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番外編


「はーい、あら西澤君と広瀬さん」

「こんにちは、おばさん」

「お邪魔します」




今日田沼の家に再びやって来た。




「うわ、なんだよいきなり?!」

「だからスマホくらい買っとけって言っただろ」

「ごめんね田沼、寄るって言われてさ」




田沼の部屋のベッドの下を覗くと……




「あ、あったあった」

「ああ、それか、やっぱ西澤のか」

「違うよ、母…… いや、おばさんにあげるやつだ」

「え? うちの母さんに?」

「ああ」




いきなり田沼の身体から自分の身体に戻ったからな、渡すのを忘れていた。 田沼の身体で田沼家の生活は俺にとって良かった。 田沼の母親も俺は嫌いではなかった。




最初こそ微妙な感じだったが暮らしていくうちにこれが母さんなのかなってそう思えるくらい親しくなっていた。




「マジで?」

「ああ、お前もうちの親と暮らしてたんならわかるだろ?」

「まあ…… なんとなくは」

「今ではこっちも改善したけどさ、俺も田沼として生活したんだし少しくらいはな」

「西澤がそんな風に思うなんて良いママなんだね、田沼のは」




広瀬が俺のそんな一面を見てついでに揶揄ってきたのでアイアンクローで黙らせる。




「あ、おばさん、良かったらこれ使って下さい」

「これ、私に?」




よく手が乾燥すると言っていたのでハンドクリームを渡した。 そんなのあるだろうしいきなり来た俺から渡されても困るだろうけど世話になったしな。




「ありがとうね西澤君」

「いえ、こんな物ですが」

「嬉しいわ、うちの誠司とも仲良くしてくれてありがとう。 いつでも遊びに来てね、西澤君なら大歓迎」

「はい」




田沼の家から出てると……




「西澤も嬉しそうだね」

「ん?」

「あーごめんッ! 揶揄ったわけじゃないからアイアンクローはよしてね!」

「まぁ嬉しいかな」

「え?」

「ちゃんとお礼出来たし。 まぁ安い礼だったけどな」

「いいんじゃない? 気持ちだよ気持ち! あとは自分の両親にもそう出来るようになれば完璧だね!」

「ああ」




広瀬からの遊びの誘いを受けてついでに来てみたけどよかっな、そう思っていると広瀬に手を引かれた。




「ね、あそこ行ってみよ」

「どこだよ?」




そうして広瀬に連れて行かれたところは田沼の時行った公演だった。




「ここかよ」

「田沼の時だったから今度は西澤と勝負したいな」

「今の俺からしてみればちんちくりんなお前とか?」

「ちんちくりんとか言うな! これでも女子の中では中間くらいの身長なんだから」

「じゃあボール取ってみろよ」




俺がボールを手に持ち腕を上げると広瀬は腕を必死に伸ばして取ろうとしているが取れない姿を見て楽しんでいるとジャンプをしてボールを取ろうとした。




「おっと」

「んむむむッ、ズルい西澤!」

「ほら、取れないだろ」

「あ! 百合〜」

「え?」

「隙あり!」

「なんてな」




小細工をして取ろうとしたみたいだがそんなの勿論通じない。




「引っ掛かってよぉ〜」

「ほら」

「わッ」




拗ねた広瀬にボールを渡す。




「じゃあ今度はあたしの番だね!」




途端に上機嫌になったので広瀬はドリブルしながら真っ直ぐ俺に向かって来た。




「なんだそのへなちょこドリブルは…… って」

「えへへ〜ッ!」




ボールを離した広瀬は俺に抱きついた、最初からそれが狙いだったのか。




「素直に言えば?」

「西澤絶対意地悪するもん〜ッ、だから不意打ち」

「よっぽど好きなんだな俺のこと」

「うん、大好き!」




恥ずかしげもなく広瀬がそう言って顔を上げて俺を見る。




「西澤は素直じゃないからあたしはいっぱい素直になったげるね」

「なんだそりゃ、甘えたいだけだろ?」

「そうだね、西澤にいっぱい甘えたいしあたしも甘やかしたい、西澤が寂しくならないように」




寂しいか。 前は誰かと繋がっているようで俺の心は繋がってなかった、それをお前が繋げてくれたからもう寂しくなんてないんだけどな。




「んー、西澤でもいいけどなんか特別な呼び方したいよねぇ、要だから…… よーちゃんだ! よーちゃんにしよう!」

「好きにしろよ」

「ふふッ、よーちゃん」

「はいはい、あかり」

「ッ! …… よーちゃん大好き!」


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