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114. 新種のトレント戦

トレントの攻撃が止むと同時に岩壁から外に出て、周囲を確認する。


ここは、森だったはずだ。


トレントの周囲が更地になっている。


立木は、ほとんど原型を留めていない。


地面は苔むしていたが、木くずが薄く広く堆積している。


何もない更にになったためシープートさんはすぐに見つかった。


「クスッ。」


シキも見つけたのだろう。


後ろからクスリと笑い声が聞こえる。


生傷がたくさん付いているが、元気よく地面で溺れている姿が見えた。


本人は必死なのだろう。


その生傷の多さと岩壁が半分くらい砕かれているのが確認できる。


相当ギリギリだったのだろう。


今も、攻撃が止んだことに気づかず、何か叫びながらジタバタしている。


まさか、陸上で溺れている人を見ることになるとは思わなかった。


「シープートさん、落ち着いてください。もう、攻撃は止んでいます。」


シキの声を聞いて、初めてアスタロートはトレントの攻撃が止んでいることに気づく。


木々を粉々にしていた暴風の攻撃が止んでいることに安心してほっとすると同時に、攻撃が止んでいることに気づかず必死に地面でジタバタしているところを見られ、急に恥ずかしくなる。


クソ。


勇者達に強くてかっこいいところを見せるはずだったのに、とんだ失態だ。


だが、あの攻撃が止んだとなると怖いものはない。


あちこち葉っぱでかすり傷が付いたが、痒いくらいで動きに支障は無いが、動きほぼ拘束されて動けない。


トレントは相変わらず、アスタロートに狙いを定めている。


「俺が根を対処する。後は一撃で沈めろ。」


「はぁい。任せてよね。あたしの最強の一撃で沈めてあげるんだから!」


オーラを十分に纏ったシキはそのすべてを1本の弓矢に込め始める、オーラから魔法へと変換されていく矢は強い銀色の光を放っている。


「スカイチェイサー」


ガイモンがトレントの根が届かない一定の距離を保ちながら弧を描くように走りながら魔法を放つ。


先ほどと同じ魔法だが、魔法弾のサイズとスピードが先ほどより少しだけ速い。


「シープートさん。巻き込まれないようにジャンプはしないでくださいね。」


ガイモンが、アスタロートへ注意を促す。


先ほどのトレントの攻撃を防御している間に、オーラを回復したガイモンは、全力で魔法を放つ。


狙いは先程同様アスタロートの頭上を魔法弾が通過していく。


アスタロートの頭上を通過していく魔法弾は、シャンシャンシャンシャンと音を立てながらトレントへと飛んでいく。


シャンシャン飛んでいく魔法弾の音は、子供の頃アスタロートが想像していたサンタさんがソリで空を飛ぶときのそれと同じだ。


アスタロートは、一目見てすぐに気づいた。


確かに本気の一撃のようだ。


以前戦った時とは段違いに一つ一つの魔法にオーラが込められている。


トレントも魔法に込められたオーラ量に気づいたのか、アスタロートを狙っていた根が、魔法弾の方へ飛んでいく。


これが、正真正銘ガイモンの本気の魔法なのだろう。


トータルで込められたオーラは、先ほどのアスタロートが放った冷空衝撃波と遜色ないほどだ。


根のすべてが、ガイモンの放った魔法の対処へと動く。


先ほど、みっともないところを見られたばかりだし、このままいいところがなくては勇者パーティーに勧誘されないかも知れない。


一度殴ってトレントの硬度も大体分かった。


次は、かっこいいところを見せないと。


ガイモンの攻撃の後に、シキが最大火力の魔法を放つ。


時間を掛けて構築した魔法の矢は銀色の光を放っている。


「シキ!今だ!」


「センリの一矢。あたしの最大魔法を喰らいなさい。」


放たれた弓矢は、トレントめがけて一直線に飛んでいく。


トレントの根は、すべてガイモンの攻撃の余波で弾かれており対応できない。


根に邪魔されない矢は、真っ直ぐアスタロートが樹皮を削った場所へと吸い込まれていく。


シュトーーン。


シキの放った弓は、トレントの幹を半分以上削りトレントの樹皮全体に亀裂が入る。


動物タイプではない魔物の体力は今ひとつわかりにくいが、これは間違いなく致命傷だ。


その傷みに耐えるかのように、トレントの根が無造作にのたうち回る。


アスタロートの根に結ばれている根からも力が加わるが、無造作に動いており力に意思が感じられない。


おそらく、無造作に動く根は最後の断末魔のようなものだろうが、このままこの魔物は死ぬのだろうが、このまま死なせるわけにはいかない。


このまま、終わったら俺は、トレントに戦いを挑んだ最初は良かったが足を掴まれてもだえていただけだ。


なんとかして、仲間に誘ってもらえるようにしなければ・・・。


アスタロートの中の自己評価は低いが、トレントの根を引きつけたりトレント本体の動きをその場に引き留める役割をこなしており、二人の評価はそれほど低く、むしろトレントの一番堅い部位である樹皮を一撃で砕いたりと評価は高い。


そんなことは知らないアスタロートはトレントに怒濤の追い打ちをかける。


トレントに追い打ちをかけるアスタロートは二人にいいところを見せたいという気持ちもあるが、先ほどの失態を帳消しにしたいという表現の方が適切だ。


まだ、先ほどの失態で顔を少し赤くした状態のアスタロートが、トレントの根をかいくぐり、拳を強く握る。


トレントの意識が宿っていない根を避けることはたやすく。


一撃に意識を集中させる。


「よくも私に恥をかかせてくれたじゃないですか!これで、終わりです。怒りの爆殺拳!!」


アスタロートが今纏っているオーラをすべて消費して身体強化と拳に冷気を圧縮してためた拳は、トレントの残りの幹を吹き飛ばす。


ちなみに怒りの爆殺拳と適当に技名を叫んでおり、確かに怒っているのは正しいのだが、アスタロートは爆破属性を持っていないためインパクトと同時に爆発が起こるようなことはない。


支えを失ったトレントの上部は、そのまま森の方へ吹き飛んでいった。


大体25m位は飛んだだろうか。


少しやり過ぎたかも知れない。


振り返ると、シキとガイモンが口を大きく開けたまま固まっていた。





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