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118. 将軍バッタ

「ウォーターボール」


バシャ。


ガイモンが生成した水球を頭からかぶるアスタロート。


「ゲホッゲホ。ハー。落ち着いた。ありがとう、ガイモン。」


ガイモンのウォーターボールで全身を洗い流したアスタロートは、やっと将軍バッタの匂いから解放された。


アスタロートが体を貼ったかいもあり、無事町へと向かっていた群れの進路変更させることができ、今もなお地平線の奥に移動している将軍バッタの群れが引き起こす土煙が地平線の奥に見える。


将軍バッタの分断と分断した群れの進路を変えることはアスタロートの努力のかいあって成功した。


アスタロート達は、森を抜けた草原におり、町もよく見える。


今朝は、堀の周りに丸太を縦に並べた柵がきれいに建っていたが、今は所々倒れており中の様子が見える。


進路変更出来なかった、もう一つの群れが町を襲っているのだ。


町の方からは騒ぎが起こっているのだろう、町から離れた場所にいるアスタロートのもとまで物音が聞こえる。


「体調はどうだ?」


スンスン。


「まだ、将軍バッタの匂いがするけど、もう大丈夫。慣れたよ。」


アスタロートは濡れた髪をオールバックにして、髪を整える。


幸い接着剤で付けているモコモッコ羊の綿は取れていない。


水をしみこんだ綿は重く、手でねじって水を絞りだす。


髪と一緒に雑巾を絞るように綿にしみ込んだ水を出す。


髪を絞る際、綿が取れるか心配だったがしっかりと髪にくっ付いており、取れる心配はなさそうだ。


むしろ、本当に取れるのか心配になるレベルで固着している。


ツチノッコン特性の接着剤と話していたが、あいつがこんな強力な接着剤を作れるとは思っていなかった。


「よし、じゃぁ、今から町へ向かうぞ。」


「えぇ。そうね。正直もう歩きたくないくらいだけど、仕方ないわね。」


「シープートさんもよろしくお願いしますね。」


「正直もう行きたくないんですが・・・。」


「何を言ってるのよ。あなたの冷気を纏った咆哮良かったわよ。悔しいけど、あなたがいなかったら、分断も進路変更も出来ていなかったわ。今日頑張って明日ゆっくり休もうじゃない。」


ですよね。


分かってましたよ。


体に鞭を打って、走り出す3人。


徐々に町が近づいてきて、ガイモンがぽつりと呟く。


「ふふふ。案外、楽できるかも知れないぞ。」


「ガイモンが楽観視するなんて、珍しいじゃない。」


「そうだといいですけどね。」


まだ、町は遠く、どのような状況になっているか分からない。


「行ってみれば分かるさ、町にはホムラ達も騎士達もいる。それに、戦える物は騎士達だけではない。それに珍しいのは、シキ、お前もじゃないか。いつもなら、もう動けないとだだをこねる頃だろ。」


「ふふ、いいじゃない。新種のトレントを討伐して、将軍バッタの群れを半分退け、そして最後に町を救う。この働きは騎士団から感謝状をもらえるに違いないわ。」


「はぁ。お前が目当てにしているのは、感謝状と一緒にもらえる報奨金と品の方だろう。」


「えへへ。いいじゃない。もとトレジャーハンターの血が騒ぐのよ。きっと、中々お目にかかれない魔道具に違いないわ。」


流石の連戦続きに、2人にも疲れの色が見てとれる。


アスタロートも身体強化していても足が震えてきた。


それに、徐々に例の匂いもきつくなってきた。


「なぁ、ガイモン、シキ。何か匂いを感じなくなる魔法とかないのか?正直、あの匂いを嗅ぎたくない。」


「そんな、魔法はないかなぁ。」


「すまないが、俺も知らない。」


「そうか・・・。いや、ありがとう。我慢するよ。」


「すまないな。」


「あっ。ねぇ。ガイモン。ウォーターケージでシープートさんの頭を覆ったらいいんじゃない。」


「バカ、そんなことしたら、窒息で死んじまうだろ。」


「えぇ、じゃぁ、他になんかないの?シープートさんがかわいそうじゃん。」


「いや。無いならないでいいんだ。」


「そうがっかりするな、今ひとつ匂いを防げる魔法を思いついた。」


「えっ!本当に!」


嬉しそうに、ガイモンに心から嬉しそうな顔を向けるアスタロート。


「あぁ。今考えた創作魔法だから上手くいくか分からないが・・・。お前、本当に亜人か?亜人にとって将軍バッタは遺伝子レベルで、自分を見失うほど好きだと思うのだが・・・。」


「えっ、あっ亜人ですよ!」


本来将軍バッタは、異常なほど亜人達に好まれている。


そんな、将軍バッタの匂いも嗅ぎたくな亜人を初めて見た。


地元で将軍バッタが大量発生したとき、亜人達は皆、誰一人の例外もなく、踊り狂って喜んでいたのを覚えている。


「いや、しっかり自分は見失っていたのか・・・。すまない、将軍バッタの匂いが嫌だという亜人を初めて見たから、ついな。」


「誰にだって、好き嫌いくらいあるでしょ。シープートさんが亜人じゃなかったら何になるのよ。巻き角と白い毛が見えないわけ?失礼しちゃうわね。ガイモンはたまに好奇心から無神経なことを言うんだよね。気にしないで、悪気はないのよ。」


「あぁ、疲れていたみただ。すまない。じゃぁ、魔法をかけるぞ。」


「バブルボール。」


ガイモンが両手を突き出し、呪文を唱える。


片方の手にはスタッフをそしてもう片方の手は、ボールをイメージしているのか球を描くように動かす。


「おお。」


アスタロート頭は大きなシャボン玉に包まれる。


シャボン玉の膜は薄く視界はそれほど悪くないし、匂いもほとんどしなくなった。


「おぉ。ありがとう。」


「ねぇガイモン。あなた自分が言ったこと覚えているの?」


「あぁ。覚えているさ。そのままでずっといると、窒息する。窒息死する前に自分でシャボン玉を割るんだな。俺の側にいたらもう一度掛けてやる。」


「ありがとう。助かるよ。少し息苦しいけど、匂いのことを思うとこっちの方がいい。」


「さぁ、町まで、もう少しだ。行くぞ。」







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