105. 勇者の仲間
「なぁ。あんた本当にここで一緒に暮らさないか?」
「えぇ。そうです。巣作りにも長けていますし、なにより魔物から町を守って欲しいのです。」
ミーナとウリちゃんと呼ばれた亜人ウタリが声をかけてくる。
「ハハハ。せっかくのお誘いだが、1人が好きでね。しばらくはゴクゴックツリーの上にある巣を拠点に行動するから、困ったことがあれば声をかけて欲しい。」
少し残念そうな顔をされてから、その後に微笑まれた。
その微笑みは、アスタロートが一緒に暮らさないことの諦めが含まれておらず、どちらかというと、小さな子供が変なことをしたときにの微笑に感じる。
なぜだ?
残念そうな顔をするのは分かるが、微笑まれたのが分からない。
「えぇ~。せっかくのモコモッコ羊の同士なのに・・・。残念です。」
「いつでも遊びに来たらいいさ。私はしばらくゴクゴックツリーにいるんだから。」
「クス。えぇ、そうね。」
なぜそこで微笑むのだ?
もしかして、モコモッコ羊の亜人が木の上で一人暮らしすることがそんなにおかしいのだろうか?
2人が笑っているのは、ゴクゴックツリーの名称に関してで、東国ではゴクゴックツリーで通っているが、西国では、ツルトラスカストタックという舌の噛みそうな名前が正式名称で、ゴクゴックツリーは言葉を覚えられないまたは、噛んで上手く発音できないこども同士で使う通称だからだ。
2人がなぜ微笑むのか分からなく頭をかしげていると、シキと騎士団長が話しながら近づいてきた。
「あんた、いつまでいるわけ?とっとと、帰りなさいよ。」
「いや、このまま帰れるわけ無いだろ。勘違いで町を襲いかけてしまったんだ。きちんと謝罪しないといけない。」
「へぇー。見た目の割にしっかりしているじゃない。」
「見た目の割には余計だ。」
騎士団長が、ウリとミーナの前に座り込んで頭を下げる。
「きちんと調べもせず決めつけて済まなかった。最近の情勢からお前達だと決めつけてしまったんだ。この通りだ、許してくれ。」
「ふん。シープートさんと勇者パーティーの方々がおられなかったと思うとぞっとするよ。勇者とそこのモコモッコ羊さんと話が付いたら帰ってくれ。行こうミーナ。カーーーペッ!」
イノシシの亜人のウリが、つばを吐き捨てるとそのまま立ち去って行った。
責め立てる気はないが、随分と怒っているようだ。
どうやら、騎士団長と話すつもりはないらしい。
「えっ、えぇ。」
ミーナはウリのつばが少し掛かった騎士団長さんを少し申し訳そうな感じで見つめながら立ち去っていく。
騎士団長は、それに対してじっと動じずに同じ体勢で座っている。
「はぁ~。自業自得ね。」
一連のことの顛末を見てシキが呟く。
「あぁ。シープートさんとお前達がいてくれて、本当に助かった。あのまま、騎士団が亜人を誰か捉えて連れ帰ったら、関係は修復不可能なものになっていただろう。」
ミーナとウリが立ち去ってから、再度頭を下げる騎士団長。
「あらあら、あんた以外と素直に自分の過ちを認められる奴なのね。」
「茶化すな。自分の過ちを認められない奴が、騎士団長なんぞ勤まるはずがない。」
「で、あんたは、これからどうするんだ?」
「悪役は、魔人を連れて町へかえるさ。町の連中に説明しないといけないからな。」
服に付いた泥をはたき落としながら立ち上がる騎士団長。
「説明ってあんたが何を説明するのよ?」
「俺たちは、騒ぎを見て、ここに駆けつけたんじゃない。詰め所にいたところ、草食系亜人達から襲撃を受けたと報告があったからここへ来たんだ。その報告をしないといけない。」
「なるほど、そういうことか。」
「ちょっと、ガイモンどういうことなのよ。」
「騎士団長は、住人の報告を受けて着たと言ったんだ。おそらく、草食系亜人の襲撃を受けたとでも言われたのだろう。」
「なによれ。じゃぁ、あんたはそのデタラメな報告を受けて動いたってことなの?はぁ。だから単細胞は駄目なのよ。」
鼻息を荒くするシキ。
「いや、それはすまなかった。」
「あら、随分素直じゃない。今回の件で貸し1ってことで、この間のお願い聞いてくれないかしら?」
素直に謝る騎士団長に意外そうな反応を送るシキにすかさず今回の貸しに対して何か要求しているシキ。
この陽気な女性は、抜け目がなく強かな女性のようだ。
2人の関係がどのような関係かは知らないが、見知った関係であるのは間違いないだろう。
そして、この男もそこまで悪い人ではないようだ。
また、騎士団と敵対してしまった家と思ったアスタロートにとって、今の関係はありがたいことだ。
「ふん、貸りは返すさ。だが、騎士団長の務めを放棄することは出来ない。そのお願いは、そこのバカみたいに強いモコモッコ羊のねぇちゃんにしたらどうだ?2人が復帰するまでの前衛を探しているんだろ。前衛職で、俺と同等かそれ以上だぜ。」
2人の会話を聞いていたら、思わぬ方向に会話が進んでいった。
もしかして、勇者の仲間になれる感じですか!
