かったわ。では、ギルドの登録をしましょうか。あなた、文字は読めるかしら?」
「いや。読めないんだ。」
「そう。じゃぁ。後で誰かに冒険者のルールを教えてもらうことね。」
「えっ?説明してくれるんじゃないの?」
「やーね。私が説明できるはずないじゃん。」
「何で出来ねーんだよ!」
「あらやだ。あなた私が誰だか知らないの?」
「ギルドの従業員じゃないのかよ。」
目を大きく開けて目をぱちくりさせるオカマ。
もしかして、有名な元冒険者だったりするのだろうか。
「私、イラストレイターのツヨシよ。」
「イラストレイターかよ!なんでこんなところにいるんだよ。全然関係ないじゃん!」
随分男らしい名前をしたオカマは、イラストレイターらしい。
オカマの顔が気になって気付かなかったが、このオカマはギルドの制服を着ていない。
おそらく、本当にギルド職員ではないようだ。
「あら、あなた本当に何も知らないのね。それに、私の名前を聞いてもピントきていないようだし。結構知名度は高いと思っていたのだけれど、ショックね。私はギルドカードの似顔絵を描いているのよ。本職は冒険王バトルカードのイラストを描いているわ。」
「へぇ。」
「はぁ。本当に知らないのね。子供の時に男の子達が冒険王してたんじゃないの?ほら、こんなカードよ。」
カードを見せられてもそんなものは知らない。
手のひらサイズのカードに絵と文字がプリントされている。
子供の頃に似たようなカードバトルがはやっていたが、似たようなものだろう。
そもそも、ん?プリントされている?
オカマからカードを受けとりまじまじと見る。
この世界は、魔法はあるが科学的な発展はそれほどしていない。
プリントされていると思えるほどに精巧に出来たイラストをよく見る。
本当に機会で作ったかのようなカードだ。
「この絵よく出来ているな。」
アスタロートが、まじまじとカードを見ているのを機嫌良さそうに見つめる。
「ふふ。本当に初めて見るようね。一体どんな田舎から出てきたのよ。まぁ、カードの良さは分かるようね。もし、私の絵を馬鹿にしたら、あんたのカードを作って販売してやる予定だったけど、その必要はなくなったわね。」
なにその脅し、怖い。
「その様子だと、イラスト魔法を見たことないようねっ。まぁ、レア魔法だしそもそも概念を知らなかったら魔法も使えないし無理もないわねん。いいわ。私がイラスト魔法を見せてあげるわ。」




