102. 摩擦
魔人達を捉えるために追いかけるか、騎士団と亜人の衝突を避けるために走るか悩むアスタロート。
アスタロートがその気になれば、両方を成し遂げることも出来るが、それをすると、アスタロートが隠そうとしている実力がバレる恐れがあることと、一度顔を合わせた魔人を引っ捕らえることに少し気乗りしなかったのだ。
犯人である魔人を連れて行けば騒ぎはすぐに収まるだろうが、そうで無いなら納めることは難しいだろう。
アスタロートが自身の行動に迷っているうちに事態はドンドン動いていく。
悩んだ末、アスタロートは、騎士団が向かった亜人達が住み始めたと言われている町の方へ走っていった。
町があると言われてた方角に向かって走って行くと、喧騒が聞こえてきた。
その場所にその場所に脚を向かわせると騎士団と草食系の亜人達が向かい合ってにらみ合っていた。
騎士団の矢面に立っているのは、先ほど出会ったイノシシの亜人で、横並びで体格の良い男達が並んでいる。
力の無い女や子供達は離れた場所で心配そうにことの成り行きを見守っている。
「くせぇ弾を投げた奴が、こっちの方へ逃げて行ったのは分かってるんだ。赤髪の奴を出しやがれ。そうだ、あとモコモッコ羊もいたぞそいつも出てこい。」
いや、モコモッコ羊なんていなかったですけど・・・。
「ほら、あいつだ。あそこにいるモコモッコ羊はいたぞ。捕まえるぞ。」
昨日、アスタロートの巣へとやってきたモコモッコ羊が指さされる。
あいつら、適当言いやがって、町の人間と草食系亜人達の中が急激に悪くなったと言っていたが、ここまでとは思わなかった。
モコモッコ羊にミーナを捉えようと進んだ騎士の腕を握り止める、イノシシの亜人。
力が強いのだろう。
掴まれた騎士団の1人は苦しそうな顔をして一歩も動けずにいる。
「ミーナはずっと巣にいたんだ。言いがかりも大概にしろ。」
「匿うというのなら、こちらも強硬手段にでるぞ。」
「やれるもんなら、やって見やがれ、草食系亜人の力を見せてやる。」
イノシシの女が騎士団を放り投げ、そこから、乱闘騒ぎが始まる。
流石は、騎士というべきかオーラで身体強化して手際良く次々と暴れる亜人達を拘束していく。
だが、1人だけ、拘束できずに暴れ続けているものがいる。
草食系亜人部門のスーパー金玉ベルト保持者のイノシシの亜人だ。
彼女はその恵まれた体格と鍛えられた肉体で複数の騎士達と対等に渡り合っている。
金色に塗られたおもおっも石を持ち上げる競技のチャンピョンである彼女は、数人の騎士をまとめて放り投げる。
すごい。アクション映画みたいだ。
亜人達の彼女への声援がそこら中から聞こえる。
正直、彼女だけで大丈夫かと思ったが、そうはいかないようだ。
騎士も草食系亜人部門のスーパー金玉ベルト保持者とはいえ、草食系亜人に負けたくはないのだろう。
騎士達は、武器を取り出して構え始める。
「これを最終忠告とする。これ以上抵抗するなら、私達も本気で戦わせてもらう。」
1人の騎士が武器を取り出したことで、両陣営とも静まりかえる。
今までの、行為は暴動の範囲で収まる範囲だったのだ。
けが人や死人が出たらもう止まることは出来ない抗争になるだろう。
それを、武器を取り出して戦うと言うことは、両者の関係にもはや修復できない傷を生むことになる。
「お前らマジかよ。そこまで、するなら私だって止まれねぇ。ここで、罪のない仲間を売り渡すほど私達は腐っちゃいねぇ。草食系亜人はどの種族より仲間を大切にするんだよ。ミーナに手を出すなら、私を殺してからにしな。」
「ウリちゃん、もう戦ったら駄目よ。」
ミーナがイノシシの亜人を止めようとするが、その声もむなしく両者動き出す。
これは、早急に止めないとまずいな。
今回の件悪いのは、クソ玉を投げた魔人達だ。
両者は関係ない。
関係の無いモコモッコ羊のミーナがいたかのような発言はいただけないが、それも両種族の関係の悪化が原因だろう。
そして、両者の関係悪化の原因はアスタロートにもある。
どう納めたらいいのか分からないが、死人を出すわけには行かない。
剣を構えた騎士がオーラを纏いイノシシの亜人に斬りかかっていく間に割り込んで、剣と拳を掴んで止める。
「両者、そこまでです。」
颯爽と現れたアスタロートに驚く両者。
「お、お前は、変わり者のモコモッコ羊。」
「ちっ。」
騎士は、攻撃を止められたことが気に入らなかったのか、オーラを込め魔法を撃とうとする。
その練度は、お粗末なもので、魔法が完成する前にアスタロートに蹴り飛ばされる。
「魔人が、弾を投げ込んでいるところをこの目で見た。魔人達は、もう森の奥の方へと逃げている。ここの亜人達は関係ない。」
「そうだ。俺たちは何もやっちゃいねぇ。」
アスタロートの声に、同調する亜人達。
「俺たちが、草食系亜人のそれも実行犯の中にいたモコモッコ羊の言うことを信じるとでも思うのか?」
「あぁ、よく見たら、見かけたモコモッコ羊はあいつじゃなくてお前じゃないか。」
「あぁ、そうだ。同種族の亜人の顔なんて区別が付かないから間違えるのも仕方ない。」
この騎士団達、あれだな。
屑だな。
アスタロートの中で、ぶちのめすことが決定した瞬間であった。
「はぁ、なら、私が全員相手にしてあげますよ。」
「おい、お前、本気かよ。いや、でも、今の動きは・・・。」
イノシシの亜人は、一人で騎士団の相手をしようとするアスタロートを諫めようとしたが、先ほどの動きを見て、もしかしたら勝てるのかも知れないと思いやめた。
「ふふふ。草食系亜人はどの種族よりも仲間を大切にするんだろ?ここは、私に任せてください。」
ぶつくさ言っているイノシシ亜人を置いて、騎士団の前へ一歩出ていく。
「さぁ。私が相手です。」
アスタロートは、拳を構える。
適当にいなして、強さを見せれば諦めて帰るだろう。