「えっ。そんなに強いの?あんたが手加減してただけじゃないの?」
「団長と同等の戦力なら申し分ないどころか、ありがたいのだが、本当なのか?」
シキとガイモンは、騎士団長の言葉を信じられないようだ。
「あぁ。本当だぜ、俺は手加減を一切していなかった。相手との間合いを瞬時に把握することの出来る優秀なモンクだ。モコモッコ羊の亜人であることが残念で仕方ないよ。」
騎士団長が本気で残念がっているようで、肩をがっくりと落とす。
「種族で判断しないで欲しいですね。モコモッコ羊だってやれば出来ます。」
アスタロートはモコモッコ羊ではないが、少なくても今はモコモッコ羊のシープートで、優秀なモンクだ。
役に入り込んでいるアスタロートは、自身のことをモコモッコ羊の亜人であると思い込んでおり、種族が原因で残念がられることは心外で不愉快だ。
「あぁ。すまない。悪気はないんだ。で、どうだ?シープートといったな。しばらくの間、勇者パーティーの前衛をしてみないか?」
「はぁ。なんであんたが話を進めてるのよ。」
団長がアスタロートを勧誘すると、シキが抗議してくる。
「お前達は嫌なのか?」
「シープートさんが良ければ、俺は大歓迎だ。」
「いやぁ。前衛で来てくれるんなら、ありがたいんだけれどねぇ。って、そうじゃなくて、あんたは部外者でしょ。なんで仕置きってるのよ。」
どうやら、シキは、アスタロートが一時的に仲間になることは反対ではないようで、団長が仕切っていることが気に食わないようだ。
すぐにでもよろしくお願いしますと、飛びつくように返事したかったアスタロートだが、グッとこらえる。
ここで、喰い気味に是非よろしくお願いしますと返事するのは、変なのだ。
シープートにとって勇者パーティーに入る理由がないのだ。
勿論アスタロートとしては、是が非でも入りたいのだが。
ここは、少し控えめに返事をしておこう。
「えぇ、勇者様のお力になれるのであれば、喜んで。」
勇者パーティーの2人は、花が咲いたように顔が明るくなる。
「へへっ。だそうだ。お前ら良かったな。じゃぁ、俺は帰るわ。」
騎士団長は、一仕事終えたような顔をして、立ち去る。
ガイモンは、自分が嬉しそうな顔をしていることをごまかすために、咳払いをし問いかける。
「俺たちは、騎士団長お墨付きのモンクが仲間に加わってもらえることは願ってもないことなのだが、本当にいいのか?」
ガイモンが質問すると、シキが顔を近づけてウキウキしながら返答を待つ。
あまりにも、肯定されることを前提とした様子を見ると意地悪して断りたくもなるが、ここはこらえて返事をする。
「はい。いいですよ。」
「いやったぁぁぁ~。これで、前衛ゲット。任務にもいけるね!」
シキが、立ち上がり喜ぶ。




